すばる望遠鏡、銀河団を結ぶダークマターの「糸」を初検出

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2024-02-07 国立天文台

かみのけ座銀河団から数百万光年にわたって延びるダークマターの様子が、すばる望遠鏡によって捉えられました。宇宙の大規模構造を形作るダークマターの網目状の分布が、これほどの規模で検出されたのは初めてのことです。宇宙の標準理論を検証する上で、重要な観測成果です。

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すばる望遠鏡、銀河団を結ぶダークマターの「糸」を初検出図1:宇宙の大規模構造のシミュレーション。ダークマターはこの図のように網目状に分布すると考えられています。ダークマターの「糸」が何本も交わる「節」の部分には銀河団が形成されます。(クレジット:Millenium Simulation)。


私たちは通常、惑星、衛星、太陽のような丸い形として物質が集まるのを見慣れています。しかし、宇宙の大部分の質量を占めると考えられているダークマターは、細長い糸状の「コズミックウェブ」の形で存在していると信じられています(図1)。ただし、蜘蛛の巣のように、これらの「糸」は見えにくく、天文学者達は、銀河やガスの観測から、そのような構造を推定してきました。これは、空中に浮かんでいるように見える枯れ葉があったときに、それを支えている見えない蜘蛛の巣があると考えるのに似ています。
延世大学の研究チームは、銀河団同士をつなぐ暗黒物質の糸(フィラメント)を検出するために、かみのけ座銀河団に着目しました。かみのけ座銀河団は、私たちから最も近い大規模な銀河団の1つで、うすく広がったダークマターの構造を検出するのにうってつけの対象です。唯一の問題は、見かけの広がりが大きいため、研究に必要な領域を十分にカバーできる望遠鏡がほとんどないことです。
すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラ Hyper Suprime-Cam(ハイパー・シュプリーム・カム;HSC)は、高感度、高解像度、そして広視野の組み合わせによって、銀河団から延びるダークマターの姿を初めて捉えることに貢献しました(図2)。数百万光年にもわたって延びているダークマターは、この構造がコズミックウェブの一部であることを明確に示しています。

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すばる望遠鏡、銀河団を結ぶダークマターの「糸」を初検出 図2図2:かみのけ座銀河団の領域で検出されたダークマターの分布(緑色)。背景は HSC で撮影された画像です。研究チームは、HSC で撮られた銀河の形がダークマターの存在によってごくわずかに歪められる影響(弱重力レンズ効果)を精密測定して、ダークマターの分布を調べました。銀河団の中心部(画像中央)からダークマターが放射状に延びる様子が捉えられています。(クレジット:HyeongHan et al.)


研究チームの James Jee 博士は、この研究が現在広く受け入れられている宇宙の構造形成理論(標準理論)を検証する上で重要な証拠になるものだと話します。「近年、異なる観測手法間で得られる標準理論のパラメーター値に食い違いがあるという指摘がなされ、我々の宇宙の理解への課題となっています。天文学者たちはこれを解明すべく、基本的な仮定を一つ一つ注意深く再評価しているところです。今回の発見もそのような試みの1つといえるでしょう」
本研究成果は、英国の科学誌『ネイチャー・アストロノミー』に 2024年1月5日付で掲載されました(HyeongHan et al. “Weak-lensing detection of intracluster filaments in the Coma cluster“)。
本研究は、国立天文台 天文データセンターが運用するサイエンスアーカイブ「SMOKA」が提供するデータを利用したものです。

すばる望遠鏡について
すばる望遠鏡は自然科学研究機構国立天文台が運用する大型光学赤外線望遠鏡で、文部科学省・大規模学術フロンティア促進事業の支援を受けています。すばる望遠鏡が設置されているマウナケアは、貴重な自然環境であるとともにハワイの文化・歴史において大切な場所であり、私たちはマウナケアから宇宙を探究する機会を得られていることに深く感謝します。

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