【2025–2026最新研究】熱電材料研究のトレンド分析 ― 廃熱発電を実現する次世代材料技術 ―

2026-03-06 Tii技術情報研究所

世界のエネルギーの約60%は、産業設備や自動車、電子機器などから未利用熱(廃熱)として失われているといわれています。
この熱エネルギーを直接電力に変換できる技術が熱電発電(Thermoelectric Generation)です。

熱電材料は、温度差によって電圧を生み出すゼーベック効果を利用して発電します。
熱電材料性能は次の指標で評価されます。

zT=S2σT/κ

(S:ゼーベック係数、σ:電気伝導率、κ:熱伝導率)

近年の研究では

  • 新しい電子状態の発見
  • ナノ構造・欠陥制御
  • AIによる材料探索
  • 小型発電デバイス

などが進み、熱電材料研究は急速に進展しています。
本記事では、過去1年間に発表された12件の研究成果をもとに、最新の技術動向と今後の研究方向を整理します。


最近の研究成果(12件の研究概要)


1 半金属でも高性能な熱電材料が可能に

京都大学の研究グループは、準一次元物質 Ta₂PdSe₆ において、新しい準粒子状態「プラズモニックポーラロン」を観測しました。従来、熱電材料は半導体が有利とされていました。しかし半金属では電子と正孔が同時に存在し、ゼーベック効果が打ち消されるため、熱電材料には不向きと考えられていました。
本研究では、軽い正孔、重く散乱される電子、というキャリア輸送の非対称性が存在することが明らかになり、大きな熱電効果を示す可能性が示されました。これは、半金属材料も熱電材料として利用できる可能性を示す重要な成果です。
世界初、超高性能熱電半金属に潜む「プラズモニックポーラロン」を直接観測―半金属は熱電材料にならないという常識を覆す―
世界初、超高性能熱電半金属に潜む「プラズモニックポーラロン」を直接観測―半金属は熱電材料にならないという常識を覆す―
2026-03-04 京都大学京都大学の吉田鉄平教授らの研究グループは、半金属でありながら極めて高い熱電性能を示す準一次元物質Ta₂PdSe₆において、新しい準粒子状態「プラズモニックポーラロン」を世界で初めて直接観測した。研究ではKEKフ...

2 デュアル欠陥工学による薄膜熱電材料の高性能化

中国科学院は、Mg₃(Sb,Bi)₂系薄膜において、Mg過剰導入、Teドーピング、を組み合わせたデュアル欠陥工学を提案しました。この方法により、キャリア濃度の最適化、格子欠陥によるフォノン散乱増加、が同時に実現されました。
その結果、zT ≈ 0.47(525K)、IoT向け発電デバイス実証、を達成しています。
デュアル欠陥工学戦略によりN型熱電薄膜の性能を向上(Dual-Defect Engineering Strategy Boosts N-Type Thermoelectric Thin Film Performance)
デュアル欠陥工学戦略によりN型熱電薄膜の性能を向上(Dual-Defect Engineering Strategy Boosts N-Type Thermoelectric Thin Film Performance)
2026-03-02 中国科学院(CAS)中国科学院金属研究所の邰開平教授らの研究チームは、デュアル欠陥工学戦略を用いて高性能なn型Mg3(Sb,Bi)2系熱電薄膜を開発した。Mgは蒸気圧が高く成膜時に欠損が生じやすいこと、また薄膜でのキャ...

3 横型熱電材料の設計原理

通常の熱電発電では、温度差方向に電流が流れます。しかしこの研究では、温度差と直交方向に電流が流れる横型熱電効果に注目しました。
研究では、軸依存伝導極性(ADCP)を持つ材料を対象に、4282材料を探索、57候補材料を特定しました。
この構造は、電極配置が簡単で機械的耐久性が高いという利点があり、新しいデバイス構造として期待されています。
「横型」熱電材料の探索を一気に加速-温度差に垂直な方向に発電する材料の設計指針を確立-
「横型」熱電材料の探索を一気に加速-温度差に垂直な方向に発電する材料の設計指針を確立-
2026-02-25 東京科学大学東京科学大学フロンティア材料研究所の片瀬貴義教授らは、温度差に垂直方向へ発電する「横型」熱電材料の設計指針を確立し、Journal of the American Chemical Societyに発表した...

4 フレキシブル熱電デバイス

熱電性能を単一試料で直接評価~常識を覆す新測定パラダイム~
熱電性能を単一試料で直接評価~常識を覆す新測定パラダイム~
2026-02-18 埼玉大学埼玉大学大学院理工学研究科の研究グループは、熱電材料の無次元性能指数zTを単一試料・単一測定系で直接評価できる新手法「時間領域インピーダンス分光法(TDIS)」を確立した。従来はゼーベック係数、電気抵抗率、熱伝...

人体の体温と周囲温度の差を利用して発電するフレキシブル熱電デバイスが開発されています。特徴は、ポリマー材料、ナノ材料、柔軟基板。これにより、ウェアラブルセンサー医療機器などの電源として利用できる可能性があります。


5 自己発電型ウェアラブルデバイス

Nature誌に掲載:急速充電が可能な「熱電池」を開発(ZJU team unveils a fast-charging “thermal battery,” published in Nature)
Nature誌に掲載:急速充電が可能な「熱電池」を開発(ZJU team unveils a fast-charging “thermal battery,” published in Nature)
2026-01-14 浙江大学(ZJU)浙江大学エネルギー工学院の樊立武准教授率いる研究チームは、熱を蓄える「熱電池」において、高蓄熱量と高速充電を両立させる新機構を開発し、2026年1月にNature誌で発表した。相変化材料(PCM)は高...

人体活動を電源とするエネルギーハーベスティングデバイスの研究です。利用するエネルギーとして、人体熱、室内光、身体運動等が考えられ、これらを組み合わせることで、電池不要のIoTデバイスを実現します。


6 超低温熱電材料

遷移金属フッ化物カソードにおける画期的成果、熱電池の性能を向上 (Researchers Achieve Breakthrough in Transition Metal Fluorides Cathodes for Thermal Batteries)
遷移金属フッ化物カソードにおける画期的成果、熱電池の性能を向上 (Researchers Achieve Breakthrough in Transition Metal Fluorides Cathodes for Thermal Batteries)
2026-01-09 中国科学院(CAS)遷移金属フッ化物は高電圧と耐熱性から有望な正極材料だが、作動中に溶解・移動する「シャトル効果」により性能低下が課題だった。中国科学院プロセス工学研究所の王松・朱永平両教授の研究チームは、350~55...

極低温環境で高い熱電性能を示す材料の研究です。応用分野として、宇宙探査、深宇宙電源、量子デバイス冷却などが考えられ、低温領域では電子輸送のメカニズムが変わるため、新しい材料設計が必要になります。


7 ナノ構造熱電材料

電場と温度勾配が駆動する新しいホール効果の発見~キラル物質における特異な非線形熱電効果を実証~
電場と温度勾配が駆動する新しいホール効果の発見~キラル物質における特異な非線形熱電効果を実証~
2025-11-03 理化学研究所Web要約 の発言:理化学研究所などの共同研究チームは、キラル物質において電場と温度勾配の共存によって発生する新しい「非線形キラル熱電ホール効果」を世界で初めて実証した。対象物質はらせん構造を持つ半導体テル...

ナノ構造を導入することで、フォノン散乱増加、熱伝導率低減、を実現する研究です。ナノ粒子や界面を利用して熱だけを遮断する構造を作ることが重要になります。


8 フォノン工学

局面にフィットする“切り紙型”熱電発電デバイス~高いフレキシブル性能と高い発電性能の両立を実現~
局面にフィットする“切り紙型”熱電発電デバイス~高いフレキシブル性能と高い発電性能の両立を実現~
2025-10-21 早稲田大学早稲田大学理工学術院の岩瀬英治教授・寺嶋真伍講師らの研究チームは、切り紙構造を応用した新しいフレキシブル熱電発電デバイスを開発した。薄膜基板に切り込みを入れて立体化する「ポップアップ切り紙構造」を採用し、曲面...

格子振動(フォノン)を制御し、熱伝導率を下げる研究です。技術の例として、格子歪み、不純物散乱、ナノ界面など。
フォノン制御は、zT 向上の重要なアプローチです。


9 薄膜熱電デバイス

ダイナミックな電子が効率よく熱を電気に変換する~近藤効果が熱電材料の性能を向上させるメカニズムを実験的に解明~
ダイナミックな電子が効率よく熱を電気に変換する~近藤効果が熱電材料の性能を向上させるメカニズムを実験的に解明~
2025-10-22 豊田工業大学豊田工業大学と分子科学研究所の共同研究チームは、角度分解光電子分光法により、熱電材料における電子散乱のエネルギー依存性を初めて実験的に可視化した。対象物質は近藤効果を示すYbCu₂Si₂で、電子散乱の変化が...

MEMS技術を利用したマイクロ熱電発電デバイスです。用途として、IoTセンサー、環境モニタリング、スマートデバイスなど。
小さな温度差でも発電できる点が特徴です。


10 Bi系高性能熱電材料

電子デバイスの廃熱から高効率に熱電変換する技術を開発~「朝永ラッティンジャー液体」の活用で実現~
電子デバイスの廃熱から高効率に熱電変換する技術を開発~「朝永ラッティンジャー液体」の活用で実現~
2025-10-02 東京科学大学Web要約 の発言:東京科学大学の藤澤利正教授らとNTT物性科学基礎研究所の共同研究チームは、電子デバイスの廃熱を高効率に電力へ変換する新技術を開発した。相互作用する一次元電子系「朝永ラッティンジャー液体」...

Bi₂Te₃などのBi系材料は、室温付近で高性能な熱電材料として知られています。現在も、ナノ構造化やドーピングなどによる性能向上研究が続いています。


11 レアメタルフリー熱電材料

効率的な熱電を実現する新しいハイブリッド材料 (New hybrid materials as efficient thermoelectrics)
効率的な熱電を実現する新しいハイブリッド材料 (New hybrid materials as efficient thermoelectrics)
2025-04-17 オーストリア・ウィーン工科大学(TU WIEN)ウィーン工科大学のFabian Garmroudi氏らの国際研究チームは、熱電変換効率を従来比で100%以上向上させる新しいハイブリッド材料を開発しました。鉄・バナジウム...

多くの熱電材料は、Te、Se、などの希少元素を使用します。そのため、安価で豊富な元素を使った材料開発が重要な研究テーマとなっています。


12 熱電輸送理論の発展

新材料「熱電永久磁石」で世界最高電力密度の横型熱電発電に成功 ~磁石を用いた革新的省エネ・創エネ技術へと前進~
新材料「熱電永久磁石」で世界最高電力密度の横型熱電発電に成功 ~磁石を用いた革新的省エネ・創エネ技術へと前進~
2025-03-18 物質・材料研究機構,東京大学,名古屋大学,科学技術振興機構​国立研究開発法人物質・材料研究機構(NIMS)は、新材料「熱電永久磁石」を用いて、世界最高の電力密度を持つ横型熱電発電に成功しました。 ​この革新的な技術は、...

電子輸送理論の研究です。研究内容として、電子散乱、バンド構造、キャリア輸送など。これらを統合した理論モデルの構築が進められています。


研究分野の構造

熱電材料研究

├ 材料物理
│ ├ 電子構造
│ ├ 半金属
│ └ 量子物性

├ 材料設計
│ ├ 欠陥工学
│ ├ ドーピング
│ └ ナノ構造

├ 材料探索
│ ├ AI
│ └ 第一原理計算

└ デバイス
├ 薄膜
├ MEMS
└ ウェアラブル

 

熱電材料研究のトレンド分析

これらの研究を総合すると、現在の熱電材料研究は5つの主要トレンドに整理できます。

1 新しい電子状態の探索

例えば、

  • 半金属熱電材料
  • プラズモニックポーラロン
  • 異方性電子輸送

これにより、従来の半導体材料だけでなく、半金属・トポロジカル材料など新しい材料群が研究対象になっています。


2 欠陥工学による性能制御

材料中の欠陥やドーピングを制御することで

  • キャリア濃度最適化
  • フォノン散乱増加

を同時に実現する研究が進んでいます。


3 フォノン熱伝導の制御

zTを向上させるためには、熱伝導率を下げることが重要です。主な技術としては、

  • ナノ構造
  • 界面散乱
  • 格子歪み

4 デバイス小型化とIoT応用

近年の重要な応用分野としては、

  • IoTセンサー
  • ウェアラブル機器
  • 医療デバイス

など、小型の温度差から発電する技術が求められています。


5 AIによる材料探索

第一原理計算や材料データベースを利用した、高スループット材料探索、が進んでいます。
これにより、材料探索速度が大幅に向上しています。


今後の研究方向

今後の重要テーマとして、次の分野が注目されています。

次世代材料

  • 半金属熱電材料
  • トポロジカル材料
  • 酸化物熱電材料

ナノ構造設計

  • 超格子材料
  • ナノワイヤ

デバイス技術

  • フレキシブル熱電
  • MEMS熱電発電

まとめ

2025〜2026年の研究動向を見ると、熱電材料研究は、材料物理・ナノ材料・デバイス工学の融合分野、として急速に発展しています。

特に重要なポイントは以下の点です。

  • 新しい電子状態の発見
  • 欠陥・ナノ構造制御
  • AI材料探索
  • 小型発電デバイス

今後、産業排熱やIoT電源などの用途が拡大すれば、熱電発電はエネルギー効率を高める重要技術として、さらに研究が加速すると考えられます。

1700応用理学一般
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