欧州委員会/共同研究センターの PUNITA を用いた遅発ガンマ線測定技術開発
『原子力機構の研究開発成果2020-21』P.97
図10-2 遅発ガンマ線測定試験装置概略図
サンプルは中性子発生管により照射され、核分裂生成物が生成されます。その後、サンプルは測定器近傍まで移送された後、核分裂生成物が崩壊する際に放出するガンマ線の計測が行われます。このサイクルを統計上十分なスペクトルが得られるまで繰り返します。
図10-3 U-235 及び Pu-239 由来の核分裂生成物のガンマ線スペクトル
中性子照射により得られた遅発ガンマ線スペクトルです。放出されたガンマ線の比率により元の核分裂性物質の組成が分かります。((50 秒照射+ 50 秒測定)を 50 回繰り返して測定しました。)
核不拡散・核セキュリティ総合支援センター(ISCN)では、保障措置において、原子炉の使用済燃料などに含まれる核燃料物質の非破壊分析を可能とする技術として、アクティブ法の一つである遅発ガンマ線分析法の開発を行っています。これは、中性子を試料に照射して、核分裂を誘発させ、生成した核分裂生成物の崩壊に際して放出される一連のガンマ線を測定し、分析する技術です。
核分裂における生成物の量は、元となる核分裂性物質(U-235、Pu-239 や Pu-241)の量、各核種の核分裂断面積、核分裂収率によって決まります。そのため、測定で得られるガンマ線スペクトルは、元となる核分裂性物質固有のものとなります。このことは、スペクトルの分析で核分裂性核種比(理想的には各核分裂性核種量)を求めることを可能としています。図 10-2 は、遅発ガンマ線測定装置の概略を示したもので、サンプルは中性子照射されたのちに検出器まで移送され、測定されます。その後、再び中性子照射のために移送されます。このサイクルを統計的に十分なガンマ線スペクトルが得られるまで繰り返します。
使用済燃料は、それに含まれる長寿命核分裂生成物によって 2000 keV 以下の強いガンマ線を放出します。それが高いバックグラウンドとなってしまうため、そのままガンマ線を計測することは現実的ではありません。本技術では、バックグラウンドの影響を受けない2500 keV 以上の高エネルギーガンマ線に着目します。鉛などの遮へいを通して測定すると、高エネルギーのガンマ線は低エネルギーのものに比べ減衰率が低いため、バックグラウンドを抑制した状態で測定できます。
本技術が核物質の分析に有用であることを示すため、欧州委員会/共同研究センターのイスプラ研究所(イタリア)において、小型パルス中性子源(D-T 中性子発生管)を用いた非破壊測定試験装置である PUNITA(Pulsed Neutron Interrogation Test Assembly)を用いた共同実験を行いました。図 10-3 は、U-235 とPu-239 の標準試料を測定したもので、二つのスペクトルに明らかな違いがあることから、実際にこの技術が核分裂性物質の分析に有用であることが確認できました。
今後は、効率的な測定法の確立、システムの小型化といった開発を進めるため、中性子の照射パターンや測定サイクル、中性子源、遮へい体、検出器等について、シミュレーション解析や実験を通した研究を進め、使用済燃料などの高い放射能を持つ物質への適用を目指していきます。
本研究は、文部科学省の「核セキュリティ強化推進事業補助金」により実施しました。(山口 知輝、Douglas Chase Rodriguez)
●参考文献
Rodriguez, D.C. et al., Utilizing PUNITA Experiments to Evaluate Fundamental Delayed Gamma-Ray Spectroscopy Interrogation Requirements for Nuclear Safeguards, Journal of Nuclear Science and Technology, vol.57, issue 8, 2020, p.975–988.