大雪による倒木の危険性評価のための着雪モデルを開発~比較的温暖な積雪地での着雪量の推定精度が向上~

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2023-08-31 森林総合研究所

ポイント

  • スギを用いた着雪の野外実験から、気温-3~0℃での降雪は、樹木に付着しやすいこと等を明らかにした。
  • 得られた知見をもとに、本州以南の中山間地域など比較的温暖な積雪地における樹木への着雪量を、気象データから推定するモデルを新たに開発した。
  • 大雪による倒木の危険性を”見える化”するツールとして今後活用する。

概要

国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所らの研究グループは、新潟県において降雪によりスギに付着する雪の量(着雪量)を測定し、気象データからスギへの着雪量を推定する着雪モデルを新たに開発しました。本成果は、大雪による倒木の危険性を評価して“見える化”するツールとしての活用や、倒木予防のための雪に強い森林づくりの実現に繋がる成果です。
大雪による倒木は、木材生産に対する経済損失のみならず、電気や交通などのライフラインの障害を引き起こします。大雪による倒木の危険性を評価するには、時々刻々と変化する樹木への着雪の状況を把握することが重要です。樹木への着雪量を推定する従来のモデルは、寒冷なカナダの北方林でのデータをもとに開発されており、気温0℃前後における雪の性質の変化を考慮できていません。研究グループは、新潟県においてスギを用いた樹木の着雪の野外実験を行い、着雪の成長や落下の過程に及ぼす気象の影響を調査しました。実験から、気温-3~0℃での降雪は樹木に付着しやすいこと、0℃以上での気温や日射量に比例して着雪の融解による落下量が多くなること等を明らかにしました。そして、このような野外実験から得られた知見をもとに、気象データからスギへの着雪量を推定する着雪モデルを新たに開発しました。これにより、本州以南の中山間地のような積雪地としては比較的温暖な地域における着雪量の推定精度の大幅な向上を図りました。
本研究成果は、2023年6月14日にHydrological Processes誌でオンライン公開されました。

背景

大雪による倒木は、木材生産に対する経済損失のみならず、送配電設備の被害による停電や道路の通行止め、鉄道の運休などのライフラインの障害を引き起こします。大雪による倒木の危険性を評価するには、時々刻々と変化する樹木の着雪量1)を把握することが重要です。
気象データから樹木の着雪量を推定する着雪モデル2)が、これまでに幾つか開発されています。最も一般的に用いられる着雪モデルは、寒冷なカナダの北方林での着雪量の測定データに基づいて開発されたものです。このモデルは気温変化による着雪への影響が十分考慮されておらず、積雪地としては比較的温暖な地域の着雪量の推定に、直接適用できないことが指摘されています。南北に長く、複数の気候区分に属する日本では、着雪の気温影響を適切に表した着雪モデルが必要です。そのため、国内の大雪による倒木の危険性評価にとって、着雪モデルの改良は重要な課題となっていました。しかしながら、基礎となる着雪量の測定事例が限られており、着雪現象のより良い理解と着雪モデルの改良を進めるにあたり、温暖な積雪地での着雪量の測定データが求められていました。そこで本研究では、積雪地としては比較的温暖な地域で着雪量の測定を行い、着雪の気温影響を明らかにしたうえで、本州以南の中山間地での着雪量の推定に適用できるモデルの開発を行いました。

内容

研究グループは、スギを用いた樹木の着雪の野外実験を、豪雪地として知られる新潟県十日町市に位置する森林総合研究所十日町試験地の気象観測露場で、4年間にわたって行いました。長さ6m程度に切ったスギの先端部を、樹木を自立させるための架台に設置し、装置全体の重量の変化をロードセルにより測定することで、降雪によりスギの樹冠に付着する雪の量を測定しました(写真1)。そして、気温や風速、日射量などの気象要素と、着雪の成長や落下との関係についての統計解析を行いました。その結果、氷点下では気温の増加とともに着雪率3)が増加する傾向が見られ、特に気温-3~0℃では着雪率が高い傾向がありました(図1a)。この気温帯では、氷の融点に近いため雪の粘着力が高くなることが知られており、これにより降雪が樹冠に捕捉されやすくなるためと考えられます。また、着雪が融解することで生じる着雪の落下は、気温や日射量に比例して多くなる傾向が見られました(図1bおよび1c)。
次に、実験結果に基づいて新たな着雪モデルを開発しました。着雪モデルは、大気、樹木、雪の間の相互作用によって生じる着雪の成長や落下の物理過程をシミュレーションし、気象データに基づいて冬期間の着雪量の時間変化を推定します(図2)。開発した着雪モデルの独自の特徴は、気温による着雪率の変化や、融解による着雪の落下を、野外実験により得た知見に基づいてモデル化したことです。開発したモデルと寒冷な北方林を対象とした従来のモデルによる着雪量の推定値を、測定値と比較したところ、開発したモデルでは着雪量の推定精度の向上が確認されました(図3)。研究対象地では着雪の融解影響が大きく、これを考慮しない従来モデルと比較して、開発したモデルでは推定精度を大幅に向上することができました。
以上の結果は、積雪地としては比較的温暖な地域において、不足していた着雪量の測定データと樹木への着雪に関する知見を示すとともに、開発した着雪モデルの有効性を示すものです。

大雪による倒木の危険性評価のための着雪モデルを開発~比較的温暖な積雪地での着雪量の推定精度が向上~
写真1 スギを用いた着雪の野外実験の様子(撮影:勝島隆史)

図1 気温と着雪率、気温と着雪量の減少率、日射量と着雪量の減少率の関係を表したグラフ
図1(a)気温と着雪率の関係、(b)気温と1時間あたりの着雪量の減少率の関係、(c)日射量と1時間あたりの着雪量の減少率の関係、図中の灰色の丸は測定値、橙色のエラーバーは標準偏差、中抜き丸は平均値を示しています。

図2 着雪の成長や落下の物理過程をシミュレーション
図2 モデルで考慮した樹木の着雪現象の概念図

図3 着雪量の時間変化を比較したグラフ
図3 着雪モデルにより推定した着雪量の時間変化の比較
測定した着雪量(黒線)と、新しく開発したモデルにより推定した着雪量(赤線)、開発したモデルの一部が従来のままのモデルで推定した着雪量(青線)を比較しました。ここでは、着雪モデルを構成する着雪の成長過程や落下過程のサブモデルが、それぞれ寒冷な北方林を対象とした従来のままのモデルによる推定値と比較しました。開発したモデルでは測定した着雪量に対して概ね良好な推定結果を得ることができました。着雪の成長過程のモデルにおける着雪率の気温影響が従来のままのモデルでは着雪量を過小評価しており、特に、大雪で倒木の危険性が高まる2017年1月16日前後のような極端に多い着雪量の状況に対して、開発したモデルによる推定精度が、従来のままのモデルよりも向上しました(図3上段)。このことは、大雪による倒木の危険性評価に対する、開発したモデルの有効性を示唆しています。また、着雪の落下過程のモデルが着雪の融解影響を考慮しない従来のままのモデルでは、着雪量を著しく過大評価していました(図3下段)。

今後の展開

着雪モデルの開発により、気象データから着雪量を推定することが可能になりました。国内各地の長期間の気象データを用いて着雪量を推定することで、地域が持つ潜在的な倒木の危険性を評価することが可能になります。また、倒木の発生には着雪や風による荷重と、樹木の力学的な耐性とが関係します。これらの関係を総合的に評価することで、倒木被害を未然に防ぐための対策や森林管理手法を、その土地の気象環境に応じて効果的に検討することが可能になります。
地球温暖化により雪の降り方が急速に変化しています。近年では、倒木をもたらすような極端な大雪が度々報告されており、対策が急務となっています。今回開発した着雪モデルを、大雪による倒木の危険性を評価して“見える化”するツールとして活用することで、雪に強い森林づくりの実現を目指していきます

論文

タイトル:Modelling of snow interception on a Japanese cedar canopy based on weighing tree experiment in a warm winter region
著者:Takafumi Katsushima, Akio Kato, Hideharu Aiura, Kazuki Nanko, Satoru Suzuki, Yukari Takeuchi, and Shigeki Murakami
掲載誌:Hydrological Processes
論文URL:https://doi.org/10.1002/hyp.14922
研究費:森林総合研究所所内委託プロジェクト「気象害の発生プロセス解明に基づく気象害リスク評価手法の高度化」・「森林気象害のリスク評価手法に関する研究」

共同研究機関

富山県農林水産総合技術センター森林研究所、富山県農林水産公社

用語解説

1)着雪量
樹冠に付着する雪の質量のこと。水文学の分野では、雪を融かして水にしたときの水深である水当量を用いて表される。

2)着雪モデル
気象データから樹木の着雪量を推定するためのモデルのこと。樹木への着雪の状況が、森林で被覆された陸域での日射エネルギーの吸収や水循環に影響を与えることから、気象や気候、水文現象を数値計算により予測・再現するモデルに組み込むことを目的とした着雪モデルが、これまでに開発されている。

3)着雪率
着雪の生じやすさを表す指標で、着雪の増加量と、そのときの降水量との比率のこと。

お問い合わせ先
研究担当者:
森林総合研究所 森林防災研究領域 十日町試験地 主任研究員 勝島隆史

広報担当者:
森林総合研究所 企画部広報普及科広報係

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