二重収束型ICP質量分析法(SF-ICP-MS)による海水中の237NpとPu 同位体の同時定量に成功―福島第一原子力発電所からの不測の海洋放出事象に伴う環境の評価に役立つことに期待

ad

2023-11-06 量子科学技術研究開発機構

国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構 量子生命・医学部門 放射線医学研究所 計測・線量評価部の鄭 建 上席研究員らは、同研究所 青野辰雄 上席研究員、中国南京大学 地理と海洋科学学院 Shaoming Pan教授、張 帥 博士、筑波大学 数理物質系 坂口 綾教授らとの共同研究で、海水中の放射性セシウム(Cs)、ネプツニウム-237(237Np)および プルトニウム(Pu)同位体の迅速な測定に成功しました。

37Np(半減期 2.14×106 年)は、原子炉内で生成される放射性核種の一つで、環境における放射能レベルの把握およびその影響を評価することが重要です。しかし、237Npは環境中での濃度が低いこと、収率モニター1)が確保しづらいため、237Np濃度の補正が難しいなどの理由から迅速に定量することができていませんでした。

そこで、Npと分離精製過程で化学的挙動が類似するPu同位体に着目し、これを収率モニターとして使い、237Npと242Puの回収率の差が無視できる程度に小さいことを明らかにして、Npの回収率も補正できることを二重収束型ICP質量分析法(SF-ICP-MS)2を用いて実証しました。また、海水中の237Np濃度が低いために従来、大容量(100L)の海水が必要であったところを、試料量の減容も検討し、大幅に少量の海水(15-20L)で測定できる海水の濃縮方法を開発しました。これに伴い、5日間で12試料と迅速な定量が可能となり、試料採取も容易になったことも併せて、数多くのデータを取得することができます。また、237Npは137Cs(半減期30年)と海洋環境での化学的性質が類似し、環境中で同様の動きをします。本成果により237Npの濃度が定量可能となったことから、半減期を迎えて減っていく137Csに代わるトレーサーとして237Npを用いることで、より長期にわたる放射性核種の海洋循環プロセスを調査研究が可能になると考えられます。

本法で2020年に福島第一原子力発電所沖の海域(60km圏内、水深20m)で採取した海水中の237Np 放射能濃度を測定したところ、0.122~0.154 μBq/Lでした。これは、同海域の237Np濃度の最初の報告になります。今後、福島第一原子力発電所等の原子力施設から不測の海洋放出事象が生じた場合のみならず、ALPS処理水の海洋放出に伴う風評被害を払拭するための中長期な環境モニタリングに役立つことが期待されます。

この成果は、分析化学の分野でインパクトの大きい論文が数多く発表されている「Analytical Chemistry」オンライン版に2023年10月31日付で掲載されました。

なお本研究は、科研費(21H03609)や放射能環境動態・影響評価ネットワーク共同研究拠点課題(P-23-11)および福島県放射性物質環境動態調査事業基金の研究費で行われました。

採取した海水を測定用試料に調整し分析するまでの過程のイメージ

用語解説

1)収率モニター
陰イオン交換クロマトグラフィーにより分離精製する過程で逸失する元素や放射性核種を補正するために、既知濃度の同位体をモニターとして使用します。237Npの分析には236Np​や239Np​が使用されるが、取扱いが難しい欠点があります。

2)SF-ICP-MS
二重収束型ICP質量分析法で、高分解能かつ高質量精度のイオンや分子の分析が可能で、かつ多様なイオン化法に適用できる特徴があります。

3)トレーサー(追跡子)
物質の動きを調べるための目印となる物質です。対象物質と同じ動きをする一方で、対象物質と区別できることが必要です。137Csの半減期が30年であるのに対して、237Npの半減期は2×106年と長いために、237Np​の減衰による濃度低下の影響を避けることができるトレーサーとなります。

掲載論文

Rapid method to determine 137Cs, 237Np and Pu isotopes in seawater by SF-ICP-MS, Shuai Zhang, Zhiyong Liu, Guosheng Yang, Jian Zheng*, Shaoming Pan*, Tatsuo Aono, Aya Sakaguchi (*Corresponding authors), Analytical Chemistry, 2023.doi: 10.1021/acs.analchem.3c02702.

ad

0505化学装置及び設備
ad
ad
Follow
ad
タイトルとURLをコピーしました