2020-07-31 国立天文台
ふたつの国際研究チームが、アルマ望遠鏡を使った観測と理論研究をもとに、1987年に出現した超新星1987Aで中性子星が作られた可能性を見出しました。もしこれが正しければ、これまでに見つかった最も若い中性子星となります。
超新星1987Aが出現したのは、1987年2月のことでした。この大爆発は、巨大な星が一生の最後に起こしたものでした。理論的には、超新星爆発のあとに「中性子星」と呼ばれる超高温高密度の天体が残されると考えられています。日本の実験装置カミオカンデがこの超新星爆発で生じたニュートリノを検出したことから、ブラックホールではなく中性子星が作られたのは確かなはずです。このため、超新星1987Aの出現以降に多くの研究者によって中性子星探しが行われてきました。しかし、これまでその確かな証拠は見つかっていませんでした。
超新星1987Aが発生した場所に塵(ちり)が存在することは、アルマ望遠鏡が2014年に明らかにしていました(参考:「超新星爆発で作られた大量の固体微粒子をアルマ望遠鏡が発見」)。イギリス・カーディフ大学のフィル・シーガン氏と松浦美香子氏らの研究チームは、アルマ望遠鏡を使って、この塵をより高い解像度で観測しました。その結果、超新星1987Aが起きた場所の中心近くに周囲よりも温度の高い塵のあつまりが存在することを明らかにしました。その場所は、中性子星が存在すると想定される場所と一致していました。
アルマ望遠鏡による超高解像度観測で発見された、周囲より温度の高い塵のあつまり(左)。右図の赤色は、アルマ望遠鏡が電波で捉えた冷たいガスと塵の分布。緑色はハッブル宇宙望遠鏡が撮影した可視光、青色はチャンドラX線望遠鏡が捉えたX線の広がりを示していて、リング状の構造は、超新星爆発によって生じた衝撃波が宇宙空間を進み、周囲の物質と衝突しながら広がっているようすを示しています。
Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), P. Cigan and R. Indebetouw; NRAO/AUI/NSF, B. Saxton; NASA/ESA
松浦氏は「超新星残骸の中心に塵でできた温かくて厚い雲があったことに、とてもおどろきました。塵が温まって電波を出しているということは、その中に熱源があるに違いありません。私たちは、この中に中性子星が隠れているのではないかと考えています。」とコメントしています。
研究チームはこの発見に沸き立っていましたが、一方でこの塵のあつまりの明るさを不思議に思っていました。「中性子星にしては明るすぎるのではないかと思っていました。そんなときに、非常に若い中性子星であればこの明るさになりうる、という論文がダニー・ペイジさんたちによって発表されたのです。」と松浦氏はコメントしています。
ダニー・ペイジ氏はメキシコ国立自治大学の天体物理学者で、出現当初から超新星1987Aの研究を続けています。「超新星爆発が出現した時、私は大学院の博士課程の学生でした。超新星1987Aは私の人生の中での最も大きなイベントのひとつで、私の研究者としてのキャリアをその謎の解明に振り向けさせたのです。」と語っています。
ペイジ氏らの理論研究は、松浦氏らのアルマ望遠鏡観測結果の解釈を支持するものでした。つまり、中性子星によって塵のかたまりが加熱されているということです。「超新星爆発は複雑な現象で中性子星の内部も極限的な状況ですが、温かい塵のあつまりが検出されたことは、いくつかの理論的予測の正しさを証明するものです。」とペイジ氏は語っています。
理論的予測とは、中性子星の位置と温度に関するものです。超新星爆発のシミュレーションでは、超新星爆発によって中性子星が秒速数百キロメートルもの速度ではじき出されることが予測されています。アルマ望遠鏡が発見した温かい塵のかたまりは、周囲のリングの中心よりもわずかにずれた位置にあり、爆発から30年あまりのうちに中性子星が高速で移動したという予測と合致します。温度に関しては、超新星爆発から間もない時期の中性子星の温度は500万度と予測されており、観測で推測される塵の温度を説明するには十分です。
中性子星は、超高温超高密度の天体で、直径は25キロメートルほどと考えられています。ティースプーン1杯分でニューヨーク市のすべてのビルを合わせたほどの重さになります。超新星1987Aによって中性子星が生まれたとすれば、わずか33歳ですから、これまでで発見された中で最も若い中性子星ということになります。これに次いで若いのは、超新星残骸「カシオペアA」にある中性子星で、その年齢は330歳です。
もし中性子星そのものを直接観測できたとしたら、今回の研究結果の正しさが証明できることでしょう。しかし、現在は超新星残骸の塵やガスにおおわれて、そのものを見ることができません。塵やガスが晴れ上がるまでには、まだ数十年かかると考えられています。
「アルマ望遠鏡が性能とデータ処理をどんどん向上させ、これによって超新星1987Aが起きた場所の観測を続けてきたことが、今回の発見につながりました。」と、米国立電波天文台・バージニア大学のレミー・インデベトー氏はコメントしています。
論文情報
この研究成果は、以下の2編の論文として発表されました。
– ALMA observation of the “blob”: “High Angular Resolution ALMA Images of Dust and Molecules in the SN 1987A Ejecta”, by P. Cigan et al., The Astrophysical Journal.
– Theoretical study favoring a neutron star: “NS 1987A in SN 1987A”, by D. Page et al., The Astrophysical Journal.
この文章は、 米国立電波天文台のプレスリリース “ALMA Finds Possible Sign of Neutron Star in Supernova 1987A”をもとに作成しました。