2025-02-27 大阪大学,科学技術振興機構
ポイント
- 金属3Dプリンティング(3DP)によって作製される造形物中のミクロンスケール単結晶の弾性率を、高精度で解析可能な弾性場の逆解析(inverse Self-consistent近似)モデルを構築。
- 生体用インプラントの性能向上には、応力遮蔽(しゃへい)による骨組織の劣化を防ぐため、人体の骨に近い低ヤング率(低弾性率)を持つ材料の開発が不可欠である。しかし、これまで3DPで作製されるチタン合金造形物のヤング率制御に必要なキーパラメーター(造形物を構成する単結晶の弾性率)の計測は極めて困難だった。これは、単結晶弾性率の測定には、数ミリメートルの大きな単結晶の育成が必要であるが、金属3DP造形物中のミクロンスケール結晶と同じ状態の大きな単結晶を育成することが困難なためである。
- 生体用βチタン合金(Ti-15-5-3)造形物のマクロな弾性率を解析することにより、造形物を構成するミクロンスケール単結晶の弾性率を高精度で解析可能な機械学習(非線形重回帰分析)に基づいた弾性場の逆解析モデルを構築した。この逆解析モデルを用いれば、大きな単結晶を育成せずに造形物中のミクロンスケール単結晶(~100マイクロメートル)の弾性率を高精度で決定することが可能である。
- 今回構築した逆解析モデルを用いてTi-15-5-3造形物中のミクロンスケール単結晶の弾性率解析に世界に先駆けて成功。金属3DPを利用して作製される生体用チタン合金造形物中には、低ヤング率を示す理想的な体心立方構造の単結晶が形成されていることを初めて明らかにした。これは、高温からの急速な冷却(超急冷)によって元素偏析および高ヤング率を示す六方晶構造相の形成が抑制されることに起因していた。
- 本成果を生体用チタン合金開発に適用することで、骨質劣化の抑制に有効な低ヤング率を示す高機能インプラント材の開発が加速的に進展するものと期待される。
大阪大学 大学院工学研究科の多根 正和 教授、中野 貴由 教授らの研究グループは、金属3Dプリンティング(3DP)によって作製される造形物について、その単結晶弾性率を高精度に解析可能な弾性場の逆解析(inverse Self-consistent近似)モデルを構築しました。これにより、3DP造形物の弾性率制御に不可欠なキーパラメーターである造形物中のミクロンスケール単結晶の弾性率を高精度で決定しました。
本研究では、金属3DPによって作製した生体用βチタン合金(Ti-15-5-3)に対し、①共鳴超音波スペクトロスコピー法による数ミリメートルの造形物(~4x4x4立方ミリメートル)のマクロな弾性率の精密計測、および②電子後方散乱回折法を用いた造形物中のミクロンスケール結晶(~100マイクロメートル)の配向分布(向きの分布)・形状解析を実施しました。さらに、造形物のマクロな弾性率を解析することで、造形物中のミクロンスケール単結晶の弾性率を高精度で解析可能な機械学習(非線形重回帰分析)に基づいた弾性場の逆解析モデルを構築しました。この逆解析モデルを用いて、3DP造形物のマクロな弾性率に対して、ミクロンスケール結晶の配向分布および形状の情報を利用した逆問題解析を実施しました。これにより、造形物中のミクロンスケール結晶と同じ状態の数ミリメートルの大きな単結晶の育成を必要とせずに、Ti-15-5-3造形物中のミクロンスケール単結晶(~100マイクロメートル)の弾性率を世界に先駆けて決定しました。
その結果、3DPを利用して作製される生体用チタン合金造形物中には、高温からの急速な冷却(超急冷)によって元素偏析および高ヤング率を示す六方晶構造相の形成が抑制されることに起因して、低ヤング率を示す理想的な体心立方構造の単結晶が形成されることを明らかにしました。本成果を利用することにより、金属3DP造形物の力学物性(弾性率、強度など)のキーパラメーターである造形物中の単結晶弾性率を高精度で解析可能になります。本成果を生体用チタン合金開発に適用することで、骨質劣化の抑制に有効な低ヤング率を示す高機能インプラント材の開発が加速的に進展するものと期待されます。
本研究成果は、Elsevier発刊の材料科学のトップ級ジャーナル「Additive Manufacturing」誌(IF10.3)に2025年2月27日(木)(日本時間)に公開されます。
本研究は、科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 CREST「革新的力学機能材料の創出に向けたナノスケール動的挙動と力学特性機構の解明」(研究総括:伊藤 耕三)における「カスタム力学機能制御学の構築~階層化異方性骨組織に学ぶ~」(研究代表者:中野 貴由)(課題番号:JPMJCR2194)の一環として行われました。
<プレスリリース資料>
- 本文 PDF(782KB)
<論文タイトル>
- “Low Young’s modulus in laser powder bed fusion processed Ti–15Mo–5Zr–3Al alloys achieved by the control of crystallographic texture combined with the retention of low-stability bcc structure”
<お問い合わせ先>
<研究に関すること>
多根 正和(タネ マサカズ)
大阪大学 大学院工学研究科 教授
中野 貴由(ナカノ タカヨシ)
大阪大学 大学院工学研究科 教授
<JST事業に関すること>
安藤 裕輔(アンドウ ユウスケ)
科学技術振興機構 戦略研究推進部 グリーンイノベーショングループ
<報道担当>
大阪大学 工学研究科 総務課 評価・広報係
科学技術振興機構 広報課