高信頼性・超高感度なダイヤモンド製マイクロマシンセンサの実現に向けて前進
2018/10/30 物質・材料研究機構
NIMSは、室温で世界最高レベルの高品質因子 (Q値) を持つダイヤモンドカンチレバーおよび世界初の電気信号による駆動と、センシングを一体化した単結晶ダイヤモンドMEMSセンサチップの開発に成功しました。
概要
- NIMSは、室温で世界最高レベルの高品質因子 (Q値) を持つダイヤモンドカンチレバーおよび世界初の電気信号による駆動と、センシングを一体化した単結晶ダイヤモンドMEMSセンサチップの開発に成功しました。本成果は、既存のシリコン製MEMSの感度や信頼性を大幅に向上させるダイヤモンドMEMSという新しい分野を開く成果として期待されます。
- 微小な梁の一端が固定されたカンチレバーと、電子回路を1つの基板上に集積化したMEMSセンサは、ガスセンサや質量分析装置、走査型顕微鏡プローブなどに使われています。今後、防災や医療などの分野で応用が見込まれており、感度や信頼性のさらなる向上が求められています。ダイヤモンドは、弾性定数、機械的硬度等が物質中で最高値を有する材料であり、高信頼性、高感度なMEMSセンサの実現が期待できますが、その硬度から3次元での微細加工が困難でした。本研究グループは、イオンビームを用いた加工技術「スマートカット」を開発し、2010年に単結晶ダイヤモンドのカンチレバー作製に成功しました。しかし、表面の欠陥などが原因で感度は既存のシリコン製のカンチレバーと同等程度でした。
- 今回、ダイヤモンド表面を原子スケールでエッチングする技術を新たに開発し、スマートカットで加工した単結晶タイヤモンドのカンチレバー表面の結晶欠陥を取り除くことで、感度を表す品質の指標「Q値」で世界最高レベルの100万以上の値を持つダイヤモンドカンチレバーの開発に成功しました。さらに、カンチレバーを振動させる回路と、振動をセンシングする電子回路を同時にカンチレバー上に集積化する新たなMEMSデバイスコンセプトを提案し、世界で初めて電気信号で駆動する単結晶ダイヤモンドMEMSチップの実証実験に成功しました。開発した単結晶ダイヤモンドMEMSチップを実際に駆動させたところ、高感度、低い動作電圧、高温動作 (600℃) などの非常に高い性能を示しました。
- 今後、本研究成果をもとにダイヤモンド製のMEMSチップ実用化に向けた基盤技術を確立することで、単分子の質量の違いを検知できるような超高感度で、高速・小型かつ信頼性の高いセンサなどへの展開が期待できます。
- 本研究は、NIMS 機能性材料研究拠点の廖 梅勇主幹研究員、呉 海華NIMS研修生、寺地徳之主席研究員らと、国際ナノアーキテクトニクス研究拠点 (MANA) の桑立雯独立研究者、技術開発・共用部門の小出康夫部門長、東北大学 戸田雅也准教授によって行われました。この研究の一部は、科研費補助金(基盤B JP15H03999)、TIA連携プログラム探索推進事業「かけはし」の支援を受けて得られたものです。 本研究成果は、Physical Review Materials誌 (現地時間2018年9月28日公開、Editors’ Suggestionに選出) と、Advanced Materials Technologiesオンライン版 (現地時間2018年10月29日公開) にてそれぞれ公開されました。
プレスリリース中の図 : 開発したダイヤモンドMEMSチップ全体と、ダイヤモンドカンチレバーの顕微鏡写真