2020-12-15 国立天文台
本研究の概念図。太陽風やブラックホール周辺の降着円盤の中で、プラズマを構成しているイオンと電子が乱流になって加熱される。(クレジット:川面洋平) オリジナルサイズ(660KB)
宇宙のさまざまな天体に存在しているプラズマ。これまで謎とされてきたそのプラズマの加熱機構が、国立天文台の「アテルイⅡ」をはじめとする複数のスーパーコンピュータを用いた大規模計算によって、初めて導き出されました。
太陽から吹き出る太陽風や、ブラックホールを取り巻く降着円盤は、プラスの電気を帯びたイオンとマイナスの電気を帯びた電子から成るプラズマでできています。宇宙に存在するプラズマは高温かつ希薄で、イオンと電子との衝突がほとんど起こらない「無衝突」状態にあります。そのため、イオンと電子は直接相互作用をせず、異なった温度で存在することが可能です。実際に、太陽風の観測や降着円盤の理論モデルからは、イオンのほうが電子よりもはるかに高温になっていることが分かっています。しかし、なぜイオンが電子より高温になるのかは、長年にわたって未解決の問題でした。
この問題を解決するには、コンピュータ・シミュレーションで無衝突プラズマの乱流を再現し、イオンと電子が乱流によってどのように加熱されるかを計算する必要があります。プラズマの乱流中には、音波のような縦波的ゆらぎと、ロープを伝わる波のような横波的ゆらぎが存在します。これまでの研究では、両方を同時に計算することが難しいため、横波的ゆらぎのみを考えた計算がされてきました。しかし、このような計算では、イオンが高温となる理由を必ずしも説明できるとは限りませんでした。
東北大学学際科学フロンティア研究所の川面洋平助教授を中心とする国際研究チームは、ゆらぎの中のゆっくりとした変動に着目する「ジャイロ運動論」を応用して計算量を減らし、問題の解決を試みました。そして、アテルイⅡをはじめ複数のスーパーコンピュータを用いた大規模計算によって、世界で初めて、縦波的ゆらぎも含む無衝突プラズマ乱流のシミュレーションに成功しました。その結果、イオンが縦波的ゆらぎのエネルギーを選択的に吸収して電子よりも高温になることを、初めて突き止めたのです。
この発見によって、さまざまな天体現象でイオンが電子より高温である事実を説明することができます。さらに、2019年に公開されたイベント・ホライズン・テレスコープによるブラックホールの影の撮像結果を、より良い精度で解析するための重要な情報を与える成果です。
この研究成果は、Y. Kawazura et al. “Ion versus Electron Heating in Compressively Driven Astrophysical Gyrokinetic Turbulence”として、米国の物理学専門誌『フィジカル・レビューX』に2020年12月11日付けで掲載されました。