2025-01-09 物質・材料研究機構,東北大学,光科学イノベーションセンター,科学技術振興機構
NIMS、東北大学と光科学イノベーションセンターからなる研究チームは、わずか1日の実験で、ハーフメタル性を有するCo-Mn-Siホイスラー合金のスピン分極状態が最も高い組成を同定することに成功しました。
概要
- NIMS、東北大学と光科学イノベーションセンターからなる研究チームは、わずか1日の実験で、ハーフメタル性を有するCo-Mn-Siホイスラー合金のスピン分極状態が最も高い組成を同定することに成功しました。1つの基板上に組成を徐々に変化させた組成傾斜薄膜を作製し、高輝度放射光施設 NanoTerasuにおける強力な放射光源を用いた計測により実現した成果です。超高効率なハーフメタル材料の最適化が可能になることで、高性能スピンデバイス用の新材料開発が加速することが期待されます。
- ハーフメタル材料は、伝導電子のスピンの向きが一方向に揃った高いスピン分極状態を有する磁性材料であり、次世代ハードディスクのリードヘッド用の電極材料などとして期待を集めています。しかし、スピン分極状態の直接的な計測には、エネルギーの低いX線などを使ったスピン分解光電子分光によって長い計測時間をかける必要があり、効率的な材料開発のために短時間でスピン分極状態を評価する手法が求められていました。
- 本研究チームは、効率的にハーフメタル材料の組成の最適化や新材料開発するための新手法の実現を目指しました。代表的なハーフメタル材料として知られる Co2MnSiを対象に、1つの基板上で コバルト(Co)とマンガン(Mn)の組成比を10 ~ 40%の原子組成比で変化させた薄膜を作製し、NanoTerasuの放射光を用いた硬X線光電子分光計測を行いました。その結果、わずか1日の実験により大量の電子構造の組成比依存性データを獲得し、これを解析することで、Mnが27at.%の領域で最も高いスピン分極が得られることを同定することに成功しました。
- 今後は、本手法を活用して新規ハーフメタル材料開発を加速させることで、高性能なスピントロニクスデバイス実現への展開が期待されます。
- 本研究は、NIMS 磁気機能デバイスグループ 遠山 諒 ポスドク研究員、桜庭 裕弥 グループリーダー、光電子分光グループ 矢治 光一郎 グループリーダー、津田 俊輔 主任研究員、データ駆動型材料設計グループ 岩﨑 悠真 主任研究員、東北大学 国際放射光イノベーション・スマート研究センター 山本 達准 教授、光科学イノベーションセンター 山根 宏之 主席研究員からなる研究チームによって、JST 戦略的創造研究推進事業CREST「未踏探索空間における革新的物質の開発」(JPMJCR21O1)の一環として行われました。
- 本研究成果は、“Science and Technology of Advanced Materials”の Editor’s choiceに選出され、2025年1月7日にオンライン掲載されました。
プレスリリースの図: 3GeV高輝度放射光施設 NanoTerasu
プレスリリースの図: 薄膜作成装置と硬X線光電子分光装置
掲載論文
題目 : High-throughput evaluation of half-metallicity of Co2MnSi Heusler alloys using composition-spread films and spin-integrated hard X-ray photoelectron spectroscopy
著者 : Ryo Toyama, Shunsuke Tsuda, Yuma Iwasaki, Thang Dinh Phan, Susumu Yamamoto, Hiroyuki Yamane, Koichiro Yaji and Yuya Sakuraba
雑誌 : Science and Technology of Advanced Materials
掲載日時 : 2025年1月7日
DOI : 10.1080/14686996.2024.2439781