2020-09-30 原子力規制庁
1.経緯
東京電力福島第一原子力発電所事故に関し、現場の環境改善や廃炉作業の進捗により、原子炉建屋内部等へのアクセス性が向上し、施設の状態確認や試料の採取が可能な範囲が増えていることを踏まえ、昨年9月11日、原子力規制委員会は、追加的な調査・分析に取り組む方針を了承した。その後、原子力規制庁としては「東京電力福島第一原子力発電所における事故の分析に係る検討会」(以下「事故分析検討会」という。)における検討(参考1、2)、現地調査(参考3)をはじめとした調査・分析を実施してきたところである。
具体的な調査・分析項目は、以下のとおり。
(1)原子炉格納容器(PCV)からの放射性物質等の放出又は漏えい経路・箇所
① PCV の耐圧強化ベントシステムにおける汚染状況の把握
②-1 PCV トップヘッドフランジからの放射性物質等の放出状況の把握
②-2 PCVトップヘッドフランジ通過後の放射性物質等の捕獲状況等の把握
(2)原子炉冷却に係る機器の動作状況
① 3号機自動減圧系(ADS)の作動状況
② 3号機主蒸気逃がし安全弁(SRV)の作動状況の詳細分析
③ 3号機 PCV 及び原子炉圧力容器(RPV)内の圧力挙動からの事故進展の把握
(3)水素爆発の詳細分析
① 3号機の水素爆発のプロセス
② 4号機の水素爆発に関する追加知見の収集
なお、調査・分析は、福島第一原子力発電所の廃炉作業との干渉・重複等に対する調整等が必要となるため、「福島第一原子力発電所廃炉・事故調査に係る連絡・調整会議」(以下「連絡・調整会議」という。)において、以下のような項目について調整等を行った上で実施してきている(参考4)。
・1/2号機排気筒の撤去方法・時期
・2号機オペレーションフロアの除染作業の方法・時期
・1~4号機非常用ガス処理系(SGTS)室内調査の実施方法 等
2.検討状況
(1)PCV からの放射性物質等の放出又は漏えい経路・箇所
① PCV の耐圧強化ベントシステムにおける汚染状況の把握 (参考:補足説明資料 p12~16)
1/2号機の耐圧強化ベントラインは、3/4号機の耐圧強化ベントラインに比べて汚染レベル(線量率)が高いことが確認された。
→汚染レベルが異なる要因として、ベント時の炉心損傷の状態、ベント時点における PCV 内の雰囲気中のセシウム(Cs)量の違い、ベントガスの流動等が考えられる。
2号機のラプチャーディスク(R/D)部分の汚染レベル(線量率)は、3号機の R/D の汚染レベルよりも三桁以上低いことが確認された。
→3号機のR/Dは作動したが2号機のR/Dは作動しなかったと考えられる。
2号機の SGTS フィルタの汚染レベル(線量率)は原子炉建屋側よりも排気筒側の方が高いことが確認された。また、1号機は SGTS 室全体の汚染レベル(線量率)が高いことが確認された。
→1号機のベントにより生じたベントガスは、1号機の耐圧強化ベントラインを通って2号機原子炉建屋(SGTS)に逆流するとともに、1号機原子炉建屋(SGTS)自身にも逆流したと考えられる。
②-1 PCV トップヘッドフランジからの放射性物質等の放出状況の把握 (参考:補足説明資料 p17~19)
3号機原子炉建屋4階付近に汚染レベル(線量率)が高い箇所が確認された。
→3号機オペレーションフロア上の高線量がれきの4階への崩落、又は、機器貯蔵プールとウェルの隙間からオペレーションフロアに吹き出した Cs等を含む水蒸気の局所的な付着・凝縮が考えられる。
3号機 PCV の圧力挙動を分析した結果、2011年3月13日に瞬間的に2回最高使用圧力(Pd)を超えたものの、それ以外では1Pd 未満であり、1号機及び2号機に比べて低い圧力で推移していることが確認された。
→PCV 圧力が高くなる前に PCV からの漏えいが発生したと考えられることから、過圧破損よりも過温破損が発生した可能性が高いと考えられる。
②-2 PCV トップヘッドフランジ通過後の放射性物質等の捕獲状況等の把握 (参考:補足説明資料 p20~21)
1~3号機原子炉建屋のオペレーションフロアの放射線計測結果等を分析した結果、PCV の上部に設置されているシールドプラグで汚染レベル(線量率)が高いことが確認された。
→3号機については、シールドプラグ周辺の汚染等の影響を取り除いた分析により、シールドプラグの下面に極めて多量の放射性物質が存在していると考えられる。
→2号機については、シールドプラグ周辺の汚染影響は大きいものの、シールドプラグの下面に極めて多量の放射性物質が存在している可能性があると考えられる。(線量情報の追加調査を実施中)
→1号機のシールドプラグ下面に存在している放射性物質は、2号機及び3号機に比べて少量であると考えられる。
→PCV トップヘッドフランジから漏えいした放射性物質がシールドプラグに捕獲されたと考えられる。
(2)原子炉冷却に係る機器の動作状況
① ADS の作動状況(参考:補足説明資料 p22)
これまでの東京電力ホールディングス株式会社における検討状況※も踏まえて、3号機 RPV 及び PCV の圧力挙動を改めて分析。
→3号機のベントは、2回(2011年3月13日9時頃、12時頃)のみであったと考えられる。
→3号機の1回目のベント(2011年3月13日9時頃)は、ベントラインの構成完了と ADS の予想外の動作で PCV の圧力が上昇したことにより R/D が作動し、ベントが成立したと考えられる。
※ 福島第一原子力発電所1~3号機の炉心・格納容器の状態の推定と未解明問題に関する検討 第 5 回進捗報告(平成 29 年 12 月 25 日、東京電力ホールディングス株式会社)
② 3号機 SRV の作動状況の詳細分析(参考:補足説明資料 p23~25)
SRV の設計時の仕様、過渡現象記録装置の SRV 開閉記録及び RPV の圧力挙動を分析。
→SRV は、全交流動力電源喪失後に逃がし弁機能として各弁8回程度まで作動可能であったことが記録により確認された。
→SRV の逃がし弁機能は、アキュムレータの窒素圧力が低下した場合には、(全開にはならず)中間開のような状態を保っていた可能性が考えられる。
→SRV の安全弁機能は、弁周辺の温度上昇によって弁のばねの力が弱くなり、動作設定圧よりも低い圧力で動作した可能性が考えられる。
③ 3号機 PCV 及び RPV 内の圧力挙動からの事故進展の把握 (参考:補足説明資料 p26~27)
3号機 RPV 及び PCV の圧力挙動と耐圧強化ベントシステムの汚染状況を分析。
→(1)①の検討状況も踏まえると、1号機と3号機のベントによる主要な核分裂生成物(FP)の移行経路や付着の違いは、ベントガスに含まれる水蒸気等の相違によるものと考えられる。
(3)水素爆発の詳細分析
① 3号機の水素爆発のプロセス(参考:補足説明資料 p28~32)
水素爆発時の映像を分析。
→3号機の水素爆発は、爆発直後の原子炉建屋の変形、爆炎等の状況を踏まえると複数段階の事象が生じた可能性があると考えられる。(分析中)
3号機原子炉建屋3階天井部の梁の損傷状況を調査。
→当該梁には4階から瞬間的に大きな力が加わり、せん断破壊が生じたと考えられる。(現場調査及び分析中)
3号機原子炉建屋周辺の地震計で取得された観測波を暫定的に分析。
→水素爆発による振動は、1号機よりも3号機の方が小さい可能性があると考えられる。(解析中)
② 4号機の水素爆発に関する追加知見の収集(参考:補足説明資料 p33~34)
4号機原子炉建屋内部の損傷状況を調査。
→3階北西部付近の床面の損傷が一番激しい状況が確認された。
→衝撃波によるものとするよりも圧力上昇によるものと考えた方が理解しやすい損傷が多いと考えられる。(分析中
(4)本年(令和2年)12月までに調査・分析を行う項目
主に以下の項目については、本年(令和2年)12月までに事故分析検討会における議論、現地調査等により調査・分析を行う。
→PCV トップヘッドフランジ通過後の放射性物質等の捕獲状況等の把握(2号機原子炉建屋4階の汚染状況に関する現地調査等)
→3号機 SRV の作動等による3号機 RPV 及び PCV の圧力挙動の検討
→3号機の水素爆発のプロセス(水素爆発時の映像分析等)
3.今後の予定
(1)報告書(案)の作成
~令和2年12月
令和元年10月から実施してきた調査・分析内容を報告書(案)として取りまとめ、意見募集の実施について原子力規制委員会に諮る。
~令和3年3月中
意見募集等を踏まえて必要に応じて修正した報告書(案)を原子力規制委員会に諮る。
(2)継続的に調査・分析が必要な項目について
令和元年10月以降に実施してきた調査・分析項目のうち上記の報告書(案)の作成段階で検討が完了しない項目、今後検討を実施する予定の項目(1号機非常用復水器の動作条件、FP 付着の解析、モニタリングポスト等の観測データとの比較検討等)については、調査・分析の実施方法等を今後検討する。
4.一連の検討により得られた知見の活用
「2.検討状況」に挙げた調査・分析によって得られた知見の中には、現在の安全規制にその知見を取り込み、検討・精査の上、必要に応じた対応を伴うものもあると考えられる。
そのため、今般の調査・分析により得られた知見について、原子力規制委員会の技術情報検討会等において、現在の安全規制への反映の要否等に関する検討を行うこととしたい。