屋外設置型IEEE802.15.3d テラヘルツ通信装置の開発に成功~2024年2月5日の東京地方大雪時も連続動作~

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2024-03-04 早稲田大学

発表のポイント

実用環境では必須となる屋外設置可能なIEEE802.15.3d準拠のテラヘルツ通信装置を開発し、長期連続伝送実験を開始いたしました。
指向性の高いアンテナを簡単かつ安定的に動作させるためのアンテナ自動調整機能を開発しました。
悪天候に左右されにくい、信頼性の高い次世代移動通信システムBeyond5G /6Gシステムの基地局を接続するためのネットワーク構築に貢献することが期待されます。

早稲田大学(以下、早大)理工学術院の川西哲也(かわにしてつや)教授の研究グループは、岐阜大学工学部の久武信太郎(ひさたけしんたろう)教授らと共同で、屋外設置可能なテラヘルツ通信装置を開発し、早大西早稲田キャンパス(東京都新宿区)内で長期連続伝送実験を開始しました。これまでのテラヘルツ通信は実験室レベルでの実証がほとんどでしたが、本研究では、24時間屋外動作を可能としました。通信装置の姿勢制御機能を実装し、アンテナ自動調整を実現しました。現在、降雨・降雪時を含む天候変動時の伝送特性評価を実施中で、2024年2月5日の東京地方大雪時のテラヘルツ伝搬特性を計測し、今後のシステム設計に有用な情報の取得に成功しました。信号形式・周波数などはテラヘルツ通信規格IEEE802.15.3d※1に準拠しています。

屋外設置型IEEE802.15.3d テラヘルツ通信装置の開発に成功~2024年2月5日の東京地方大雪時も連続動作~

1.研究の背景

次世代移動通信システムBeyond5G /6Gシステム※2の基地局を接続するためのネットワーク(バックホール・フロントホール※3)において、その一部を高速テラヘルツ通信が担うことが期待されています。これまでの研究報告のほとんどは実験室内での実証や測定器を使った通信の模擬によるものでした。テラヘルツ無線は雨や雪の影響を受けやすいという課題があり、その影響を評価する必要がありました。また、ミリ波帯・テラヘルツ帯ではその波長の短さからアンテナ方向の精密調整が必要という課題もありました。

2.今回の研究成果および新しく開発した装置について

屋外設置可能なIEEE802.15.3d準拠のテラヘルツ通信装置の開発に成功しました(図1、2参照)。テラヘルツ帯通信実験では測定器による伝送の模擬や単方向の画像伝送をデモンストレーションするものが大半ですが、今回開発した装置はイーサネットインターフェースを有しており、実データの双方向伝送を可能としています。

また、屋外において連続伝送実験を行うための筐体の開発、センサー装置の実装を行いました。ミリ波帯やテラヘルツ帯ではビーム幅の細い電波を用いますが、アンテナ方向の調整にコストがかかるという課題がありました。本研究では、精度の高い機構設計と精密電動雲台による制御により、自動アンテナ方向調整を実現しました。また、テラヘルツ帯では送信と受信のアンテナを共通にすることが困難であったために、それぞれ個別のアンテナを用いることが一般的でした。本研究では、300GHz帯回路を設計し、送受アンテナ共通化と機構設計の精密化により、装置の小型化、防水対応、アンテナ方向精度の向上を図りました。

早大西早稲田キャンパス内に一組のテラヘルツ通信装置を設置し、現在、長期連続伝送実験を実施中です。気象センサー、装置内温度センサー、振動センサーなどを備え、風雨・降雪・温度変化と伝送特性の相関を連続的に観測することが可能です。2024年2月5日(月)の東京地方降雪時においても連続データ取得をいたしました。図3に示すように大雪時に受信電力(RSSI※4)の大きな変動が確認されました。詳細については現在解析中ですがアンテナへの着雪と落雪が繰り返されたことによると推定しています。

3.今後の展開

今回開発した屋外で動作させることが可能な小型のテラヘルツ通信装置を活用し、実用化に向けて、伝送容量・伝送距離拡大や、他の無線器との干渉の影響の解析など様々な実験を実施します。さらに、複数のテラヘルツ通信装置を連携させ、悪天候時にもおいても安定的に動作するシステムの実現を目指します。

今回開発したテラヘルツ通信装置の技術的内容については、2024年3月5日(火)から8日(金)に広島大学で開催される電子情報通信学会総合大会にて発表予定です。本研究の成果をベースに、JST ASPIRE事業(JPMJAP2324)「マルチフィジックスICTデザイン」を進める予定です。電子工学・機械工学・材料工学などの学際領域の知見を結集し、マルチフィジックスICTという新しい概念の構築を目指すものです。今回開発した通信装置は、最新の電子デバイスを用いた送受信器、精度の高い微動機構によるアンテナ制御、気象状況の詳細測定などの技術をベースとしています。ASPIRE事業では、テラヘルツ波、光ファイバなどの様々な伝送媒体を用いたネットワークを電子工学、機械工学などを駆使してデザインすることを目標としています。当ASPIRE事業の概要については、上記の電子情報通信学会総合大会のスポンサードセッションとして3月6日(水)に開催されるキックオフミーティングにて発表予定です。

【研究プロジェクトについて】

本研究成果の一部は国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT(エヌアイシーティー))の革新的情報通信技術研究開発委託研究(JPJ012368C04301)「欧州との連携による300GHzテラヘルツネットワークの研究開発」によるものです。欧州委員会のHorizon2020、および国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT(エヌアイシーティー))の委託研究「大容量アプリケーション向けテラヘルツエンドトゥーエンド無線システムの開発(ThoR: TeraHertz end-to-end wireless systems supporting ultra high data Rate applications)」(研究期間:2018年7月1日から2022年6月30日まで)の研究成果も活用しています。

【各機関の主な役割】

早稲田大学:テラヘルツ伝送装置の開発
岐阜大学:アンテナ制御機構の開発

【用語解説】

※1 IEEE802.15.3d規格
ブルートゥースや無線 LAN で有名な IEEE802 規格の 1 つ。テラヘルツ帯における唯一の通信規格。

※2 Beyond5G/6G
最近サービスがはじまった移動通信システムは第5世代(5G)とよばれている。これに対して、次世代システムとしてBeyond5Gさらには 第6世代(6G)移動通信システムの開発が進められている。

※3 バックホール・フロントホール
携帯電話の基地局間を結ぶネットワーク。バックホールは無線通信で伝送するデジタルデータをやりとりするネットワークを指す。フロントホールは無線機本体とアンテナを分離して狭いビルの屋上など様々なところにアンテナを置くことを可能とするために期待されている技術で、無線機本体で作られた電波の波形をアンテナまで伝える役割を担う。役割としてテレビ本体とアンテナをつなぐケーブルと同じであるが、要求される性能が高いため現在では光ファイバが用いられることが多い。

※4 RSSI(Received Signal Strength Indicator)
無線通信装置において受信電力の目安をあたえる数値。測定器よりは精度がおちるが、無線装置の制御に広く用いられている。

0404情報通信
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