高速伝送システムの研究

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2020-11-02 JAXA

地球観測衛星の高性能化に伴い発生する大容量の観測データを地上に送るためには、高速伝送システムが必要とされています。特に、発災時における緊急観測によって得られた観測データは重要度が高く、 観測を行ってから短い時間で大容量のデータを地上に送ることができる高速伝送システムが必要になります。

本研究では、衛星-地上局間の伝送システムの高速化の研究開発を実施しています。

これまでの研究成果

これまでの成果としてX帯(8GHz帯の周波数)を使用した通信システムの高速化と小型軽量化を目指し、「高速マルチモード変調器(XMOD)」を開発しました。 このXMODは2014年に打上げられた陸域観測技術衛星2号「だいち2号」に搭載され、伝送速度800Mbps(2014年時点で地球観測衛星として世界最高レベル)を実現しました。

コンポーネントカタログ:高速マルチモード変調器(XMOD)

広報誌「宇宙開発最前線! Vol.4, 2014 Autumn」

第26回電波功績賞 一般社団法人 電波産業会 会長表彰「陸域観測技術衛星2号(だいち2号)搭載用合成開口レーダ及びデータ伝送システムの開発」

高速伝送システムの研究

開発した高速マルチモード
変調器(XMOD)外観

パドル展開中の「だいち2号」XMOD
により送信された画像

X帯の電波は降雨などの影響を受けにくい性質があることから、信頼性が高い通信が可能ですが、それ故に、使用する衛星数が増加し電波干渉問題が顕在化しつつあります。また、使用可能帯域幅の限界を迎えつつあります。

研究の意義価値

2020年代に必要とされる大容量データ伝送の要求に応えるために、地球観測衛星から直接または中継衛星を介して行うデータ伝送の大容量化を行います。Ka帯周波数を利用することで、地球観測衛星から地上局への伝送速度を平均8Gbps、 静止中継衛星から地上局へのデータ伝送速度を16Gbpsとしつつも、コンパクトな伝送システムを実現させます。

実現させる地球観測データ伝送システム

また、DVB-S2X規格*で用いられる伝送フォーマットを採用することで、世界中の多くの衛星オペレータで運用可能な通信システムを目指します。

*DVB(Digital Video Broadcasting)-S2X:欧州電気通信標準化機構(ETSI)が定める通信標準規格

研究の目標

1. 伝送速度向上技術
1-1. 多値変調方式(High-order Modulation)

だいち2号(ALOS-2)以降に使用されてきた16QAM(Quadrature Amplitude Modulation)方式で実現した周波数利用効率 4 [bit/s/Hz] を1.5倍の 6 [bit/s/Hz] 以上に高めることで、さらなる高速化を実現します。 衛星搭載機器の低リソース化のため、QAM方式よりも信号歪みに強い、APSK(Amplitude Phase Shift Keying)方式を採用します。

変調方式の多値化による周波数利用効率の向上

1-2. 伝送路多重化

最も効率よく伝送容量を向上させるために、Ka帯を利用した帯域幅の拡大(X線利用時の4倍)を行うだけでなく、偏波多重化を組み合わせた広帯域化を図り、1受信局あたり最大3GHzを利用した伝送を行います。

多重伝送路の構成案

2. 受信SNRの改善

衛星の等価等方輻射電力(EIRP)は電波法で定められる電力束密度よりも大きくできない(PFD制限)ことから、広帯域化およびKa帯電波の降雨減衰を補償するために、通信品質に必要なSNR(信号対雑音電力比)の低減を図ります。

2-1. 衛星増幅器の低歪み化(Linearization)

電力増幅器の入出力特性の非線形性を事前に補償するディジタル・プリディストーション(DPD)技術を適用することで、電力増幅器を最大出力電力付近で動作させたときに増幅器出力に現れる信号歪み成分を抑圧します。 これにより、高出力と高品質を両立させるだけでなく、消費電力の低減を実現できます。

ディジタル・プリディストーション(DPD)により低減された信号歪み

2-2. 高利得誤り訂正符号

誤り訂正符号を従来使用してきたReed-Solomon符号から、LDPC(Low Density Parity Check)符号とBCH符号の連接符号に変更することで、通信経路上で生じるビット誤りをより多く訂正可能とし、 要求される通信品質の実現に必要となる受信信号電力を低減します。

3. 伝送方式の最適化による通信路容量の最大化

従来の固定符号化率変調(CCM)方式から、事前に決められた仰角等で通信速度の切替えを行う可変符号化変調(VCM)方式や、降雨等の電波環境の条件に対して適応的に通信速度の切替えを行う適応符号化変調(ACM)方式、 再送制御等の地上システムとの連携が必要な通信速度制御技術の導入により、与えられた通信システムで実現される通信路容量を最大化します。

地球観測衛星におけるACM方式の運用イメージ(変調方式、伝送速度は一例)

発表論文等
  • Kazuya Inaoka, Masashi Shirakura, Yoshiyuki Tashima, Tomohiro Araki and Masaaki Shimada, “Study on an Ultra High Speed Transmission System for Earth Observation Satellites”, The 18th Ka and Broadband Communications, Canada, 2012.
  • 田島成将, 稲岡和也, 荒木智宏, 島田政明, 谷島正信, “地球観測衛星用Ka帯高速伝送システムの検討:LDPC符号、VCM/ACMの検討”, 電子情報通信学会技術研究報告, SANE, 宇宙・航行エレクトロニクス Vol.113 No.88, p.11-16, 2013.
  • Masanobu Yajima, Mitsuhiro Nakadai, Yoshiyuki Tashima, Nobuhiko Ando, Shigenori Tani and Akinori Fujimura, “Performance Evaluation of Ka-band Satellite Communication Subsystems Using Digital Pre-Distorter”, The 7th ESA International Workshop on Tracking, Telemetry and Command Systems for Space Applications (TTC 2016), Netherlands, 2016.
  • Masanobu Yajima, Mitsuhiro Nakadai, Yoshiyuki Tashima, “Experimental Evaluation of Non-linear Distortion Compensation Using the WINDS Satellite”, The 31st International Symposium on Space Technology and Science (31st ISTS), Ehime, 2017.
  • Chihaya Kato, Mitsuhiro Nakadai and Masanobu Yajima, “Performance Evaluation of ka-band Telecommunication Subsystems for Earth Observation Satellites”, The 23rd Ka and Broadband Communications, Italy, 2017.
  • 加藤智隼, 中台光洋, 谷島正信, “仰角毎に変調方式のみを可変とするVCMシステムの検討”, 電子情報通信学会技術研究報告, SANE, 宇宙・航行エレクトロニクス Vol.118 No.105, p.33-37, 2018.
  • Chihaya Kato, Mitsuhiro Nakadai and Masanobu Yajima, “Investigation of the Framing Structure on High-speed Ka-band VCM System for Earth Observation Satellites”, The 24th Ka and Broadband Communications, Canada, 2018.
0303宇宙環境利用1604情報ネットワーク
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