ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡、遠方宇宙に大量の巨大ブラックホールを発見

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2023-12-04 東京大学宇宙線研究所,国立天文台科学研究部

図1 : 研究チームが発見した、120-130億年前の10個の巨大ブラックホールの擬似カラー画像 ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡もしくはハッブル望遠鏡で取得された3色の観測データを合成することで、画像に色をつけています。(クレジット: NASA, ESA, CSA, Harikane et al.)

発表のポイント

◆ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の大規模観測データを用い、120-130億年前の遠方宇宙に10個のブラックホールを発見することに成功しました。
◆この個数は従来の予想と比べて50倍も高く、宇宙の誕生からわずか10-20億年の時代にすでに大量のブラックホールが存在していたことを示しています。
◆見つかった巨大ブラックホールを含む銀河は多様な色・形を示しており、活動的な巨大ブラックホールが様々な種類の遠方銀河に普遍的に存在することを示唆しています。

発表の概要

東京大学宇宙線研究所の播金優一助教を中心とする研究チームは、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の観測データを使い、120-130億年前の遠方宇宙に10個の巨大ブラックホールを発見しました(図1)。この数は従来の研究で予想されていた数の50倍で、宇宙誕生後10-20億年後の遠方宇宙に既に大量の巨大ブラックホールが存在していたことを示す重要な結果です。

研究の内容

私たちの宇宙には、太陽の100万倍から100億倍にも達する重さを持つ巨大ブラックホールが存在しています。このようなブラックホールは銀河の中心に存在していますが、宇宙のどの時代にどのように形成したのかはよくわかっていません。そのため形成間もないと考えられる、昔の宇宙(遠方宇宙)に存在する巨大ブラックホールは、天文学者の重要な研究対象になっています。従来の巨大ブラックホール探査では、ブラックホールが周囲の物質を飲み込む過程で明るく輝く「クェーサー」を探す方法が一般的でした。すばる望遠鏡などの地上の望遠鏡を使った探査により、これまで120-130億年前の遠方宇宙でたくさんのクェーサーが見つかってきました。しかし同じ時代に存在する銀河の数に比べると、クェーサーの数は1000の1以下であり、遠方宇宙ではとても珍しい天体だと認識されていました。

2022年に本格的な運用を開始したジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡により、遠方宇宙においてこれまでの望遠鏡と比べて10倍から1000倍高い感度の観測が可能になり、個別の遠方銀河の性質を詳細に調べることが可能になりました。本研究チームはジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の近赤外分光器NIRSpecで得られた遠方銀河の観測データを解析していく中で、120-130億年前の10個の銀河から、活動的な巨大ブラックホールの存在を示す特徴的な幅広い水素の輝線が出ていることを発見しました(図2)。

この10個という数は従来のクェーサーを使った研究による予想の数の50倍で(図3)、研究チームを驚かせました。チームをリードした播金さんは次のように当時の衝撃を語ります「観測データの中から、巨大ブラックホールの存在を示す幅広い水素の輝線を発見した時は本当に驚きました。これまでの研究から、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の狭い観測範囲では、巨大ブラックホールは1個も見つからないだろうと思っていたからです。最初は何かの間違いかと思いましたが、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の感度があまりにもよく、非常に明確に幅広い水素の輝線が見えているので、これは本物だろうと確信しました。」播金さんは続けます。「なぜこんなに多くの活動的な巨大ブラックホールが遠方宇宙に既に存在しているのか、その理由はまだ不明ですが、宇宙初期における巨大ブラックホールの形成を理解する手がかりになると考えています。」

今回見つかった巨大ブラックホールの画像(図1)を見てみると、多くの天体では巨大ブラックホールからの光と思われる小さくコンパクトな光だけではなく、その巨大ブラックホールを保持する銀河から広がった光も見えています。その色も様々で、黄色く見える銀河もあれば、青白く見える銀河もあります。一方で赤い小さな点のように見える天体もあって、このような天体は研究者の間では“Little Red Dots”という名前で呼ばれています。画像の解析を担当したYechi Zhangさん(論文投稿時東京大学大学院生)は次のように話します。「ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の圧倒的な感度と解像度のおかげで、巨大ブラックホールからの光だけでは無く、それを保持する銀河の光も検出することに成功しました。画像に見られるような多様な銀河の色や形は、活動的な巨大ブラックホールが様々な種類の遠方銀河に普遍的に存在することを示しているのかもしれません。」

さらに研究チームは、スペクトルの情報からこれらの巨大ブラックホールの質量を求めました。研究チームの中島王彦さん(国立天文台特任助教)は以下のように語ります「今回我々が発見した巨大ブラックホールは質量が太陽の100万倍から1億倍と、クェーサーの持つブラックホールに比べて100倍ほど軽く、より形成初期に近い天体であることがわかりました。一方で現在の宇宙に存在する同じような銀河が持つ巨大ブラックホールと比べると質量は10倍から100倍ほど大きく、遠方宇宙でブラックホールが急成長している様子を見ている可能性があります。」

ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡を使った本研究は、予想以上に多くの巨大ブラックホールが存在するという、新たな遠方宇宙の姿を世界に先駆けて明らかにしました。播金さんは今回の研究成果を以下のように締めくくります「私はもともと銀河が専門で、巨大ブラックホールの存在を示す水素の輝線を見るまで、まさか自分がブラックホールの研究を行うとは思っていませんでした。ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡という人類の新しい眼が、我々にワクワクするような予想外の発見をもたらしてくれました。」


図2 : 今回見つかった巨大ブラックホールの観測スペクトルの例 赤色で塗られた幅広い水素輝線が、活動的な巨大ブラックホールの存在を示しています。(クレジット: Harikane et al.)
図3 : 今回見つかった巨大ブラックホールの個数(赤色)と、過去のクェーサーの観測から予想されていた個数(黒色) ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の視野はすばる望遠鏡などに比べて狭く、宇宙の限られた範囲しか観測できないため、巨大ブラックホールのような珍しい天体は1個も見つからないと思われていました。(クレジット: Harikane et al.)


 

12月4日に東京大学本郷キャンパスで開かれた記者会見で説明する播金助教

 

多くの報道記者が出席した記者会見=4日午後2時過ぎ、本郷キャンパス内の伊藤国際学術研究センター中教室で

参考情報

(※)巨大ブラックホールの赤方偏移
今回見つかった10個の巨大ブラックホールの赤方偏移はz=4.015-6.936でした。赤方偏移は宇宙論的距離を表す際に使われる指標です。Planck観測機チームが2015年に公表した宇宙論パラメータ(Planck Collaboration 2016, “Planck 2015 results. XIII. Cosmological parameters”, “TT,TE,EE+lowP+lensing+ext” in Table 4; H0 = 67.74 km/s/Mpc, Ωm=0.3089, ΩΛ=0.6911)を用いて赤方偏移から距離を計算すると122.7-130.4億光年となり、これらの巨大ブラックホールは120-130億年前に存在していたことになります。一方で宇宙は膨張していますので、現在の宇宙では我々と巨大ブラックホールの距離は130億光年以上になります。

(※)クェーサー、活動銀河核と巨大ブラックホール
今回見つかった巨大ブラックホールは、銀河の中で巨大ブラックホールが周囲の物質を飲み込む過程で輝いている、活動銀河核と呼ばれる天体です。活動銀河核の中でも、ブラックホールからの光が非常に明るく、小さな点のように見えるものをクェーサーと言います。今回見つかった天体は図2のように幅広い特徴的な輝線を示しています。このような幅広い輝線は銀河からの光では説明できず、巨大ブラックホール周りの広輝線領域から放出されていると考えられています。今回の天体のように広輝線領域からの幅広い輝線が見られる活動銀河核は、1型の活動銀河核と呼ばれています。宇宙には広輝線領域が隠されて我々から見えないために、幅広い輝線を示さない2型の活動銀河核も存在しますので、実際の巨大ブラックホールの数はさらに多いと予想されます。

論文情報

〈雑誌〉米国の天文学誌「アストロフィジカル・ジャーナル」(12月6日早朝までに電子版掲載)
〈題名〉 “A JWST/NIRSpec First Census of Broad-Line AGNs at z=4-7: Detection of 10 Faint AGNs with MBH〜106-108 Msun and Their Host Galaxy Properties”
〈著者〉Yuichi Harikane, Yechi Zhang, Kimihiko Nakajima, Masami Ouchi, Yuki Isobe, Yoshiaki Ono, Shun Hatano, Yi Xu and Hiroya Umeda
〈DOI〉10.3847/1538-4357/ad029e
〈URL〉https://iopscience.iop.org/article/10.3847/1538-4357/ad029e

発表者

東京大学 宇宙線研究所 宇宙基礎物理学研究部門
播金 優一 助教
大内 正己 教授
兼:国立天文台 教授
小野 宜昭 助教
磯部 優樹 博士後期課程
Yi Xu(徐弈) 博士後期課程
梅田 滉也 博士後期課程
国立天文台 科学研究部
Yechi Zhang(張也弛)日本学術振興会特別研究員
中島 王彦 特任助教
波多野 駿 博士前期課程

研究助成

今回の研究は、科学研究補助金 (課題番号:20H00180, 21J20785, 21K13953, 21H04467) 、学振・研究拠点形成事業JPJSCCA20210003によるサポートを受けています。

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