シカの森林被害は土壌微生物にも波及する~大規模生態系操作実験と環境DNA分析の融合~

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2023-12-22 京都大学

現在、日本の森林では、多くの地域において、ニホンジカ(以下、シカ)の食害による植生の荒廃が深刻化しています。シカの食害が森林に与える影響を理解するためには、土壌を含む生態系全体への波及効果の分析が必要となります。植物が減ると土壌の性質や土壌微生物に影響を与え、その影響が植物自体に跳ね返ってくるため、土壌微生物の多様性が低下し、さらなる生態系の変化の引き金となる可能性があるからです。しかし、シカによる食害が、土壌微生物の多様性や種組成にどのような影響を与えるかは明らかになっていませんでした。

門脇浩明 白眉センター/農学研究科特定准教授、本庄三恵 生態学研究センター准教授、中村直人 農学研究科博士課程学生らの研究グループは、芦生(あしう)生物相保全プロジェクト(ABCプロジェクト)メンバーら(高柳敦 農学研究科准教授らのグループを中心に、福島慶太郎 福島大学准教授、藤木大介 兵庫県立大学准教授、井上みずき 日本大学准教授、境優 国立環境研究所主任研究員ら)との共同研究を行いました。研究では、シカの食害を防ぐ大規模防鹿柵による生態系操作実験と、環境DNA分析のアプローチを組み合わせることで、防鹿柵による長期的な植生の回復・維持が土壌細菌・真菌の多様性を守ることにつながり、とくに、アーキア(古細菌)や担子菌類などの一部の微生物群の多様性を維持する効果があることを示しました。また、防鹿柵を設置していない対照区では防鹿柵内と比べて、動物病原菌が検出されやすくなるなど、従来報告されていなかった土壌微生物群集の変化を検出することに成功しました。今後は、こうした土壌微生物群集の変化が、植生の回復や維持にどのような影響を与えるのかを解明することで、シカの食害が生態系に与える影響の全貌に迫り、生態系回復に資する研究を展開する必要があります。

本研究成果は、2023年11月28日に、国際学術誌「Environmental DNA」にオンライン掲載されました。

文章を入れてください芦生研究林の防鹿柵の内部ではその外部と比べて豊かな植生が維持されており、その効果は土壌微生物にまで波及しうる。

研究者のコメント

「数十ヘクタールの面積をカバーするような、生態系スケールの実験は、決して一人の力ではできません。生態系のさまざまな変化を捉えるには、長期的に広大な面積で実験を続けることも重要です。今回の研究は、ABCプロジェクトの研究メンバーや芦生研究林の教職員の方々の継続的なサポートなくして実現できませんでした。こうして得られた知見を積み重ね、シカによる森林被害の深刻化を食い止め、適切な森林管理をどのように実現していくべきかについて探求していきたいと思います。」(門脇浩明)

詳しい研究内容について

シカの森林被害は土壌微生物にも波及する―大規模生態系操作実験と環境DNA分析の融合―

研究者情報

研究者名:門脇 浩明
研究者名:本庄 三恵
研究者名:高柳 敦

書誌情報

【DOI】
https://doi.org/10.1002/edn3.498

【書誌情報】
Kohmei Kadowaki, Mie N. Honjo, Naoto Nakamura, Yoichiro Kitagawa, Masae I. Ishihara, Shunsuke Matsuoka, Yuuya Tachiki, Keitaro Fukushima, Shota Sakaguchi, Inoue Mizuki, Daisuke Fujiki, Masaru Sakai, Atsushi Takayanagi, Michimasa Yamasaki, Naoko Tokuchi, Daiki Takahashi, Koki Nagasawa, Kazutoshi Masuda (2023). eDNA metabarcoding analysis reveals the consequence of creating ecosystem-scale refugia from deer grazing for the soil microbial communities. Environmental DNA.

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