廃棄豚骨が有害金属吸着剤に~廃材を利用した安価で高性能な金属吸着技術を実現~

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2021-02-04 日本原子力研究開発機構,東京大学大学院理学系研究科

【発表のポイント】

  • 鉱山や工業地帯周辺などでは、有害金属による環境汚染について、以前よりさまざまな防止対策が行われています。また、東日本大震災に伴う東京電力福島第一原発事故以降、放射性物質の流出及び広域拡散を防止する技術の重要性が改めて認識されています。環境中における有害金属の広域拡散を防止するためには、高性能かつ安価で大量に生産可能な吸着剤の確立が必要とされています。
  • 食品廃棄物として多量に排出される牛骨や豚骨は、高い有害金属吸着性能を持つことが知られています。そのメカニズムについて調べた結果、骨のアパタイトに含まれる炭酸が金属吸着性能に大きく寄与していることを発見しました。
  • 食品廃棄物の豚骨ガラを重曹水溶液に漬け込むことで作製した、炭酸成分を多く含む高炭酸含有アパタイトは、未処理の骨と比べて250倍、ストロンチウム吸着剤として知られる天然ゼオライト吸着剤と比べて約20倍の効率でストロンチウムを吸着しました。また、有害金属であるカドミウムや鉛に対しても高い吸着能力を示しました。
  • このように、極めて簡易な方法で、身の回りにある廃棄骨を原料とする環境除染材料を開発することに成功しました。本成果は、汚染水の浄化や環境浄化、また、有用金属回収用途への応用が期待されます。

【概要】

国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(理事長 児玉敏雄)物質科学研究センターの関根由莉奈研究員ら、先端基礎研究センターの南川卓也研究員ら、国立大学法人東京大学(総長 五神真)大学院理学系研究科の山田鉄兵教授、国立研究開発法人物質・材料研究機構(理事長 橋本和仁)の根本善弘NIMSエンジニア、竹口雅樹グループリーダーの研究グループは、ストロンチウムやカドミウムなどの金属に対して高い吸着性能を有する骨の特徴を活かすことで、廃棄豚骨を原料とした安価かつ高効率な吸着剤を開発しました。

鉱山や工業地帯周辺などでは、有害金属による環境汚染について、以前よりさまざまな防止対策が行われています。また、東日本大震災に伴う東京電力福島第一原発(以下、1F)事故以降、放射性物質を含む汚染水の処理や、放射性物質の流出及び広域拡散を防止する技術の重要性が改めて認識されています。なかでも、骨に取り込まれやすく、人体への影響が懸念される放射性ストロンチウム[1]の広域拡散の防止が重要であり、高性能かつ安価で大量に生産可能な吸着剤の確立が必要とされています。

食品廃棄物として多量に排出される牛骨や豚骨は、高い金属取り込み性能を持つことが知られています。そのため、過去には安価で大量に利用可能な吸着剤として、実際の原子力施設で放射性元素の除去に利用する試みも行われていました。しかし、その性能は十分ではなく、実用化には至っていませんでした。そこで本研究グループは、骨がストロンチウムやカドミウムなどの金属に対して高い吸着性能を有するメカニズムを明らかにするとともに、その性質をうまく利用することで、既存の低コストな天然吸着剤よりも高い効率で、ストロンチウムやカドミウムなどの有害金属を吸着して取り除くことができる新しい吸着剤を開発することに成功しました。

食品廃棄骨の“豚骨”を重曹(炭酸水素ナトリウム)[2]に浸け込むだけで、低コストで容易に作ることができる吸着剤を実現した本研究成果は、食品廃棄物の有効活用に繋がるだけではなく、汚染水[4]の浄化、土壌に埋めることで汚染物質の地下水や海水への流入を防ぐ技術、また、有用金属回収技術への活用が期待されます。

本研究は、日本原子力研究開発機構 物質科学研究センターが研究全体をとりまとめ、先端基礎研究センター、東京大学大学院理学研究科、物質・材料研究機構と共同で研究を行ったものです。

本成果は、国際学術誌「Journal of Environmental Chemical Engineering」のオンライン公開版(1月21日(日本時間))に掲載されました。

【これまでの背景・経緯】

鉱山や工業地帯周辺などでは、有害金属による環境汚染について、以前よりさまざまな防止対策が行われています。また、2011年の東日本大震災に伴う1F事故以降、放射性物質を含む汚染水の処理や、放射性物質の流出及び広域拡散を防止する技術の重要性が改めて認識されています。放射性元素の中でも、骨に取り込まれ易く、人体への影響が懸念される放射性ストロンチウムを捕集する手法の確立は重要です。有害金属や放射性ストロンチウムの広域拡散を防止するためには、高性能でかつ安価で大量に生産可能な吸着剤の確立が必要とされています。

以前より、骨はストロンチウムやカドミウム、鉛[3]などの金属を取り込み易いことが知られていました。特に、食品廃棄物として多量に排出される牛骨や豚骨は、高い有害金属取り込み性能を持つことが知られており、過去には安価で大量に利用可能な吸着剤として実際の原子力施設で放射性元素の除去に利用する試みも行われていました。しかし、その性能は十分ではなく、実用化には至っていませんでした。骨の持つ高い有害金属取り込み性能の理由として、骨の主成分である炭酸アパタイト[4]に含まれるカルシウムとそれらの金属の性質が似ていること、また、構成成分である炭酸の性質によるものと考えられてきましたが、その詳しいメカニズムは不明でした。

このような背景から、本研究グループは、骨がストロンチウムやカドミウム、鉛などの金属に対して高い取り込み性能を有するメカニズムを解明できれば、より効率的に汚染水や環境中からストロンチウムやカドミウム、鉛などの有害金属を除去できる吸着剤が創製できるのではないかと考えました。一方、食品業界においては、世界では1年間で75億トンの廃棄骨が発生しており、その有効な処理法が模索されています。したがって、食品廃棄物である豚骨ガラを原料に利用することで、安価で環境に優しい吸着剤の開発が可能になるだけでなく、同時に食品廃棄物の処理問題の解決にもつながると考えました。そこで、骨の主成分である炭酸アパタイトに含まれる炭酸の効果に着目して、含まれる炭酸量が異なる炭酸アパタイト材料を作成して、そのストロンチウムやカドミウム、鉛に対する吸着性能を調べました。

【今回の成果】

本研究グループは、食品廃棄物である豚骨ガラと、食品添加剤としても利用される重曹(炭酸水素ナトリウム)を利用して実験を行いました。豚骨を加圧加温した後、重曹を含む水溶液に浸漬させたところ、骨の形を保った白い構造体の形成を確認しました(図1)。この構造体の組成と微細構造を調べたところ、ナノメートルサイズの炭酸アパタイト結晶から構成されていることが分かりました。この炭酸アパタイトには、通常の骨よりも多くの炭酸が含まれており、浸漬させる重曹水溶液の濃度を増加させると、その炭酸量も増加しました。したがって、重曹に浸漬させることによって、多くの炭酸を含む高炭酸含有アパタイト(以下、炭酸アパタイトという)が形成することが分かりました。

図1 廃棄骨から作製した炭酸アパタイトとその顕微鏡画像

作製した炭酸アパタイトをストロンチウム (0.1mol/Lの濃度)を含む水溶液中で攪拌した後に、溶液中に残存したストロンチウムを測定して、ストロンチウム吸着性能を調べました。その結果、炭酸アパタイトは、3分以内に溶液中の99%以上のストロンチウムを吸着しました。その吸着性能をより詳細に調べたところ、炭酸アパタイトの分配係数Kd値[5]は274,780 mL/gであり、未処理の骨に比べて約250倍高い値を示しました(図2左)。さらに、ストロンチウム吸着剤として知られている天然ゼオライトの一種であるクリノプチロライト[6]と比較したところ、炭酸アパタイトのKd値はクリノプチロライトの約20倍という高い値を示しました。

次に、吸着剤の性能として重要な最大吸着量を調べたところ、作製した炭酸アパタイトは、1gあたり最大125mgのストロンチウムを吸着することが分かりました(図2右)。これは、未処理の骨およびクリノプチロライトと比べて約5倍の高い値でした。また、実際の環境を模擬するため、地下水と同じ組成のストロンチウム水溶液を利用して吸着性能を評価したところ、炭酸アパタイトの吸着性能は維持されたままであることが分かりました。

図2 炭酸アパタイトのストロンチウム除去性能

炭酸アパタイトが高いストロンチウム吸着性能を示す要因を明らかにするために、異なる量の炭酸を含む炭酸アパタイトを作製して、ストロンチウムに対する吸着性能を調べました。その結果、炭酸アパタイトに含まれる炭酸の量が多くなると、ストロンチウムに対する吸着性能が向上することが分かりました(図3)。また、炭酸アパタイトの表面の性質を調べたところ、炭酸が導入されることにより、表面が負の電荷に帯電[7]し、正電荷のストロンチウムが吸着されやすい状態になっていることを確認しました。さらに、X線吸収微細構造評価法[8]を利用して、炭酸アパタイトに吸着したストロンチウムの周囲の化学構造を調べたところ、炭酸アパタイトではストロンチウム吸着に適した新しい吸着サイト[9]が形成されていることが分かりました(図4)。

図3 炭酸量の増加に伴うストロンチウム吸着性能の向上

図4 炭酸アパタイトの吸着サイトにストロンチウムが吸着される様子

本研究グループはさらに、炭酸アパタイトのカドミウムや鉛に対する吸着性能を調べました。結果、炭酸化アパタイトは、カドミウムや鉛に対しても高効率に吸着することが分かりました。特に、カドミウムに対しては、有害金属吸着剤としても利用されるクリノプチロライトに比べて約370倍、同じく吸着剤のモルデナイト[10]に比べて約3,200倍高い吸着性能を示しました(図5)。以上のことから、炭酸アパタイトは環境を浄化する吸着剤としても有用である可能性が高いことが分かりました。

このように、食品廃棄骨を重曹に漬け込むことだけで、ストロンチウムだけでなく、カドミウムや鉛といった有害金属に対して高い吸着性能を示す材料の作製が可能であることが分かりました。

図5 高炭酸含有アパタイトのカドミウム、鉛に対する除去性能

【今後の展望】

食品廃棄物の豚骨を利用して、ごく簡単な工程で、高い性能の重金属吸着性能を有する吸着剤の開発に成功しました。この材料は、汚染水の浄化だけでなく、土壌中に埋め込むことで汚染物質が地下水などの環境中に広がることを防ぐことができることから、人が有害金属を摂取する可能性を最大限に減らす目的での利用が期待されます。国内外において環境汚染問題、及びそれに伴う健康被害を解決する技術としての展開が期待されます。さらに、有用金属を回収することを目的とした吸着剤としても利用が期待されます。

なお、本成果に関連して、国内外で特許を出願中です。

<付記>

各研究者の役割は以下の通りです。

  • 関根、南川(日本原子力研究開発機構):食品廃棄物の豚骨を利用した吸着剤開発にかかる実験のデザイン
  • 関根、南川、松村、杉田、下山、香西、諸岡(日本原子力研究開発機構)、山田(東京大学)、根本、竹口(物質・材料研究機構):本研究にかかるデータの収集と分析
  • 関根、南川(日本原子力研究開発機構):骨を利用した有害金属除去法のメカニズムについて理論に基づいた説明
【論文情報】

○雑誌名:Journal of Environmental Chemical Engineering

○タイトル:Carbonated nanohydroxyapatite from bone waste and its potential as a super adsorbent for removal of toxic ions

○著者名:Yurina Sekine1,2, Takuya Nankawa2, Teppei Yamada3, Daiju Matsumura1, Yoshihiro Nemoto4, Masaki Takeguchi4, Tsuyoshi Sugita2, Iwao Shimoyama2, Naofumi Kozai2, & Satoshi Morooka1

○所属:1 日本原子力研究開発機構 物質科学研究センター、2 日本原子力研究開発機構 先端基礎研究センター、3 東京大学、4 物質・材料研究機構

【用語の説明】

[1] 放射性ストロンチウム
放射性同位体の一種であり、ストロンチウム90(元素記号:90Sr)と表記される。ウランやプルトニウムの核分裂生成物として数%程度生成し、半減期は28.90年である。

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