星の創造の舞台!! オリオン座でのフィラメント分裂による新たな星の誕生の証拠

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2023-09-14 国立天文台

【 概要 】
九州共立大学の島尻芳人教授が率いる国際共同研究チームは、長野県にある野辺山45m電波望遠鏡およびフランスにあるNOEMA電波干渉計を用いて、オリオン座にある星が生まれている場所(星形成領域)NGC 2024(図1)に対して、分子からの放射(分子輝線)の詳細観測を行いました。その結果、分子輝線のデータの詳細分析から得られる円柱状の細長い構造(フィラメント)の内部のガスの動きから、フィラメントが分裂することで、将来的に星を生むもととなるガスの塊(コア)を形成していることを観測から明らかにしました。大部分の星はこのようなフィラメントを介して誕生するため、この結果は、星の誕生メカニズムを解明する上で重要な手がかりとなります。また、観測の副産物として、分子輝線によりフィラメントの太さが異なることも明らかにしました。この結果は、この研究分野で10年以上続いているフィラメントの太さが普遍的かという論争において重要な役割を果たします。
本研究は、2023年4月発行のAstronomy & Astrophysicsに掲載されました。

1.研究背景
夜空に浮かぶ星々は、太陽と同じように自ら輝く恒星と呼ばれます。これらの恒星は、宇宙空間に漂う星間ガスが集まることで誕生します。星間ガスは冷たく暗いため目では見えませんが、2009年から2013年にかけてヨーロッパ宇宙機関(ESA)によって運用されたハーシェル宇宙赤外線望遠鏡によって大規模な調査が行われました。この調査では、我々の太陽系から1500光年以内にある星が生まれている領域(星形成領域)が詳しく観測されました。その結果、星形成領域では円柱状の細長い構造(フィラメント)がいたるところで見つかりました。さらに、星のもとになる密度の高いガスの塊(コア)のほとんどがフィラメントに埋もれていることも明らかになりました。そのため、フィラメントがどのように形成され、フィラメントからどのようにしてコアが生まれるのかということを解明することは、星の誕生の仕組みや、私たちの地球を含む太陽系がどのように形成されたのかという問題を解決する上で残された重要な課題となっています。多くの研究者が世界中でこのフィラメントの形成や進化を研究してきました。これまでのフィラメントに関する観測研究は、ハーシェル宇宙赤外線望遠鏡などによる赤外線の観測により行われてきていました。赤外線を用いると、フィラメントやコアなどの星間ガスの形を広く詳細に調べることができます。しかし、フィラメントの周りやフィラメント内部の運動に関する情報を得ることができず、フィラメントからどのようにしてコアが形成されるかが解明されていませんでした。

星の創造の舞台!! オリオン座でのフィラメント分裂による新たな星の誕生の証拠図1: ハーシェル宇宙赤外線望遠鏡で観測されたオリオン座にある星が生まれている領域(オリオン座B分子雲南部)と今回の観測ターゲットであるNGC 2024領域の拡大図。70μm (青), 160μm (緑), 250μm(赤)の3色合成図。(クレジット:九州共立大学)

2.研究内容と成果
私たちの研究チームは、長野県にある野辺山45m電波望遠鏡とフランスにあるNOEMA電波干渉計を使って、オリオン座にある星が生まれている場所であるNGC2024に対して、ガスの運動を調べることができる分子の放射(分子輝線)を詳しく観測しました(図1)。また、得られた分子輝線のデータに加えて、ハーシェル宇宙赤外線望遠鏡やAPEX電波望遠鏡から得られたデータも使いました。
観測で得られたデータを詳細に分析することで、私たちは、フィラメントが分裂してコアができていることを明らかにしました(図2)。分子輝線は、分子の種類により詳細に調べることができるガスの密度が異なるという特徴を持っています。今回の研究では、野辺山45m電波望遠鏡の同時に複数の分子輝線の観測を高い速度分解能で得ることができるという特徴を最大限に活かし、さまざまな分子輝線の観測データを取得しました。そのため、102 から105 cm-3と3桁の幅広い密度域のガスの運動を調べることができました。そのガスの運動と広がりについて詳しく調べると、ガスがフィラメント中に埋もれたそれぞれのコアに向かって動いていることがわかりました。これは、フィラメントが分裂してコアが形成されている可能性を示していました。さらに、私たちは、分裂中のフィラメントと分裂していないフィラメントの単純なモデルを作り、今回の観測結果と詳細に比較をしました。その結果、観測されたフィラメント内部のガスの動きは、分裂中のフィラメントと似た特徴を持っていることがわかり、やはり、フィラメントが分裂していると解釈して良いことがわかりました。この結果は、異なる密度域を捉えることができるさまざまな分子輝線のデータを同時に分析することで初めて見えてきた結果となります。
大部分の星はこのようなフィラメントを介して誕生することが明らかになっています。そのため、本研究成果は、星の誕生メカニズムを解明する上で重要な手がかりとなります。

0914-shimajiri-fig2-512図2: フィラメント中のガスの動きとコアの分布を表したイメージ。 (クレジット: 国立天文台)

3.副産物としての成果
フィラメントの太さは、理論研究との比較から、フィラメントそのものの形成機構の解明に繋がるため、フィラメントの研究において重要なポイントです。一部の研究グループは、連続波による観測から、その太さが0.3光年で一定だと考えていますが、別のグループは、さまざま分子輝線による観測から、太さは一定でないと考えています。この10年間、その意見は分かれていて、まだ結論が出ていませんでした。しかし、野辺山45m電波望遠鏡を使って、違う種類の分子輝線データで同じフィラメントの太さを測ると、観測している星間ガスの密度によって結果が違うことがわかりました(図3)。さらに、連続波のデータから測定した太さは0.3光年であることがわかりました。この発見は、「連続波データによる測定結果は太さが0.3光年であり、分子輝線データによる測定結果は太さが0.3光年でない」という10年間続いていた論争と一致しています。この結果から、フィラメントの太さが一定かどうかを確定するためには、同じ種類のデータを使って、色々なフィラメントの太さを測る必要があるとわかりました。これは、10年以上続いているフィラメントの太さについての論争に、結論を出すのに重要な結果となります。

0914-shimajiri-fig3-512図3: (a) ハーシェル宇宙赤外線望遠鏡で観測されたNGC 2024領域、(b) 一酸化炭素分子の同位体(13CO)、(b) 一酸化炭素分子の同位体(C18O)、(b) HCO+分子の同位体(H13CO+)、(e)動径方向の分布の比較。(クレジット:九州共立大学)

今後の展望
フィラメントの研究をするためには、広い範囲を観測できる能力や細かい部分まで見える能力、そして、ガスの動きを詳しく調べる能力が必要です。野辺山45m電波望遠鏡は、これらの能力を持ち合わせています。そのため、野辺山45m電波望遠鏡はフィラメントの研究に、最も適した電波望遠鏡の1つであると言えます。
この研究で確立した解析手法は、いろいろな星が生まれる場所の観測データに使えます。軽い星ができる場所から重い星ができる場所まで、さまざまな星が生まれる場所を野辺山45m電波望遠鏡で観測して、同じような解析をすることで、フィラメントからコアへの分裂がどのくらい一般的に起こっているかを調べたいと思っています。

ポイント
今回の研究のポイントは、ガスの運動を詳細に調べることができる分子輝線観測とミリ波帯で世界最大級のアンテナ口径を誇る野辺山45m鏡の特徴を最大限に活かし、フィラメントに付随したガスを先行研究より詳細に調べることで、星のもとになる密度の高いガスの塊(コア)がフィラメントから分裂して作られていることを運動学的に明らかにしたことです。

苦労した点
この研究の観測データを野辺山45m鏡で取得した当時、私は、フランスのサクレー原子力庁センター(CEA/Saclay)に所属していました。もちろん、ヨーロッパにも同様の電波望遠鏡 (IRAM30m)があり、研究のために使っていました。電波望遠鏡の空間分解能(視力)は、アンテナ口径に反比例するため、野辺山45m鏡の方が、IRAM30mより1.5倍良い視力で観測することができます。また、野辺山45m鏡を使うとガスの運動をより詳細に調べることができます。研究計画を練っていると今回のターゲットは、野辺山45m鏡の空間分解能でないと、コアの分裂の様子まで明らかにできないということがわかりました。そのため、わざわざフランスから日本に来て、観測を行いました。今回の成果は、野辺山45m鏡が、フィラメント研究において、最も適した電波望遠鏡の1つであることを示す結果とも言えます。
島尻芳人
九州共立大学 教授

用語説明
[1]NOEMA電波干渉計: NOrthern Extended Millimeter Arrayの略称で、フランス国立科学研究センター(CNRS)と仏国立天文学研究所(IRAM)が共同で運営している電波干渉計。電波干渉計は複数のアンテナ間の干渉信号を組み合わせることで高解像度の観測データを得ることができる。

[2]ハーシェル宇宙赤外線望遠鏡: ヨーロッパ宇宙機関(ESA)が2009年から2013年まで運用していた宇宙望遠鏡。直径3.5メートルの主鏡と、主に赤外線を観測するための観測機器を搭載していた。

[3]APEX電波望遠鏡: Atacama Pathfinder Experimentの略称で、チリのアタカマ砂漠に位置する電波望遠鏡。ヨーロッパ南天天文台(ESO)、ドイツ天文学研究所(MPIfR)、スウェーデン宇宙物理学研究所(Onsala Space Observatory)の共同プロジェクトとして運営されている直径12mの電波望遠鏡。

[4]速度分解能: 物体がどの方向にどれだけ早く移動しているかを区別することができる能力。小さければ小さいほど、より細かい運動を切り分けることが可能となる。本研究では、秒速0.1km/s (時速360km)の速度分解能の観測データを取得し、使用している。

論文・研究メンバー
本論文は、2023年4月発行のAstronomy & Astrophysicsに掲載されました。論文の題目および所属は以下の通りです。
論文名:Witnessing the fragmentation of a filament into prestellar cores in Orion B/NGC 2024
掲載リンク:https://www.aanda.org/articles/aa/full_html/2023/04/aa40857-21/aa40857-21.html
研究チーム:島尻芳人 (九州共立大学, 日本)
Philippe André (Laboratoired’Astrophysique(AIM),Université Paris-Saclay, フランス)
Nicolas Peretto (Cardiff University, イギリス)
Doris Arzoumanian (国立天文台, 日本)
Eva Ntormousi (Scuola Normale Superiore, イタリア)
Vera Könyves (University of Central Lancashire, イギリス)

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