2020-08-01 国立天文台
すばる望遠鏡で撮影されたHSC J1631+4426銀河。この銀河の酸素含有率は、これまでに報告された中で最も小さな値です。この低い酸素含有率は、この銀河にあるほとんどの星がごく最近作られたことを意味しています。(クレジット:国立天文台/Kojima et al.) オリジナルサイズ(676KB)
すばる望遠鏡の大規模データと機械学習に基づく新手法を組み合わせることで、形成から間もない銀河が複数、数億光年という近い距離の宇宙で発見されました。なかでも銀河「HSC J1631+4426」は酸素の含有率が太陽の1.6パーセントと極めて低く、これまで報告された銀河の中で最小の記録を更新しました。また、銀河の質量が太陽の80万倍程度と軽く、この銀河に含まれる大多数の星がごく最近作られたことも分かりました。宇宙と銀河の進化を解明するための重要な知見です。
ビッグバンで誕生したばかりの宇宙にはほぼ水素とヘリウムしか存在しませんでしたが、長い宇宙の歴史の中で、恒星の中心で起こる核融合反応を通じて酸素のような重い元素が作られてきました。そのため、宇宙初期の銀河には重い元素がほとんど含まれていませんが、このような形成初期の銀河が現在の宇宙にも存在する可能性があります。
東京大学や国立天文台の研究者を中心とする国際研究チームは、すばる望遠鏡に搭載された超広視野主焦点カメラHyper Suprime-Cam(ハイパー・シュプリーム・カム、HSC)で撮影された高感度かつ膨大な画像データの中から形成初期の銀河を探すための、機械学習を用いた新たな手法を開発しました。理論モデルから予想される形成初期の銀河の詳細な色を繰り返し学習させたコンピュータを使って、画像データから形成初期の銀河の候補となる天体を絞り込みます。その候補天体をすばる望遠鏡やケック望遠鏡で分光観測して、酸素含有量を測定しました。その結果、ヘルクレス座の方向、4.3億光年離れた銀河「HSC J1631+4426」の酸素の含有率が、太陽のわずか1.6パーセントであることが分かったのです。銀河の酸素含有量としては、最小値の報告となります。
酸素の含有率がこれほど低いということは、この銀河の中のほとんどの星がごく最近作られたことを意味しています。HSC J1631+4426にある星の総質量は、太陽質量の80万倍と天の川銀河のわずか 10万分の1ほどしかなく、単独の銀河としては極めて軽いことが明らかになりました。この銀河では現在活発に星が生まれていて、大部分の星が約1千万年程度の短時間で形成されたとみられることから、研究チームはHSC J1631+4426は形成初期の銀河であると結論づけました。この銀河の研究をさらに続けることで、宇宙と銀河の進化を解明するための重要な知見が得られると期待されます。
この研究成果は、Kojima et al. 2020, “Extremely Metal-Poor Representatives Explored by the Subaru Survey (EMPRESS). I. A Successful Machine Learning Selection of Metal-Poor Galaxies and the Discovery of a Galaxy with M* < 106 M☉ and 0.016 Z☉“として、米国の天体物理学専門誌『アストロフィジカル・ジャーナル』オンライン版に2020年8月3日付で掲載されます。
クレジット:国立天文台/HSC-SSP