2023-04-13 物質・材料研究機構
NIMSは、素子の「界面」を高度に制御することで、トンネル磁気抵抗 (TMR) 比が室温で世界最高性能となる631%を達成し、従来の最高値を15年ぶりに更新しました。
概要
- 国立研究開発法人物質・材料研究機構 (NIMS) は、素子の「界面」を高度に制御することで、トンネル磁気抵抗 (TMR) 比が室温で世界最高性能となる631%を達成し、従来の最高値を15年ぶりに更新しました。最高性能を示した素子では、TMR比が振動して大きく変化する現象が表れ、その振動幅は141%に達します。この現象はトンネル磁気抵抗素子の基本技術として一層進展させるヒントとなり、この成果は磁気センサーの高感度化や磁気抵抗メモリの大容量化の筋道を拓くものです。
- 磁場によって素子抵抗が変化する現象であるTMR効果は、微細で高感度な磁気センサーや省消費電力の磁気抵抗メモリ (MRAM) に利用されています。素子の抵抗変化の大きさをあらわす「TMR比」が大きいほどセンサーの感度やメモリの集積度を高めることができます。しかし、2008年の604%の報告を最後に室温TMR比の更新は途絶え、この値に迫る報告も無かったため、磁気センサーやMRAMの性能向上は限界が近いと考えられてきました。
- NIMSの研究チームは今回、素子の「界面」を精密に制御することでこの限界を突破しました。TMR素子は磁性層 (磁気を帯びた薄膜) と絶縁層を持つ薄膜から構成されています。素子のすべての層を単結晶で作製し、磁性層と絶縁層との境界部分である界面に非常に薄い金属マグネシウムを導入するなど、原子スケールでの改善を進めた結果、最大で631%のTMR比を示す素子が得られました。また、絶縁層の厚さに依存して周期的に変動するTMR比 (TMR振動) の振動幅が141%と大きく増幅される (従来は数%~数十%程度) ことも発見しました。振動幅とTMR比との関係は良く解っていませんが、今後この巨大な振動現象のメカニズムを調べ、TMR比との関係を明らかにすることでさらなる更新が期待できます。
- 今回の成果を突破口とし、今後は医療用の超高感度磁気センサーの実現や超大容量MRAM開発の加速につなげます。
- 本研究は、磁性・スピントロニクス材料研究センターのトーマス シャイケ NIMS特別研究員、介川 裕章グループリーダーらによって行われ、主にNEDO (国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構) 「電圧駆動不揮発性メモリを用いた超省電力ブレインモルフィックシステムの研究開発 (JPNP16007) 」の委託業務の一環として得られたものです。
- 本研究成果は、Applied Physics Letters誌の2023年3月15日発行号 (Vol. 122 , Issue 11) にて掲載されました。
プレスリリース中の図 :本研究で開発した積層素子の構造 (図左) において、世界最高の室温TMR比631% (図右) が達成されました。
掲載論文
題目 : 631% room temperature tunnel magnetoresistance with large oscillation effect in CoFe/MgO/CoFe(001) junctions
著者 : Thomas Scheike, Zhenchao Wen, Hiroaki Sukegawa, and Seiji Mitani
雑誌 : Applied Physics Letters, vol. 122, p. 112404 (2023).
掲載日時 : 2023年3月15日 (米国日時)
DOI :10.1063/5.0145873