予想外に出現が少なかった2022年のしぶんぎ座流星群 (後編)

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2022-03-18 国立天文台

しぶんぎ座流星群の塵の軌道の様子。2020年4月の木星と塵の位置を示しました。
しぶんぎ座流星群の塵の軌道の様子。2020年4月の木星と塵の位置を示しました。塵の軌道はあくまで模式的で、実際にはもっと複雑に分布していることが予想されます。(クレジット:国立天文台) オリジナルサイズ(235KB)

不安定な軌道

流星の経路を観測し、流星が飛来した方向と速度が求まると、流星の元となる塵(ちり、流星物質)がそれまでに太陽系内を運動してきた軌道を求めることができます。しぶんぎ座流星群の元となる塵の分布は、太陽に近いときに地球軌道と交差し、太陽から遠ざかるときには木星軌道付近を通過するという軌道を描いています(図)。木星は太陽系最大の惑星で、その引力も大きく、木星に接近すると天体の軌道が変化してしまいます。木星は約12年の周期で太陽の周りを公転していますから、12年に1度のペースでこの塵の流れと接近し、その付近に存在する塵の軌道を変化させます。つまり、しぶんぎ座流星群となる塵は、木星によって軌道が乱されやすい状況にあるのです。このような不安定な状況にもかかわらず、毎年のように多くの流星が出現する三大流星群の一つとなっていることは不思議です。

木星と接近傾向にあった2022年の流星の塵

近年において、しぶんぎ座流星群の塵の軌道に木星が接近したのは、2020年4月頃です。塵が木星軌道付近から地球に達するのには2年から2年半かかるため、2022年と2023年に地球に衝突して流星となるような塵は、その当時、木星とやや接近する状況にありました(図)。短絡的には、微妙に塵の流れが変わって地球に衝突しなくなり、2022年の流星数が少なくなった可能性も十分に考えられます。

ただし、地球に衝突する軌道ではない塵も周囲には広がっているはずです。このような塵がやはり木星の引力の影響を受けて、新たに地球と衝突するようになることもあります。この場合には、むしろ例年よりも流星活動が活発化することになります。実際に1987年などは、木星の影響を受けた塵によって、例年よりもしぶんぎ座流星群が活発化したことが推測されています。

2023年に地球と衝突する塵も、2022年の塵とはまた別の位置で木星の引力の影響を受けているようです。しぶんぎ座流星群の全体像を把握するためには、2023年の観測もとても重要です。

2023年のしぶんぎ座流星群

最後に、2023年のしぶんぎ座流星群の状況について紹介します。極大は1月4日12時(正午)頃と予想されます。この時間帯は昼間ですので、日本で観測することはできません。最も多くの流星が見られるのは、その前の夜である1月4日の夜明け頃(東京では午前5時頃)と考えられます。当日の月の入りは午前4時26分(東京)で、それまでは月齢11の月が空に輝き観測条件はあまり良くありません。月が沈んだ4時半頃から5時台の短い時間が観察におすすめの時間となるでしょう。1時間あたりに見られる流星数は、(一般的には)空の暗いところでも10個から20個程度の寂しい状況になると予想されます。

なお、前述の通り、2023年の場合も、木星とやや接近傾向にあった塵が地球と遭遇することによる流星の出現となります。見られる流星の数は、もし、活動度が少ない状況へと影響が出ると少なくなりますし、逆に活発になる方向に影響が出れば若干増えるかもしれません。また、木星の引力の影響が、極大時刻の変化や、極大の継続時間の変化となって表れることもあります。可能性は低いのですが、極大時刻が前にずれたり、あるいは継続時間が長くなったりするような変化が起こる場合には、予想外に流星が多く出現することもあるかもしれません。

まとめ

放射点から出現するしぶんぎ座流星群の様子。 2022年1月4日午前4時台に出現した流星を合成。
放射点から出現するしぶんぎ座流星群の様子。 2022年1月4日午前4時台に出現した流星を合成。(クレジット:内藤誠一郎)
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2022年のしぶんぎ座流星群が予想以上に出現数が少なかった理由は、残念ながら現段階では判明していません。ただ、前述の通り、2022年に流星となった元の塵が2020年頃に木星に接近傾向にあったため、その引力の影響があったことは有力な理由の一つだと考えています。この他にも、しぶんぎ座流星群全体が衰退期に入った可能性も考えられます。詳しい状況は、今後の研究でぜひ解き明かしたいと思います。

2023年のしぶんぎ座流星群も、木星と接近傾向だった塵による流星を観察することになるため、観測することはとても重要と捉えています。「あのときの状況はこうだった」と説明できる日が来るためには、その時々の観測が大事です。塵が木星に接近したことは、出現状況に影響するのかどうか、そんなことにも注目しながら、しぶんぎ座流星群を観察してみてはいかがでしょうか。

文:佐藤 幹哉(国立天文台 天文情報センター)

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