2020-04-30 国立天文台
TMTの主鏡を構成する分割鏡は、各国で研磨などを行なった後、米国本土に集められ、表面(鏡面)形状の最終的な仕上げが行なわれます。この仕上げを行なうイオンビーム加工(IBF;Ion Beam Figuring)を用いた最初の試験が2020年2月に行なわれました。
IBFは、高電圧で加速したイオンをターゲットに照射して原子レベルで材料物質を除去する技術です。TMT主鏡を構成する分割鏡は、表面研磨が施された後、六角形の外形になるように端を切断(研削)され、支持機構に搭載されます。この外形加工と支持機構搭載によって、表面の形状がわずかに変化してしまうことも含め、表面のごくわずかな形状誤差を、IBFによって修正するのです。
試験に用いられた分割鏡試作品は、日本で製作された鏡材に対して、米国で研磨と外形加工を施したものです(※1)。この分割鏡試作品を、ドイツのケムニッツにあるスキアシテムズ社へ輸送して、IBFを用いた試験が行なわれました。約50時間にわたる試験では、イオンビームによる昇温の熱応答などのデータが記録されました。今後、試作品は米国へ送り戻され、表面形状の詳細な測定が行なわれる予定です。
分割鏡試作品を用いたIBF試験のタイムラプス動画 ©TMT国際天文台
今回のIBF試験に立ち会った、TMT国際天文台 主鏡部門のベン・ギャラガー技術長は、「実物大の試作品に対してIBFの試験を行なうことができてよかったです。スキアシステムズ社のチームとは効率的に作業を進めることができ、試験項目も熟慮されたものでした」と話しています。
TMTの口径30メートルの主鏡を形作るため、交換用も含めて最終的には574枚の分割鏡が、米国においてIBF加工される予定です。
参考1:Testing of TMT’s Primary Mirror Segment in Progress (TIOウェブサイト)
参考2:主鏡分割鏡の製作工程(下図; ©キヤノン株式会社/NAOJ)
※1:主鏡分割鏡は、2014年に日本が先駆けて研磨加工の量産を開始しましたが、2020年には、米国による研磨加工が、カリフォルニア州(コヒレント社)で開始されています。外形加工の量産はまだ始まっていませんが、今回の試作品の外形加工は、 ニューヨーク州(ハリス社)で行なわれました。
※2:TMTとはThirty Meter Telescope(30m望遠鏡)の略称。口径30mというすばる望遠鏡の10倍以上の面積の主鏡を持つ史上最大の地上望遠鏡です。建設地はハワイ島マウナケア。日本、米国、カナダ、中国、インドの国際協力によって建設を進めています。