2024-04-26 北海道大学,科学技術振興機構
ポイント
●多重極ハミルトニアンに基づいた、近接場光学遷移確率計算の高速化を達成。
●ナノ領域に局在した光による選択則の解明と最適化に成功。
●分子の光励起状態を最適制御した光反応開発の進展に期待。
概要
北海道大学大学院理学研究院・同大学創成研究機構化学反応創成研究拠点(WPI-ICReDD)の岩佐 豪助教の研究グループは、多重極ハミルトニアンに基づいた、近接場光学遷移確率計算の高速化を達成し、ナノ領域に局在した光による選択則の解明と最適化に成功しました。分子の光励起状態を制御した光反応開発の進展が期待されます。
近接場光は、物質のすぐ近くだけに存在する特殊な光の成分です。巧みに設計された魔方陣のようなナノ構造が創る近接場光を利用することで、分子の性質を自由自在に操ることが期待されています。しかし、近接場光は普通の光とは違って空間的に局在している上に、ナノ構造の形などにも依存してその振る舞いが変わるため、近似的な理論計算が難しく、新しい理論手法が必要とされていました。この論文では、多重極ハミルトニアンに基づいた一般的な遷移確率(一般化遷移確率)の簡単な計算方法を提案しています。
この方法を使うと、近接場光を使って分子の励起状態への遷移確率をコントロールするための方法を計算することができます。一般化遷移確率の計算では、近接場光に影響を与えるナノ構造の形状、大きさ、材料などの情報をパラメータとして考慮に入れます。そして、計算結果をもとに、狙いの励起状態を実現するための近接場光を発生させるナノ構造を最適化します。実際に、走査トンネル顕微鏡(STM)のモデルを使って、この方法がうまくいくかどうかを確かめました。この顕微鏡では、針先の位置を上下左右に動かすことで、近接場光をコントロールできます。今回の研究は、分子の特定の励起状態のみを選択的に励起するための近接場光設計技術開発への第一歩と言えるでしょう。
なお、本研究成果は、2024年4月26日(金)公開のThe Journal of Physical Chemistry Letters誌に掲載されました。また、今回の研究成果が高く評価され、同日付で本研究が、掲載誌のSupplementary Coverに選出されました。
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