2体のしめじが近づくと感情豊かにみえる~外見があまりヒトらしくない対象でも動きが加わると、 見る者は強く"感情"を読み込む~

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2024-08-13 東京大学

発表のポイント
  • 先行研究では、ヒトでない対象が感情を持っているように感じる現象(感情の読み込み)を引き起こす要因として、形状と動きが別々に検討されてきました。それに対して本研究では、形状と動きの両方を変化させた場合、感情の読み込みがどのように観測されるかを実験的に検討しました。
  • 分析の結果、概要図にあるしめじのように、形状の面ではあまりヒトらしくない対象に、近づく(≒抱きしめる)、離れるという動きが付与されると、見る者は感情を強く読み込む現象が観測されました。
  • 本研究で得られた知見は、感情豊かに見えるエージェント(ロボットやバーチャルキャラクター)のデザインに大きく貢献することが期待されます。

2体のしめじが近づくと感情豊かにみえる~外見があまりヒトらしくない対象でも動きが加わると、 見る者は強く"感情"を読み込む~

概要図:形状のヒトらしさが中程度であるしめじに動きが加わると、見る者は感情を持っているように感じました

概要

東京大学大学院総合文化研究科の植田一博教授、同大学院学際情報学府の今泉拓大学院生と、立命館大学総合心理学部の高橋康介教授らによる研究グループは、ヒトでない対象が感情を持っているように感じる現象(感情の読み込み現象)について、以下の2点を明らかにしました。

  • 形状のヒトらしさが中程度である対象(例:概要図のしめじ)に社会的な動き(注1)が加わると、強い感情の読み込みが観測されること。
  • 形状的にヒトらしい対象(例:概要図の人型のイラスト)に社会的な動きが加わっても、感情の読み込みの度合いは、動きがない場合と比較して大きくは変わらないこと。

先行研究では、感情の読み込みを引き起こす要因として形状と動きの両者があると考えられてきましたが、それぞれ異なる研究領域で別個に検討されてきました。それに対して本研究では、形状と動きの影響を同時に、実験的に検討しました。その結果、形状のヒトらしさと動きが組み合わさることで、生まれる感情の読み込みが変化することを示しました。

この研究成果は、今まで検討されていなかった感情の読み込みにおける形状と動きの関係性を実験的に示した点で新規性があります。また、感情豊かに見えるエージェント(ロボットやバーチャルキャラクター)のデザインに大きく貢献することが期待されます。

本研究成果は、2024年8月13日19時にオランダの科学誌「Computers in Human Behavior」に掲載されました。

発表内容

<研究の背景>

ヒトでない対象が感情を持っているように感じる現象は感情の読み込みと呼ばれています。アニマシー知覚(注2)の分野では、感情の読み込みを引き起こす要因として、対象の動きが検討されてきました。一方、ヒューマン・エージェント・インタラクション(HAI)(注3)の分野では、ヒトらしい形状をエージェントに実装することで感情の読み込みを生み出す研究が盛んに行われています。このように、感情の読み込みに影響する要因として形状と動きは別々に研究されてきました。形状のヒトらしさと動きが組み合わさることで、生まれる感情の読み込みが変化する可能性を主張する研究は存在するものの、実験的な検討はなされていませんでした。そこで本研究ではこの可能性を実験的に検討するために、形状のヒトらしさが異なる3つの対象について、動きがある場合とない場合を実験刺激として用意しました(図1)。特に中央のしめじは、X(旧Twitter, https://twitter.com/showkitchen_/status/701716543265067008)で話題になった「添い寝しめじ」を参考にして作成しました。

img-20240813-pr-sobun-01.png

図1:実験に用いた静止画と動画左から、人型、しめじ、マッチと呼びます。本図の下半分では、動画の、最初、中央、最後のフレームを示しています。近づく動画と離れる動画は逆再生の関係になっています。動画はストップモーション・アニメーション(注4)の形式で作成され、その長さはいずれも10秒としています。

<研究の内容>

本研究では、図1に示した静止画と動画について、「形状的にヒトらしいか」と「感情を持っているか」について質問紙で調査を行いました。その結果、「形状的にヒトらしいか」については、人型、しめじ、マッチの順に形状がヒトに似ていると評価されました(図2A)。一方、「感情を持っているか」については、静止画では人型がしめじより高く評価されたのに対して、近づく動画ではしめじが人型よりも高く評価されました(図2B)。つまり、社会的な動き(注1)がある場合、しめじでは感情が強く読み込まれたと考えられます。この結果は、形状があまりヒトに似ていない対象でも、それが社会的な動きを示す場合に、見る者はより強く感情を読み込む可能性を示唆しています。

さらに追試において、静止画と動画の立体感が感情の読み込みに与える影響、および顔パーツの有無が感情の読み込みに与える影響を検討しました。これらの検討の結果、立体感は感情の読み込みに影響しないことと、動きが加えられた場合には顔パーツがない方が感情の読み込みが強くなることが示されました。

img-20240813-pr-sobun-02.png

図2:実験結果 (A)形状的にヒトらしいかについての結果 (B)感情を持っているかについての結果両グラフは箱ひげ図を示しています。三角形のマークが平均値を示しています。エラーバーの上端は最大値を、下端は最小値を示しています。有意差については以下の通りです:*p < .05. **p < .01. ***p < .001.

<今後の展望>

本研究は、これまで別々に研究されてきた形状と動きに関する知見を統合することで、感情の読み込みにおける社会的な動きの効果が、形状のヒトらしさによって異なる可能性を示しました。特に、動きが加わることで、形状があまりヒトらしくない対象に対して強い感情の読み込みがみられたことは、「添い寝しめじ」の場合のような日常で見られる感情の読み込み現象を説明することにつながります。同様に、本研究で得られた知見は、シンプルで装飾の少ないキャラクターのデザイン、すなわちミニマルデザインの意味を考える基盤を与えてくれる可能性があります。さらに、感情豊かなエージェントをデザインする際の実験的な裏付けとして利用可能であり、ユーザーが共感しやすいエージェントの作成に貢献することが期待されます。

発表者・研究者等情報

東京大学大学院総合文化研究科

植田 一博 教授

東京大学大学院学際情報学府

今泉 拓 博士課程

立命館大学総合心理学部

高橋 康介 教授

論文情報

雑誌名:Computers in Human Behavior

題名:Influence of appearance and motion interaction on emotional state attribution to objects: the example of hugging shimeji mushrooms

著者名:Taku Imaizumi*, Kohske Takahashi, Kazuhiro Ueda*

DOI:10.1016/j.chb.2024.108383

URL:https://doi.org/10.1016/j.chb.2024.108383

研究助成

本研究は、JST CREST「文脈と解釈の同時推定に基づく相互理解コンピューテーションの実現 (課題番号:JPMJCR19A1)」、科研費「認知バイアスから自閉症者の行動を探る:自閉症者の診療場面における説明再考に向けて(課題番号:JP22H03911)」、「フィールドワークとフィールド実験によるホモルーデンス論の展開(課題番号:JP20H01409)」、「顔と身体表現の多文化比較フィールド実験研究(課題番号:JP17H06342)」、および電気通信普及財団2022年度助成「人工物の形状と動きがもつ適度なヒトらしさの重要性:人工物設計に向けた基礎研究」の支援により実施されました。

用語説明

(注1)社会的な動き

2体の対象間に、社会的な関係性があるように感じられる動きのこと。本実験では、二種類の社会的な動きを、人型、しめじ、マッチのそれぞれに実装した。一つは、2体の対象を直線的に近づけることで抱きしめることを意図したものである。もう一つは、2体の対象を直線的に遠ざけることで離れることや別れることを意図したものである。

(注2)アニマシー知覚

生物でない対象に生物らしさを感じる感覚のこと。

(注3)ヒューマン・エージェント・インタラクション(HAI)

人とエージェント(ロボットやコンピューター、バーチャルキャラクター等)のインタラクション(相互作用、交流)に関する研究領域。

(注4)ストップモーション・アニメーション

静止している物体を1コマごとに少しずつ動かしカメラで撮影し、あたかも物体自身が連続して動いているかのように見せる動画の撮影技法。

1600情報工学一般
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