2023-09-28 九州大学
ポイント
研究が必要とされる背景:カーボンニュートラルの実現には、気体のままでは貯蔵・運搬の効率が低い水素を、多くのエネルギーを必要としないで貯蔵・運搬し、そのまま利用できる技術の革新が求められている。
当該研究の内容:(1)常温で水素から「1電子」を抽出・貯蔵できる新しい発想の水素エネルギーキャリアとなるニッケル化合物を開発した。(2)必要な時に水素エネルギーキャリアの電子をそのまま還元反応に利用できる。(3)開発した水素エネルギーキャリアは電子還元剤としてだけではなく、触媒としても機能する。
社会に及ぼす影響:(1)本研究は、水素の電子を「常温抽出」「長期間貯蔵」「直接利用」できる新たしい水素エネルギーキャリアを開発した。(2)開発した水素エネルギーキャリアは安価な鉄族元素の一つであるニッケルの化合物である。今後は、さらに安価な鉄の使用を検討する。(3)学術的には、天然のヒドロゲナーゼ酵素と同様に、本研究のニッケル化合物も、ニッケルの酸化数が+1の状態で水素から電子を貯蔵することを明らかにした。
概要
カーボンニュートラルの実現には、気体のままでは貯蔵・運搬の効率が低い水素を、多くのエネルギーを必要としないで貯蔵・運搬し、そのまま利用できる水素エネルギーキャリアの革新が求められています。
九州大学カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所(I²CNER)/大学院工学研究院の小江誠司(おごうせいじ)主幹教授らの研究グループは、近畿大学との共同研究により、常温で水素から「1電子」を抽出・貯蔵できる新しい発想の水素エネルギーキャリアとなるニッケル化合物を開発しました。開発したは、電子を3ヶ月以上安全に貯蔵できて、必要な時に貯蔵した電子をそのまま還元反応に利用できます。学術的には、開発したニッケル化合物は、水素の合成や分解を担う天然のヒドロゲナーゼ酵素と同様に、ニッケルの酸化数が+1の状態で水素から電子を貯蔵することを示しました。
本研究成果は、ドイツの雑誌「Chemistry—A European Journal」オンライン版で令和5年9月25日(月)午前11時(日本時間)に公開されました。
小江主幹教授からひとこと
安価な鉄族元素の一つであるニッケルを使用することで、水素エネルギーキャリア開発の道が開けました。これまでは、白金族元素を触媒として類似の反応を行なっていましたが、高価なためエネルギーキャリアとして使用するという発想はありませんでした。
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論文情報
掲載誌:Chemistry—A European Journal
タイトル:Single-Step Synthesis of NiI from NiII with H₂
著者名: Chiaki Takahashi, Takeshi Yatabe, Hidetaka Nakai, Seiji Ogo*
DOI:10.1002/chem.202302297
研究に関するお問い合わせ先
カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所(I²CNER)/工学研究院 小江 誠司 主幹教授