スーパーコンピュータで時間を戻して探る宇宙の始まり

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2021-02-16 国立天文台

宇宙の大規模構造と再構築法のイメージ宇宙の大規模構造と再構築法のイメージ。再構築法は、右手前から左奥へと移り変わるように、宇宙の大規模構造の進化の時間を戻し、初期の密度ゆらぎの分布に近づける作用を持つ手法。(クレジット:統計数理研究所) オリジナルサイズ(1.7 MB)


宇宙が始まった頃の様子を探るために、スーパーコンピュータを用いたシミュレーションによって、宇宙の構造進化の時間を戻しごく初期の状態に近づけるという新しい手法が、初めて開発されました。宇宙初期の状態を説明する理論を検証するには、膨大な宇宙観測のデータが必要ですが、今回開発された手法を用いることで、観測に必要な時間を大幅に短縮することが期待できます。

宇宙での銀河の分布は一様ではなく、「宇宙の大規模構造」と呼ばれる泡のような構造を作っています。この構造は、宇宙初期に起こった加速的な膨張に起因するミクロな密度ゆらぎが、重力の作用によって成長し形成されたと説明されています。これが「インフレーション理論」です。しかし、この理論にも複数の説が存在し、どれが実際の初期宇宙で起こったことをよく記述する説なのか、観測による検証が試みられています。

インフレーション理論を検証するには、宇宙初期の密度ゆらぎの性質の情報を観測から導くことが必要です。その方法の一つが、宇宙の大規模構造を作る銀河の分布から密度ゆらぎの性質を見積もることです。しかし大規模構造は、138億年にわたって重力による複雑な進化を続けてきたため、銀河の分布から初期の密度ゆらぎの情報を得るのは難しいとこれまで考えられてきました。

このような問題に対し、統計数理研究所で研究を進める白崎正人(しらさき まさと)国立天文台助教が率いる研究チームは、宇宙の大規模構造の進化の時間を近似的に戻す手法「再構築法」を用いて、銀河の分布を宇宙初期の密度ゆらぎに近づけられないかと考えました。まず、密度ゆらぎに基づいた銀河分布を初期状態とし、重力多体シミュレーションを行って、現在の宇宙へ進化させた模擬的な銀河の分布データを作成します。このデータに対して再構築法を施し、近似的に宇宙初期まで時間を戻した銀河分布を新たに作成しました。研究チームは、初期の銀河分布を変えた4000例ものシミュレーションを行いながら、再構築法で得られた銀河分布を精密に検証しました。これらのシミュレーションには、国立天文台の天文学専用スーパーコンピュータ「アテルイⅡ」が用いられました。

その結果、初期状態の銀河分布と再構築法を用いて得られた銀河分布には、たいへんよく似た統計的性質が見られたことから、重力による進化の影響を十分取り除くことができたと考えられます。つまり、再構築法を実際の観測で得られたデータに適用すれば、重力進化の影響を取り除くことができ、これまで難しいと考えられていた宇宙初期の密度ゆらぎの情報を引き出すことができるのです。さらに、再構築法を用いると、大規模構造の観測データ量が約10分の1であっても、直接解析する場合と同等の精度で解析ができることが、今回の研究で分かりました。

本研究の成果は、既存の銀河ビッグデータに適用可能であるだけでなく、すばる望遠鏡に搭載する予定の「超広視野多天体分光器(PFS)」を用いた銀河サーベイ観測のデータなどにも応用できるため、観測時間を大幅に短縮できることが期待されます。いわば、宇宙の始まりを科学的に検証できる“時短テクニック”を手に入れたのです。

この研究成果は、Shirasaki et al. “Constraining primordial non-Gaussianity with postreconstructed galaxy bispectrum in redshift space” として、米国の物理学専門誌『フィジカル・レビュー D』オンライン版に2021年1月4日付で掲載されました。

1701物理及び化学
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