2024-04-08 スイス連邦工科大学チューリッヒ校(ETH)(チューリッヒ工科大学)
・ ETH が、DAN を利用したパスワード認証技術を開発。
・ パスワードの認証では、入力値から出力値を計算する暗号化一方向関数を使用。これがパスワード自体を送信することなくその有効性の確認を可能にし、出力値を使用して入力値(パスワード)を推測することが不可能となっている。しかし、今後 10 年以内にも実現が予想される極めて強力な量子コンピューターでは、このような逆計算が容易に実行可能となる。
・ 新技術は、従来の算術演算によるデータ処理に代わり、DNA の化学的な構成要素のヌクレオチド配列としてデータを保持する、真のランダム性に基づくシステム。入力値と出力値が物理的にリンクされ、入力値から出力値への流れのみが可能となる。デジタルではなく物理的なシステムであるため、量子コンピューターで実行されるアルゴリズムであっても解読が不可能となる。
・ 新技術の 1 億個もの DNA 分子のプールの各 DNA 分子には、ランダムなヌクレオチドの配列を保持する、2 つのセグメント(入力値と出力値)が含まれる。これらの各 DNA 分子の数百個のコピーがプール内に存在し、プール自体も複数に分割されている。各プールには同一のランダムな DNA 分子が含まれ、各プールは完全に同一のもの。これらのプールは様々な場所への配置や、物体への組み込みが可能。
・ この DNA プールを所有することで、セキュリティシステムの鍵(入力値)を保持。この鍵はヌクレオチドの短い配列で、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)で調査できる。PCR では、この鍵がそれに整合する入力値を持つ分子を 1 億個の DNA 分子のプールから探し出し、その分子に含まれる出力値を増幅する。その後、DNA シーケンシングを利用することで出力値を読み取ることができる。
・ この原理は複雑に見えるが、ランダム性を取り入れた DNA 分子の作製は安価で容易。1 スイスフランを下回る価格で分割可能な DNA プールを作製できる。DNA シーケンシングには時間とコストがかかるが、多くのバイオ研究室ではすでに必要な機器を備えている。
・ 新技術の特許を出願し、市場化に向けて最適化を進めているが、特別な研究室インフラを要するため、現時点では機密性の高い商品や、立ち入りが制限された建物へのアクセスでの使用に限られる。DNA シーケンシングがより安価になるまでは、一般的なパスワード認証の選択肢にはならない。
・ DNA プールのマーキングによる美術作品の偽造防止や、NFT 等の暗号資産と実物とのリンク、さらに、工業製品や原材料の供給網での偽造品やプルーフトラッキングの支援も考えられる。
・ 本研究には、欧州連合(EU)の Horizon 2020 プログラム FET-Open: DNA-FAIRYLIGHTS と ETH Zurichが資金を提供した。
URL: https://ethz.ch/en/news-and-events/eth-news/news/2024/04/protecting-art-and-passwords-with-biochemistry.html
<NEDO海外技術情報より>
関連情報
Nature Communications 掲載論文(フルテキスト)
Chemical unclonable functions based on operable random DNA pools
URL: https://www.nature.com/articles/s41467-024-47187-7
Abstract
Physical unclonable functions (PUFs) based on unique tokens generated by random manufacturing processes have been proposed as an alternative to mathematical one-way algorithms. However, these tokens are not distributable, which is a disadvantage for decentralized applications. Finding unclonable, yet distributable functions would help bridge this gap and expand the applications of object-bound cryptography. Here we show that large random DNA pools with a segmented structure of alternating constant and randomly generated portions are able to calculate distinct outputs from millions of inputs in a specific and reproducible manner, in analogy to physical unclonable functions. Our experimental data with pools comprising up to >1010 unique sequences and encompassing >750 comparisons of resulting outputs demonstrate that the proposed chemical unclonable function (CUF) system is robust, distributable, and scalable. Based on this proof of concept, CUF-based anti-counterfeiting systems, non-fungible objects and decentralized multi-user authentication are conceivable.