室温28℃でも湿度を下げれば疲労軽減に有効であることを実証

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2020-05-28 ダイキン工業株式会社,理化学研究所

理化学研究所(以下、理研)とダイキン工業株式会社(以下、ダイキン工業)の連携組織である「理研BDR-ダイキン工業連携センター※1」は、2017年より取り組んでいる快適で健康な空間づくりに向けた共同研究において、夏季のオフィス環境における快適性や疲労の改善に有効な温度・湿度を検証しました。
昨今、省エネの観点からオフィス空調の設定温度を高めにすることが推奨される一方で、多くの人が蒸し暑さを感じ、作業効率の低下や疲労の蓄積を感じているといわれています。
温度・湿度が人に与える影響については、これまで行われてきた検証の多くが「快適性」といった心理的な評価によるものでした。そこで今回の試験では、ヒトの「疲労」への影響に着目し、心理的評価に加え、心拍変動から推定される自律神経活動などの生理的評価も分析し、複合的な側面から検証を行いました。
その結果、室温28℃でも湿度を55%以下に保てば快適性が向上し、さらに40%以下であれば疲労も軽減できることが実証されました。

試験結果のまとめ
  • 夏季に想定される環境では、室温が上がると、心拍数や自律神経活動など体温調節機能に関わる生理的な負荷が高まります。一方、同じ温度であっても、湿度を下げることにより心身の負担を軽減できる可能性が示されました。
  • 特に28℃や30℃など暑さを感じやすい環境においては、湿度を下げることで、体感温度が低下することを確認し、それに伴い不快感や疲労が軽減されることがわかりました※2

これらの結果から、調湿機能の付いたエアコンや換気設備、除湿器を上手に活用することで、夏のオフィスをより一層、快適・健康な空間にすることが期待できます。なお、湿度コントロールが難しい環境においては室温を26℃まで下げることで、快適性の向上や疲労の軽減といった効果が見込まれます。

今後の取り組みについて

今回の実証試験では、空調が保たれた室内で一定時間過ごすことを想定し、固定した温湿度環境下での快適性、疲労感、自律神経活動を評価しました。
しかし実生活では、屋外から屋内への移動など、さまざまな温度差にさらされて、体調に悪影響が生じる場面があります。現在、体温調節のメカニズムの解明に向けて、こうした激しい温度差による人体への影響を評価する試験も行っており、これらの結果については第16回日本疲労学会総会(2020年11月7日-8日、神戸市)にて、理研とダイキン工業が共同で発表を行う予定です。また、全体の成果は、論文誌・学会誌などに投稿予定です。
ダイキン工業では今回の研究成果を応用した製品・ソリューションの開発も進めています。

※1
理研とダイキン工業が2016年10月に開設した連携事業「理研-ダイキン工業健康空間連携プログラム」から創出されたテーマである「抗疲労空間の構築」を目的に、理研の連携センター制度により「理研CLST-ダイキン工業連携センター」として2017年6月に設立。2018年4月、理研生命機能科学研究センター(BDR)の発足に伴い現在の名称に変更。
※2
この成果の一部は、2019年の第15回日本疲労学会総会で発表された。「夏季の温度湿度環境がヒトの疲労に与える影響」森戸勇介他、第15回日本疲労学会総会、2019年5月18日、於:大阪市。
試験詳細

一定の温湿度環境と、ヒトの疲労度との関係を明らかにすることを目的とした実証試験を実施した。疲労の評価については、ヒトの主観に基づく心理的な評価指標と、課題成績や心拍変動解析を用いた自律神経活動等の生理的な指標を用いた。パソコン操作など集中力を要する作業を与え、温湿度環境がおよぼすヒトへの心理・生理的な影響を検証した。試験は、ダイキン工業の空調制御技術により精緻に統制された温湿度環境内で、夏季の一般的なオフィスの環境を想定し、室温24℃から30℃、湿度40%から70%の範囲で行った。

1)検証方法

試験環境として温度4条件(24、26、28、30℃)と湿度3条件(40、55、70%)を組み合わせた計12条件の温湿度環境を設定した。健康な成人の参加者(男性57名、女性57名、年齢 40.6±12.5歳)に協力をいただき、疲労負荷をかける認知課題(Advanced Trail Making Test)を与えて、10分ごとに疲労感や快適性などについての心理的な評価を行ってもらった(図1)。試験中は携帯型の心電計を装着することで、疲労に伴う心拍変動を常時記録した。また自律神経支配を受ける心拍間隔の周波数解析を行うことで、疲労に伴う自律神経バランス状態を推定した。

室温28℃でも湿度を下げれば疲労軽減に有効であることを実証

図1:試験条件と課題概要

試験のプロトコル

図2:試験のプロトコル

図2:試験のプロトコル

温湿度12条件での試験を行った。それぞれの環境下で、試験開始前に試験環境に体を慣らすため10分間の順化時間を設け、試験の開始と終了時には安定した心電波形を得るため5分間の安静時間を設けた。試験開始後は10分間の認知課題を計6セット繰り返して実施し、その前後に2分間の心理的評価を行った(図2)。

2)検証結果
心理的な影響の検証

〇体感温度
30℃条件では湿度を低くするほど体感温度が低く感じられた。28℃条件では湿度を55%以下に調節すれば、より涼しく感じられることが確認された。

図3. 調湿による体感温度の軽減

図3. 調湿による体感温度の軽減

〇不快感・疲労感
快適性については、26~30℃までの幅広い室温条件において、湿度を下げることで不快感が軽減されることが明らかになった。
疲労感については、室温28℃、湿度40%の条件下において顕著な低下が見られ、55%以下でも軽減の傾向が見られた(図4)。

図4. 調湿による疲労感と不快感の軽減効果

図4. 調湿による疲労感と不快感の軽減効果

生理的な影響の検証

〇自律神経活動LF/HF

図5. 温湿度に対する自律神経指標

図5. 温湿度に対する自律神経指標

これまでの研究からも、心拍数は室温の上昇に伴って増加することが知られているが、自律神経活動の指標となるLF/HF値についても有意な上昇がみられた。この結果は室温の上昇に伴って体温調節機能を司る自律神経系への負荷も増加している可能性を示している。

図6. 調湿による生理的影響

図6. 調湿による生理的影響 ※24~30℃の主効果

一方で、夏季に想定される温度環境(24~30℃)では湿度を70%から40%に下げることで、心拍数に関する有意な抑制効果がみられた。自律神経指標については、個人差が大きく低減の傾向のみが確認できた。これらの結果から、室温のみならず湿度を調整することで心拍数の上昇が抑えられ、身体への負荷を下げられる可能性が示された。

性別による違い(心理的影響の検証)

男性は24-26℃、女性は26℃で最も快適性が高くなる傾向がみられたが、女性の場合は、28℃でも湿度を55%以下に抑えることで、室温26℃の時と同等の快適性を感じられた。一方で、男性は28℃で調湿するよりも温度を24-26℃に下げる方がより良い評価が得られた。
また湿度40%の環境下では、女性の場合、温度を24℃まで下げると評価が悪くなったが、男性は女性の時に示された不快感の増加は見られなかった。
これらの結果から、夏季の作業環境においては、室温だけでなく湿度を下げることが不快感の軽減につながると言えるが、男女の基礎代謝の違いにより、女性の場合は24℃まで下げてしまうと、寒さで不快に感じる人が増えることが確認された。

図7. 性別による違い

図7. 性別による違い

報道機関からのお問い合わせ先

ダイキン工業株式会社 コーポレートコミュニケーション室

機関窓口

理化学研究所 広報室 報道担当

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