2021-04-06 国立天文台
本研究の概念図。非接触体温計でも使われている中間赤外線の波長域で彗星を観測すると、現在の温度のみならず、彗星表面の物質の情報から彗星が経験してきた熱履歴を知ることができます。(クレジット:京都産業大学) オリジナルサイズ(731KB)
すばる望遠鏡により、地上からの観測としては初めて、彗星(すいせい)の本体である核の表層の成分を捉えることに成功しました。解析の結果、この彗星は現在の軌道で予想されるよりも高い温度の状態を、過去に経ていたことが分かりました。
太陽系小天体と総称される彗星や小惑星は、46億年前の太陽系の形成時に作られ、原始太陽系の情報を保持していることから、近年重要視されています。太陽の近くで形成された小惑星は岩石質であり、太陽から遠く離れた場所で形成された彗星は主成分が水などの揮発性分子の固体であることなどから、両者は大きく異なる天体だと考えられてきました。しかし、観測が進むにつれて、小惑星軌道にありながら彗星のように塵(ちり)を放出するような天体も見つかるようになりました。
P/2016 BA14 (PANSTARRS)も、発見時は小惑星とされましたが、後に塵の放出が観測されて彗星に分類された天体です。2016年3月、この彗星は地球から月までの距離のおよそ9倍というたいへん近くを通過しました。彗星が地球に最接近する30時間前、すばる望遠鏡で中間赤外線域の撮像・分光観測を行った結果、彗星としては初めて、水を含んだケイ酸塩鉱物の存在を明らかにしました。液体の水と鉱物が反応して作られる含水鉱物は、水が液体として存在しない彗星からはこれまで明確に確認されたことがなかったのです。また、この鉱物が示す特徴から、この彗星は摂氏300度以上の温度になった履歴を持つ可能性があることが分かりました。彗星の表面温度は、現在の軌道では摂氏120度以上になり得ないため、かつては太陽により近づく軌道だったのかもしれません。
今後、さまざまな進化段階の彗星の核を赤外線で観測して、含水ケイ酸塩鉱物が、彗星に普遍的に存在するのか、あるいは加熱された履歴を持つ進化した彗星にのみ存在するのかを、鉱物の生成機構とともに明らかにし、さらに太陽系小天体の誕生と進化について解明していくことが期待されます。
この研究成果は、Takafumi Ootsubo, Hideyo Kawakita, Yoshiharu Shinnaka, “Mid-infrared observations of the nucleus of comet P/2016 BA14 (PANSTARRS)”として、米国の国際惑星科学誌『イカルス』オンライン版に2021年3月15日に掲載されました。