2024-05-17 九州大学
ポイント
- エルニーニョ現象(※1)は地球規模の大気の流れを変え、世界中で異常気象や異常天候を引き起こします。しかし日本ではエルニーニョ発生年であっても、暖冬になる冬もあれば寒冬になる冬もあり、両者を分ける要因は未解明でした。
- 本研究では過去61年間の天候を100通り再現した大規模な数値シミュレーションデータを解析し、夏から冬にかけてのエルニーニョ現象の発達が早く進行するか遅く進行するかという違いが、その年の冬に日本が暖冬傾向になるのか寒冬傾向になるのかを大きく左右していることを発見し、その仕組みを解明しました。
- 本研究の成果は、3ヶ月予報や、より長期の季節予報の精度向上に貢献すると期待されます。
概要
エルニーニョ現象は地球規模の大気の流れを変え、世界中で異常気象や異常天候を引き起こします。過去の観測データに基づく統計から、エルニーニョ発生年に日本は暖冬になりやすいことが知られており、2023/24年の暖冬はまさにその傾向に当てはまるものでした。しかし、2014/15年のエルニーニョ発生時の記録的な寒冬のように、エルニーニョ発生年に日本が寒冬になった事例も少なくなく、どのような仕組みがエルニーニョ発生年の暖冬と寒冬を決定づけているのかは未解明でした。
九州大学応用力学研究所の塩崎公大 学術研究員、時長宏樹 教授、森正人 助教の研究グループは過去61年間の天候を100通りも再現した大規模な数値シミュレーションデータを解析し、夏から冬にかけてのエルニーニョ現象の発達が早く進行するか遅く進行するかという違いが、その年の冬に日本が暖冬傾向になるのか寒冬傾向になるのかを大きく左右していることを発見し、その仕組みを解明しました。
夏の早い時期から強いエルニーニョ現象が発達すると、熱帯インド洋の海面水温も大きく上昇します。それらの相乗効果によって、フィリピン東方沖の活発な降水活動が抑制されます。この降水活動の抑制は日本の南東沖で高気圧を形成し、偏西風を大きく北側へ蛇行させます。これによって、日本を含む東アジア域への寒気の吹き出しが弱くなるため、暖冬が起こりやすくなります。逆に、エルニーニョ現象が発生したとしても、その発達の進行が遅いと熱帯インド洋の水温上昇は大きくなりません。それに伴って、フィリピン東方沖における降水活動もわずかにしか抑制されないため、日本の南東沖の高気圧は形成されません。一方、北太平洋上の低気圧が日本付近にまで張り出すことによって、西高東低の冬型の気圧配置と寒気の吹き出しが強化され、むしろ寒冬傾向になりやすくなります。
本研究の発見は、数値シミュレーションモデルにおけるエルニーニョ現象やインド洋変動との連動性をより良く再現することにより、3ヶ月予報などの季節予測の精度向上に貢献すると期待されます
本研究成果は、米国気象学会の国際科学誌「Journal of Climate」オンライン版にて2024年4月26日に早期公開されました。
エルニーニョ発生年に暖冬(上)と寒冬(下)になる仕組みを説明する模式図。大気と海洋の平年状態からのずれを暖冬傾向と寒冬傾向に分けて表しています。インド洋の水温上昇と、偏西風が日本の東側で大きく北側に蛇行するかどうかが暖冬と寒冬を大きく左右します。
用語解説
(※1) エルニーニョ現象
赤道東部太平洋域における海面水温の顕著な昇温現象のこと。貿易風とよばれる東から西へ吹く風が弱まることによって発生し、終息するまで1〜2年ほど持続します。エルニーニョ現象が発生している時には、豪雨による洪水や干ばつ、高温や低温などの異常気象や異常天候が世界中で現れやすいことも知られています。
論文情報
掲載誌:Journal of Climate
タイトル:What Determines the East Asian Winter Temperature during El Niño?— Role of the Early-Onset El Niño and Tropical Indian Ocean Warming
著者名:Masahiro Shiozaki, Hiroki Tokinaga, and Masato Mori (塩崎公大、時長宏樹、森正人)
DOI:10.1175/JCLI-D-23-0627.1
- 本研究の詳細についてはこちら
研究に関するお問合せ先
応用力学研究所 塩崎 公大 学術研究員
応用力学研究所 時長 宏樹 教授