東京下町の地盤を形成する有楽町層から自然由来のヒ素が溶出する仕組みを解明

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2024-12-09 東京農工大学

国立大学法人東京農工大学大学院農学研究院の橋本洋平准教授と、国立研究開発法人 産業技術総合研究所地圏資源環境研究部門の保高徹生研究グループ長、井本由香利主任 研究員、西方美羽研究員らで構成される研究チームは、以前から自然由来のヒ素が含まれることが知られていた東京低地の地下に広がる沖積層(有楽町層)において地盤ボーリング調査を行い、ヒ素が土壌溶出量基準(注1)を超過して溶出することや、ヒ素がラズベリー様の黄鉄鉱(フランボイダルパイライト)に局在していることを明らかにしました。 さらに、有楽町層中のヒ素は、鶏冠石や硫砒鉄鉱に類似した複数の化学形態を有していることを明らかにし、フランボイダルパイライトがヒ素の集積と溶出に関わる重要な鉱物であることを明らかにしました。本研究の成果は、有楽町層と類似の性質を有する沖積層において、大規模なインフラ工事などで大量に発生する建設発生土の適切な措置や処分の ための技術開発、ならびに持続可能な汚染土壌の管理に活用されることが期待されます。

本研究成果は、Journal of Hazardous Materials(2025年2月15日付、Volume 484)の掲載に先立ち、12月4日にオンラインで公開されました。
論文タイトル:Unveiling the potential mobility and geochemical speciation of geogenic arsenic in the deep subsurface soil of the Tokyo metropolitan area
URL:https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0304389424031595

背景
日本には地質的な要因によって、地盤にヒ素などの重金属類を含む場所が点在しています。大規模な公共事業などによって大量に発生する建設発生土には、しばしば自然由来のヒ素が含まれています。ヒ素は人体への毒性が高く、法令で規制や基準設定の対象となっています。土壌汚染 対策法では、このような地質に由来する重金属類が基準値を超えて含まれている建設発生土を 「自然由来汚染土」として、人為由来の汚染と区別して取り扱われます。自然由来汚染土を適切に管理するためには、土壌からヒ素が溶出する仕組みを解明した上で、溶出を防ぐことが非常に重要です。
本研究チームは2019年に、自然由来の土壌に含まれるヒ素が、ラズベリー様の黄鉄鉱(フランボイダルパイライト)に局在していることを明らかにしました。さらにフランボイダルパイライトは、水にはほとんど溶解しませんが、酸化剤である過酸化水素を加えると、その一部が溶解することを見出しました(2019年12月16日、本学プレスリリース)。
東京低地の地盤を形成する沖積層(有楽町層)には、自然由来のヒ素が含まれることが知られていました。しかし、有楽町層中のヒ素がどのような状態(鉱物など)で存在しているのかは確認 されておらず、有楽町層の土壌からヒ素が溶出する仕組みはわかっていませんでした。

研究体制
本研究は東京農工大学、産業技術総合研究所、公益財団法人高輝度光科学研究センター(菅大暉、研究員)、国立台湾大学(Shan-Li Wang教授)と実施された国際共同研究です。本研究の一部は、環境省・(独)環境再生保全機構の環境研究総合推進費(JPMEERF20165006)により実施しました。

研究成果
有楽町層が分布する東京都と千葉県内の東京湾岸低地において地盤ボーリング調査を 実施して、地表から地下15 mまでの土壌中のヒ素の濃度を分析しました(図1)。深さによっては、有楽町層からヒ素が土壌溶出量基準を超えて溶出することが確認されました。得られた土壌を、SPring-8(注2)の放射光を光源とするX線吸収分光法を用いて分析したところ、有楽町層においても前報での自然由来汚染土と同様に、ラズベリー様の黄鉄鉱(フランボイダルパイライト)の 表面にヒ素が蓄積していることが確認されました(図2、図3)。有楽町層中のヒ素は、鶏冠石や硫砒鉄鉱に類似した複数の化学形態を有していることが、この分析によって明らかになりました。この結果は、フランボイダルパイライトを多く含む有楽町層の土壌を掘削した際に、地上で大気に曝露されて酸化が進むと、ヒ素が溶出しやすくなることを示しています。
今後の展開
本研究により、有楽町層のヒ素の存在形態や溶出に、フランボイダルパイライトが 関係していることが明らかになりました。本研究における有楽町層で見られた事例は、他の沖積層でも発生する可能性があります。本研究の成果は、自然由来のヒ素を含有する建設発生土からの ヒ素の溶出防止や、合理的・持続可能な管理に資する基礎的な知見を提供します。これによって、 国内の建設工事によって大量に発生する掘削土の再利用を促進すること、ならびに環境への影響を最小限に抑える技術の開発に貢献することにつながり、持続可能な土壌汚染対策に寄与することが期待されます。

参考情報後
 2019年12月16日、東京農工大学プレスリリース「自然由来のヒ素が土壌に蓄積する仕組みを解明」

用語解説
注1)土壌溶出量基準
土壌に含まれるヒ素などの特定有害物質が溶け出し、地下水等から飲用水を介して摂取しても問題のない基準値。
注2)SPring-8(スプリングエイト)
「放射光」という光を使って、物質の原子・分子レベルでの形や機能を調べることができる 研究施設。兵庫県の播磨科学公園都市にある。本研究では、この施設を利用した実験によって、土壌のヒ素の存在状態(化学形態)を明らかにした。

東京下町の地盤を形成する有楽町層から自然由来のヒ素が溶出する仕組みを解明図1:東京都内の有楽町層が分布する地盤において地下の掘削調査を実施して採取した土壌

図2:フランボイダルパイライトの電子顕微鏡写真(フランボイドとは英語のframboidであり、 フランス語のframboiseであるラズベリーに形が似ていることから派生している)。
図3:有楽町層に含まれるフランボイダルパイライトを、SPring-8のビームラインBL37XUで、  500 nmに集光したX線でヒ素を分析した画像。黄色から赤色の領域にヒ素が局在している。左図の矢印で示されているのが、フランボイダルパイライト。左図の白枠部を拡大したのが右図。

◆研究に関する問い合わせ◆
 東京農工大学大学院農学研究院
生物システム科学部門 准教授
橋本 洋平(はしもと ようへい)

◆報道に関する問い合わせ◆
 東京農工大学 総務課広報室
産業技術総合研究所 ブランディング・広報部 報道室

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