2024-12-19 早稲田大学
発表のポイント
- 宮崎県延岡市および北海道下川町に胚胎する火山性塊状硫化物の生成年代をレニウム-オスミウム (Re-Os) 法によって決定し、宮崎県槙峰鉱床の生成年代は約8,900万年前、下川鉱床の生成年代は約4,800万年前であることを明らかにした
- 日本列島における直近の中央海嶺 (イザナギ-太平洋海嶺) 沈み込み現象がいつ起こったのかを、鉱床の生成年代値から確度良く制約することに成功した
- 地質帯の成り立ちが複雑な北海道や日本列島構造史の理解増進につながることが期待される
概要
早稲田大学理工学術院教授の野崎達生 (のざきたつお) 、東京大学大学院工学系研究科准教授の高谷雄太郎 (たかやゆうたろう) 、高知大学海洋コア国際研究所客員助教の中山健 (なかやまけん)、東京大学大学院工学系研究科教授ならびに千葉工業大学次世代海洋資源研究センター所長・主席研究員の加藤泰浩 (かとうやすひろ) の研究グループは、日本列島付加体中の現地性玄武岩を伴う別子型鉱床である宮崎県槙峰鉱床および北海道下川鉱床の生成年代をレニウム-オスミウム (Re-Os) 法によって決定し、白亜紀後期~古第三紀にかけて日本列島で起こった海嶺沈み込み現象のタイミングを確度良く制約することに成功しました。
本研究成果は、国際学術出版社であるNature Research社発行による『Scientific Reports』誌に2024年12月3日 (火) (現地時間) に掲載されました。
[論文情報]
論文名:Re-Os dating of the Makimine and Shimokawa VMS deposits for new age constraints on ridge subduction beneath Japanese Islands
DOI:10.1038/s41598-024-80799-z
キーワード:
火山性塊状硫化物 (VMS) 鉱床、別子型鉱床、日本列島、付加体、レニウム-オスミウム(Re-Os) 法、海嶺沈み込み、槙峰鉱床、下川鉱床
図:本研究により明らかとなった槙峰・下川鉱床のRe-Osアイソクロン年代と生成場
これまでの研究で分かっていたこと
我々の暮らしている日本列島の基盤岩は、主に過去4億年以降に形成された付加体※1から構成されています。この長い歴史の中で、日本列島には中央海嶺※2が複数回沈み込んだと考えられています。熱源である中央海嶺が沈み込むことによって、現在の日本列島に分布する『対の変成帯』※3や大規模花崗岩体 (バソリス)※4の形成およびそれに伴う構造浸食などが引き起こされたと考えられており、構造史※5を考えるうえで海嶺沈み込み現象は重要な地質学的イベントです。この海嶺沈み込み現象の起こった年代値 (タイミング) は、海嶺起源の玄武岩上に累重した堆積岩中に含まれる微化石年代※6などを用いて見積もられてきましたが、海嶺沈み込み現象に伴う熱的作用によって微化石の保存状態が悪くなってしまうなど,確度・精度良く数値年代を出す手法が限られていました。
付加体中には過去に海底で形成された鉱床が胚胎しており、現在の日本列島においても陸上で多種多様な鉱床が観察されます。本研究では、現地性玄武岩※7を伴う別子型鉱床※8に着目することで、海嶺沈み込み現象のタイミングを決定することを試みました。
今回の研究で新たに実現しようとしたこと、そのために新しく開発した手法
本研究では、四万十帯北帯に胚胎する宮崎県延岡市槙峰鉱床と日高帯に胚胎する北海道下川町下川鉱床を研究対象としました。両鉱床ともに現地性玄武岩を伴う別子型鉱床に分類されます。レニウム-オスミウム (Re-Os) 法※9を用いて、両鉱床を構成する硫化鉱物※10のRe-Osアイソクロン年代※9を求めた結果、宮崎県槙峰鉱床は8,940 ± 120万年前、北海道下川鉱床は4,820 ± 90万年前に生成したことが明らかになりました。
以下の地質学的・地球化学的特徴から、両鉱床が生成したのは陸源砕屑物 (砂岩・泥岩) が供給されるような大陸に比較的近い沿海の中央海嶺であることが明らかになりました;
- 鉱石を構成する硫化鉱物のRe-Osアイソクロン年代が鉱床母岩と接する堆積岩 (砂岩・泥岩) の微化石年代の範囲と類似すること
- 硫化物鉱石は現地性玄武岩を伴い、チャート※11を伴わないこと
- 硫化物鉱石は母岩の玄武岩に比べて放射壊変起源である208Pbに富む鉛同位体比組成※12を有すること
- 太平洋の中央海嶺玄武岩に比べて高く・幅広い硫黄同位体比組成 (d34S)※13を有すること
- 変質・変成鉱物組合せから見積もられる地温勾配が、槙峰地域は他の周辺地域に比べて高いこと
したがって、両鉱床のRe-Osアイソクロン年代は、中央海嶺が現在の宮崎県あるいは北海道を形成した地質帯に沈み込む直前の数値年代を表していると考えられます。
研究の波及効果や社会的影響と今後の展望
本研究により、付加体中の現地性玄武岩を伴う別子型鉱床の生成年代 (Re-Os年代) を求めることによって、海嶺沈み込み現象が起こったタイミングを確度良く数値年代で追跡できることが明らかになりました。このような鉱床学的・地球化学的研究を進めることで、地質帯の成り立ちが複雑な北海道の成り立ちや日本列島構造史、また同手法を世界中の別子型鉱床に適用することによって地球史の理解増進につながると期待されます。さらに、このような過去の海嶺沈み込み現象が起こったタイミングを決定していくことで、新たな別子型鉱床の発見に繋がることも期待されます。
研究者のコメント
日本は資源のない国だと思われることが多いですが、海洋プレートが沈み込んでいる上の島弧に位置しているため、海底鉱物資源だけでなく陸上にも多種多様な鉱床が胚胎しています。鉱床は資源の供給源だけでなく、過去に起こった元素の異常濃集プロセスの産物であるため、地球史の記録媒体とも見なせます。鉱床学と最新の地球化学的分析手法を組合せることで、今後も我々が地球をより良く、より深く理解することに貢献できると確信しています。
用語解説
※1 付加体
海溝やトラフにおいて海洋プレートが沈み込む時に、海洋底にたまっていた堆積物が剥ぎ取られて陸側に押し付けられていくが、この作用を付加作用と呼び、その結果陸側に形成された地質体を付加体と呼ぶ。したがって、付加体には過去の海洋底で生成した鉱床も胚胎する。
※2 中央海嶺
大洋の中央部を走る比高2~3 km、長さ数千kmの海底山脈。中央海嶺は地殻熱流量が大きく、固体地球内部から放出される熱エネルギーの大部分は中央海嶺から火山活動として放出されている。したがって、中央海嶺はいわば海洋プレートが生産される場である。
※3 対の変成帯
高圧型変成帯と低圧型変成帯が対をなして並走する場合、これを『対の変成帯』と呼ぶ。日本における典型的な例は、西南日本の三波川変成帯と領家帯である。
※4 バソリス
露出面積が100 km2以上の大規模な花崗岩体のこと。底盤とも呼ばれる。
※5 構造史
ある地質体やそれを構成する岩石などが,どのような過程を経て今に至っているかを表す歴史のこと。
※6 微化石年代
同定に種々の顕微鏡を必要とする化石のことを総称として微化石と呼ぶ。堆積岩には、放散虫、有孔虫、コノドントなどがしばしば含まれており、これらの種の産出組合せから決定した堆積年代のこと。
※7 現地性玄武岩
陸源砕屑物の堆積場において噴出もしくは貫入した緑色岩 (玄武岩) のこと。槙峰・下川地域の現地性玄武岩は、陸源砕屑物 (砂岩・泥岩) を伴うにも関わらず、その全岩化学組成は島弧玄武岩ではなく、中央海嶺玄武岩に類似する。
※8 別子型鉱床
海底⽕⼭・熱⽔活動に伴う噴気性堆積鉱床で、⽕⼭岩を⺟岩とする鉱床を火山性塊状硫化物 (VMS = Volcanogenic Massive Sulfide) 鉱床と呼ぶ。VMS鉱床のうち、特に過去に中央海嶺で生成して陸上に取り込まれたものを別子型鉱床、島弧・背弧の海底熱水鉱床に由来するものを⿊鉱鉱床と呼ぶ。
※9 レニウム-オスミウム (Re-Os) 法
Re、Osは原⼦番号75番、76番の元素であり、Osは6つある⽩⾦族元素の1つ。Reには185Reと187Reの2つの同位体が存在するが、これらのうち187Re量が半分に減少するまでの時間 (半減期) は416億年で、β-線を放射して187Osを⽣じる。この放射壊変系を利⽤した年代決定法がRe-Os法である。化学分析により得られる187Re/188Os ⽐と187Os/188Os⽐から近似直線 (等時線:アイソクロン) を引き、その傾きから年代値 (Re-Osアイソクロン年代) を計算することができる。
※10 硫化鉱物
鉱物の分類上で、硫黄と結合している鉱物群。本研究に用いた硫化物鉱石試料は、主に黄鉄鉱 (FeS2)、磁硫鉄鉱 (Fe1-xS)、黄銅鉱 (CuFeS2)、閃亜鉛鉱 (ZnS) などから構成される。
※11 チャート
二酸化ケイ素 (SiO2) を主成分とする硬く緻密な珪質堆積岩の総称。主に放散虫と呼ばれる二酸化ケイ素の骨格を持つ海生浮遊性プランクトンの死骸が、陸域から遠く離れた深海底に降り積もってできた岩石。
※12 鉛同位体比組成
天然の鉛を構成する4種の安定同位体 (204Pb,206Pb,207Pb,208Pb) の存在比。一般には非放射壊変起源の204Pbに対する206Pb/204Pb比、207Pb/204Pb比、208Pb/204Pb比を指し、鉱床を構成する金属元素の起源の解明などに用いられる。
※13 硫黄同位体比組成 (δ34S)
試料の34S/32Sから標準物質の34S/32Sの差分を取り、それを標準物質の34S/32Sで割り算して、1,000を掛けたもの (=千分率を取ったもの)。式で表すと δ34S = ((34S/32S)sample-(34S/32S)standard))/((34S/32S)standard) x 1000。標準物質として、一般的にVienna-Canyon Diablo Troilite (VCDT) が用いられる。δ34Sの単位はパーミル (‰:千分率) (参考;パーセント、%:百分率)。
論文情報
雑誌名:Scientific Reports
論文名:Re-Os dating of the Makimine and Shimokawa VMS deposits for new age constraints on ridge subduction beneath Japanese Islands
執筆者名 (所属機関名):野崎達生 (早稲田大学・海洋研究開発機構・東京大学・神戸大学)、高谷雄太郎 (東京大学・早稲田大学・海洋研究開発機構)、中山健 (高知大学)、加藤泰浩 (東京大学・千葉工業大学)
掲載日時 (現地時間):2024年12月3日 (火)
掲載URL:https://doi.org/10.1038/s41598-024-80799-z
研究助成
研究費名:日本学術振興会 科学研究費補助事業 学術変革領域研究 (B);JP23H03812
研究課題名:局所マルチ硫黄同位体分析から読み解く熱水鉱床生成における微生物活動の寄与
研究代表者名 (所属機関名):野崎達生 (早稲田大学)
研究費名:日本学術振興会 科学研究費補助事業 基盤研究 (B);JP23K26607
研究課題名:熱水鉱床形成における微生物活動の寄与を定量化する~生物鉱学の創成を目指して~
研究代表者名 (所属機関名):野崎達生 (早稲田大学)
研究費名:日本学術振興会 科学研究費補助事業 基盤研究 (S);JP20H05658
研究課題名:地球環境変動・資源生成の真に革新的な統合理論の創成
研究代表者名 (所属機関名):加藤泰浩 (東京大学)