2024-05-17 九州大学
ポイント
- 有機光機能材料の開発には、分子設計・合成と物性・デバイス特性評価の両面を統合した複雑なワークフローが必要となるため、単一の研究室で構築するのは困難でした。
- 本研究では、有機薄膜固体レーザーにおける最高レベルの光増幅機能を有する低分子をAIガイド下において発見することに成功しました。
- 開発された有機レーザー(※1)分子を基礎に、今後更なる低閾値材料の開発が期待されます。
概要
これまで、九州大学・最先端有機光エレクトロニクス研究センター(OPERA)では、新材料開発からデバイスの創製まで、有機半導体レーザーに関する先駆的な研究開発に取り組んで参りました。現在、先端光機能分子の探索には、分子設計・合成と物性・デバイス特性評価の両面を統合した複雑なワークフローが必要となっています。今回、米・加・英・日の5つのラボ(トロント大学、バンクーバー大学、イリノイ大学、グラスゴー大学、九州大学)が材料探索を加速するために協力し、トロント大学で開発された“自動運転ラボ”を使用して2ヶ月間の短期間で1,000個以上の分子を合成・評価し、21個の新しい高性能有機固体レーザー(Organic Solid-State Laser: OSL)材料を発見しました。本研究は、JSPS科研費特別推進研究の支援のもとで行われ、2024年5月17日に米国科学雑誌「Science」のオンライン版で公開されました。
有機固体レーザー用低分子ゲイン材料の早期探索のための分散型ワークフローの概要。機能分子設計のためのモジュール戦略、自動化された並列機能性分子合成、物理情報に基づくベイズ最適化、薄膜デバイスにおける光増幅解析を統合する後方支援AI実験計画のためのクラウドハブの概念図。
用語解説
(※1) 有機レーザー
有機分子は蛍光、りん光、TADF(熱活性化遅延蛍光)などの発光機能に加え、光増幅機能を有していることから、レーザーデバイスへの展開が期待されています。現在では、溶液レーザーから完全固体型レーザーへの開発が進展し、光励起及び電気励起デバイスの両面から研究開発が進められています。これまでOLEDで進められてきた発光分子の分子構造を基礎に、低閾値化の有機レーザー分子の創製とデバイスの実現は、ポストOLEDデバイスとして大きな期待が寄せられています。
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論文情報
掲載誌:Science
タイトル:Delocalized, asynchronous, closed-loop discovery of organic laser emitters
著者名:Felix Strieth-Kalthoff†, Han Hao†, Vandana Rathore, Joshua Derasp, Théophile Gaudin,
Nicholas H. Angello, Martin Seifrid, Ekaterina Trushina, Mason Guy, Junliang Liu, Xun Tang, Masashi Mamada, Wesley Wang, Tuul Tsagaantsooj, Cyrille Lavigne, Robert Pollice, Tony C. Wu, Kazuhiro Hotta, Leticia Bodo, Shangyu Li, Mohammad Haddadnia, Agnieszka Wołos, Rafał Roszak, Cher Tian Ser, Carlota Bozal-Ginesta, Riley J. Hickman, Jenya Vestfrid, Andrés Aguilar-Granda, Elena L. Klimareva, Ralph C. Sigerson, Wenduan Hou, Daniel Gahler, Slawomir Lach,
Adrian Warzybok, Oleg Borodin, Simon Rohrbach, Benjamin Sanchez-Lengeling, Chihaya Adachi*, Bartosz A. Grzybowski*, Leroy Cronin*, Jason E. Hein*, Martin D. Burke*, Alán Aspuru-Guzik*
DOI:10.1126/science.adk9227
研究に関するお問い合わせ先
工学研究院 / 最先端有機光エレクトロニクス研究センター センター長 安達 千波矢 教授