2025-02-26 東北大学
大学院理学研究科 地球物理学専攻
博士後期課程1年 古林未来(こばやしみらい)
【発表のポイント】
- 火星全球気候モデル(注1)に浅部地下への水輸送過程を組み込み、有人探査に向けての重要な知見となる火星表層の水分布を推定しました。
- 塵(ちり)や砂などから成り火星の表層を覆う吸着性(注2)の高い堆積層(レゴリス)(注3)粒子が水を安定的に保持し、吸着係数(注2)の全球的なばらつきが地下水分布の不均一をもたらすことを示しました。
- レゴリスの吸着性が水の拡散速度を低下させることにより、火星の水の歴史において長期的な水の保持に寄与していることを示唆しました。
【概要】
人類の到達を見据えた今後の火星探査において、利用可能な表層の水分布を把握することは非常に重要です。また、火星の水環境の形成を理解することは、火星がかつての温暖・湿潤な環境から現在の寒冷・乾燥な環境に至った変遷のメカニズムを解明する鍵となります。
東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻の古林未来 大学院生と黒田剛史 助教らの研究グループは、火星全球気候モデル内にレゴリスの物理特性(ここでは吸着性など)が緯度によって不均一であることを考慮した地中水拡散モデルを新たに開発し、地下2 mまでの水分布を推定しました。その結果、吸着性の高いレゴリスが豊富な吸着水を安定的に保持し、火星周回機で観測された水素分布は吸着係数の全球的なばらつきによって定性的に説明できることが示唆されました。さらに、中・高緯度においては、レゴリスの吸着性が氷を地表付近に保持する役割を果たすことを明らかにしました。本研究が示した吸着性の高いレゴリスが地中水蒸気の拡散速度を低減させる働きは、火星の水環境変遷における重要な要素であり、長期的な水の保持に寄与した可能性があります。
本研究成果は、2025年2月25日に科学誌Journal of Geophysical Research: Planetsに掲載されました。
図1. 火星表層の地中水拡散モデルおよび結果の概略図。本研究により、吸着性の高いレゴリスが水を安定的に保持し、吸着係数のばらつきが地下水分布の不均一をもたらすことが示された。さらに、レゴリスの吸着性が中・高緯度において氷を地表付近に保持する役割を果たすことが明らかになった。
【用語解説】
注1. 火星全球気候モデル:火星の大気・表層における比較的大きな気象現象を三次元空間で再現する数値モデル。
注2. 吸着性、吸着係数:本研究における吸着とは、分子間力によって水分子がレゴリス粒子の表面に物理的に捕捉される現象を指す。吸着性とは、レゴリスが水分子を吸着する能力のこと。吸着係数とは、吸着のしやすさを表す指標のこと。吸着された水のことを吸着水と呼ぶ。
注3. レゴリス:惑星の表面を覆う堆積層。主に塵や砂、破砕された岩石から構成される。
【論文情報】
タイトル:Large water inventory in a highly adsorptive regolith simulated with a Mars global climate model
著者: Mirai Kobayashi*, Arihiro Kamada, Takeshi Kuroda, Hiroyuki Kurokawa, Shohei Aoki, Hiromu Nakagawa, and Naoki Terada
*責任著者:東北大学大学院理学研究科 大学院生 古林 未来(こばやし みらい)
掲載誌:Journal of Geophysical Research: Planets
DOI:10.1029/2024JE008697
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻
大学院生 古林 未来(こばやし みらい)
東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻
助教 黒田 剛史(くろだ たけし)
(報道に関すること)
東北大学大学院理学研究科
広報・アウトリーチ支援室