国立天文台
コンパス座銀河の中心にある超巨大ブラックホールがアルマ望遠鏡によって観測され、ブラックホールを取り巻くガスの分布と動きがこれまでになく詳細に明らかになりました。この観測とシミュレーションとを組み合わせた研究の結果、ブラックホール周囲のドーナツ形のガスの構造が自然に形成されたことが示され、活動銀河核のふるまいについての理解が大いに深まったのです。
多くの銀河の中心には、太陽の数十万から数億倍もの質量を持つ超巨大ブラックホールがあります。中でも、中心のブラックホールにガスが大量に落ち込み明るく輝いているものを活動銀河核と呼んでいます。これまでの観測から、ブラックホールの周りのガスはドーナツ形をしていると考えられていましたが、どうしてそのような形になるかは不明でした。
鹿児島大学の和田桂一(わだ けいいち)教授らは、国立天文台のスーパーコンピュータ「アテルイ」を駆使したシミュレーションから、ブラックホール周囲のガスの動きによってドーナツ形が自然に形成されたと考え、その特徴を予測しました。この予測を確かめるために、国立天文台の泉拓磨(いずみ たくま)特任助教らは、活動銀河核を持つコンパス座銀河をアルマ望遠鏡で観測しました。コンパス座銀河までの距離はおよそ1400万光年と地球に近く、ガスの運動や細かい構造の観測が可能です。観測された特徴は、いずれもシミュレーションによる予測を支持するものでした。ブラックホール周囲のガスが放つ光の圧力で噴き上げられたガスが、重力に引かれて再び戻ってくるという一連の流れが、自然にドーナツ形を作り出していたのです。
今回のアルマ望遠鏡による観測は、日本が開発を分担した受信機を用いたものでした。このような日本発の技術とアイディアが、天文学研究を強力に推し進めています。
この研究成果は、T. Izumi et al. “Circumnuclear Multi-phase Gas in the Circinus Galaxy II: The Molecular and Atomic Obscuring Structures Revealed with ALMA”として、2018年10月30日発行の米国の天体物理学専門誌『アストロフィジカル・ジャーナル』に掲載されました。