2025-01-21 森林総合研究所,北海道大学
ポイント
- 鳥類の保全につながる針葉樹人工林の管理を探るため、北海道全域で春と冬に調査
- 定期的な人工林の伐採・植林は、開けた環境を好む鳥類の回復に重要な役割を果たす
- 人工林内での少量の広葉樹保持は、広葉樹天然林を好む鳥類の保全に効果的
- 人工林管理は、様々な地域や季節で生物多様性の回復に貢献できることを示唆
概要
国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所と北海道大学の研究グループは、定期的な人工林の伐採・植林が開けた環境を好む鳥類(開放地性種)の回復に重要な役割を果たしうること、少量の広葉樹を人工林内に保持することが広葉樹天然林を好む鳥類(天然林性種)の保全に効果的であることを、北海道全域での繁殖期(春)と冬期の調査により明らかにしました
農林業の発展に伴う土地利用の変化は草地や湿地、老齢林を減少させてきました。しかし、生物多様性の減少傾向を増加へと反転させる国際目標「ネイチャーポジティブ」を達成するためには、管理された土地における保全活動も重要であると考えられています。
本研究では、様々な地域や季節の鳥類の保全につながる人工林管理策を探るため、北海道各地で針葉樹人工林と天然林に生息する鳥類を調査しました。その結果、10年生未満の幼齢人工林には繁殖期に開放地性鳥類が多く生息し、人工林内に少しでも広葉樹が混交すると多くの天然林性鳥類の個体数が大きく増加する、という全道で共通した傾向が明らかになりました。
本研究の結果は、人工林内での保全活動が、これまでに大きく減少してきた開放地性種や天然林性種の回復に重要な役割を果たしうることを示しています。
本研究成果は、2024年12月12日にEcological Applications誌でオンライン公開されました。
背景
農林業の発展に伴う土地利用の変化により、これまで草地や湿地、老齢林は減少してきました。このため、残された草地・湿地や老齢林が保護の対象となり、農地や人工林の生物多様性保全上の役割は小さいと考えられてきました。一方で、近年では生物多様性の減少傾向を増加へと反転させる「ネイチャーポジティブ(自然再興)」が国際目標として掲げられています。これを達成するためには、人によって管理された土地で生物多様性を回復させる保全活動も重要であると考えられています。
針葉樹人工林は、亜寒帯から温帯にかけて木材生産上の重要な役割を担っていますが、広葉樹が混交し成熟すると広葉樹天然林を好む生物種(以下、天然林性種*1)にとって適した生息地となる場合があります。また、伐採・植林から約10年までの幼齢な人工林には草原のような開けた環境を好む生物種(以下、開放地性種*2)が多く生息することが知られています。しかし、人工林の林齢や広葉樹の割合に応じた各生物グループの種数や個体数、また、それらが地域や季節によって異なるのかはよく分かっていませんでした。
内容
本研究では、様々な地域や季節で鳥類の保全につながる人工林管理策を明らかにするため、北海道全域で林齢や広葉樹割合の異なるトドマツ人工林(46林分)とカラマツ人工林(45林分)、広葉樹の優占する天然林(28林分)を選び、繁殖期(5~7月)と冬期(12~2月)に生息する鳥類を調査しました。そして、人工林の林齢と広葉樹割合が開放地性種や天然林性種に及ぼす影響を、地域や季節による気候の違いも含めて調査しました。さらに、人工林が両鳥類グループにとって広葉樹天然林に匹敵する生息地となりうるかどうかも調べました。
分析の結果、開放地性鳥類は繁殖期にのみ出現し、その種数や総個体数、多くの種の個体数は、人工林の林齢が高くなると急速に減少することが分かりました(図1左の赤実線)。天然林では伐採が稀なため、10年生以下の幼齢林は2つしか調査できませんでしたが、前述のような関係性は不明瞭でした(図1左の青実線)。幼齢人工林に生息する種類は気候によって大きく異なっており、より冷涼な地域(道東)では準絶滅危惧種であるオオジシギや国内で近年大きく減少しているビンズイなどが数多く生息していました。
天然林性鳥類の種数や総個体数、様々な種の個体数は、多くの場合、人工林の林齢や広葉樹割合が少し高くなると急速に増加しました(図1中央・右の赤実線)。林齢が高くなると種数や個体数はあまり増加しなくなり、天然林ではおよそ70~80年で頭打ちとなる傾向がみられました(図1中央の青実線)。また、越冬期には、地域の気温が低いほど、広葉樹割合の正の効果が強くなり、これは寒い地域(北海道内陸部)で様々な食物を多く提供するなど広葉樹の役割が大きいためであると推察されました。
図1. 林齢と広葉樹割合が繁殖期の鳥類の個体数に及ぼす影響
半透明の丸は各調査で確認された各鳥類グループの総個体数を、実線は統計モデルによる予測を示しています。赤と青の各色はそれぞれ、人工林と天然林を表します。中央と右の図における赤実線の色の濃淡は、それぞれ広葉樹割合と林齢の違いを表します。右の図における青の破線・点線は、それぞれ130年生と50年生の天然林における個体数の期待値を示しています。
※図は、出版社から許可を得て、論文中の図を基に作成しました。
今後の展開
本研究の結果は、人工林の伐採・植林によって開けた環境を定期的に提供することが、広域的な開放地性鳥類種の回復に重要な役割を果たしうることを示しています。また、少量であっても広葉樹を人工林内に保持することで、多くの天然林性鳥類にとって天然林に匹敵する生息地として管理できると考えられました。一方、すでに成熟した人工林の長伐期化(伐採までの期間の延長)や現存する老齢林の保護だけでは、その個体数はあまり増加しないと予測されました。開放地性種と天然林性種の両方の保全を両立する上で、人工林伐採時に混交した広葉樹の一部を残す「保持林業」の適用が有効だと考えられます(写真1)。
これまでに生物多様性の減少の緩和を目的として保護区の設立・拡大が行われてきましたが、生物多様性の再生を目指す時代にはさらなる努力が求められます。木材生産を行いながら人工林内で取り組む保全活動を広域的に実践することで、これまで大きく減少してきた開放地性種や天然林性種を回復させ、ネイチャーポジティブに貢献できる可能性が示されました。
写真1. 保持林業の実証実験地(北海道有林)
生物多様性や生態系サービスに配慮し、トドマツ人工林の伐採時に混交していた広葉樹の一部を残しています。伐採後は通常の人工林のように木材生産を目指し、トドマツの苗木が植えられ、下刈り等の管理が続けられています。開けた環境が提供されることで開放地性種の回復につながり、広葉樹を少なくとも次の伐期まで保持することで天然林性種の減少の緩和、長期的には回復に役立つと期待されます。保持林業の実証実験プロジェクトのホームページでは、実験の概要やこれまでの成果の一覧がご覧いただけます(https://www.ffpri.affrc.go.jp/labs/refresh/index.html)。
用語解説
*1 天然林性種
本研究では、成熟した森林を好む種から針葉樹林を好む種(ヒガラやキクイタダキなど)を除いたものとしており、センダイムシクイ、ヤブサメ、キビタキ、コサメビタキ、キバシリ、ゴジュウカラ、ハシブトガラ、アカゲラなど36種が含まれます。
*2 開放地性種
草原や湿地、裸地といった開放的な環境を好む種で、ホオジロ、カワラヒワ、ビンズイ、ノビタキ、モズ、オオジシギ、カッコウ、ベニマシコなど11種が含まれます。
論文
論文名:Plantation management to restore early and late-successional bird habitat under various climatic and seasonal conditions(多様な気候・季節条件下で遷移初期・後期性鳥類の生息地を回復させるための人工林管理)
著者名:河村和洋(森林総合研究所北海道支所)、山浦悠一(森林総合研究所四国支所)、中村太士(北海道大学)
掲載誌:Ecological Applications
DOI:10.1002/eap.3074
研究費:文部科学省科学研究費補助金「JP17J01767, JP21K20599」、環境省・(独)環境再生保全機構環境研究総合推進費「JPMEERF20234002」など
お問い合わせ先
研究担当者:
森林総合研究所 北海道支所 森林生物研究グループ 研究員 河村和洋
広報担当者:
森林総合研究所 企画部広報普及科広報係
関連資料
プレスリリース本文:ネイチャーポジティブに貢献する人工林管理 —定期的な伐採・植林と広葉樹の保持が鳥類保全の鍵—(PDF:1,268KB)