2022-12-15 東北大学
【本学研究者情報】
〇電気通信研究所 准教授 佐藤昭
【発表のポイント】
- 炭素原子の単層シートであるグラフェンを使い、室温下で高速応答かつ高感度なテラヘルツ波注1の検出に成功した。
- 単一の金属種で全ての電極を形成する最も単純なグラフェントランジスタ構造でも高速・高感度検出ができる新たな検出原理を発見した。
- 6G、7G注2クラスの次世代超高速テラヘルツ無線通信の実現に貢献すると期待される。
【概要】
炭素原子の単原子層材料であるグラフェンは、電子の有効質量注3がゼロなどの特異な物性を有することから、従来の技術では困難な室温で動作する高速応答かつ高感度なテラヘルツ波検出素子を実現する材料として注目されています。
東北大学電気通信研究所の佐藤昭准教授らと理化学研究所光量子工学研究センターの南出泰亜チームリーダーらの研究グループは、グラフェンを使って、室温で動作する高速応答かつ高感度なテラヘルツ波の検出に成功しました。テラヘルツ波の高速・高感度な検出素子として、電磁波吸収で発熱した電子・正孔の空間拡散で生じる起電圧効果を利用する「光電熱型検出素子」が知られていますが、電子・正孔の両方が寄与する複雑なバイポーラ型注4でかつ検出素子の2つの電極に異種材料を用いなければ起電圧が生じず、高性能化と量産化・低コスト化の両立が極めて困難でした。研究グループは、グラフェンをチャネルとする電子のみが関与するユニポーラ型注4で、かつ全ての電極に同一種の金属を用いる単純なトランジスタ素子構造でも検出動作可能な、新たな原理を見い出し、高速・高感度なテラヘルツ波検出に初めて成功しました。次世代6G&7G超高速無線通信実現のブレークスルーとなる画期的な成果です。
本成果は、米国物理学協会(American Institute of Physics)が発行するオープンアクセス国際学術論文誌 APL Photonics にFeatured Article*として2022年12月2日にオンライン掲載されました。
*編集委員会により特に学術的意義・インパクトが高いと評価された論文
図1 素子構造を示す鳥観図および素子表面の電子顕微鏡写真像
【用語解説】
注1.テラヘルツ波
テラヘルツは1秒間に10の12乗回(1兆回)振動する周波数。”テラ”は基礎となる単位の10の12乗倍(1兆倍)の量を意味する(単位:THz)。テラヘルツ波は電波と光波の中間に位置する波長約10マイクロメートル(周波数30テラヘルツ)から11ミリメートル(周波数300ギガヘルツ)の電磁波。
注2.6G、7G
現行の5Gに続く次世代の無線通信規格であり、5Gの10~100倍以上の通信速度を目指し、研究開発が世界的に進んでいる。5Gで使用されているマイクロ波・ミリ波ではデータ容量に限界があるため、さらに高い周波数を持つテラヘルツ波の活用が望まれている。
注3.電子の有効質量
真空中の自由電子の(静止)質量に対し、固体中で観測される真空中と異なる見かけ上の質量。
注4.バイポーラ型とユニポーラ型
半導体デバイスにおいて電荷を運ぶ担体(キャリア)には電子と正孔(電子の空いた穴)の2種類があり、バイポーラ型デバイスは両者を用いる一方、ユニポーラ型デバイスはどちらか片方を用いる。グラフェンデバイスにおいては、ゲート電極の印加電圧を制御することにより自由に型を変えることが可能である。
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学電気通信研究所
准教授 佐藤昭、教授 尾辻泰一
(報道に関すること)
東北大学電気通信研究所
総務係