光を細かく分光したオーロラの二次元画像の取得に成功~ハイパースペクトルカメラによる観測画像を公開~

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2024-08-02 核融合科学研究所

概要

核融合科学研究所「オーロラ観測プロジェクト」は、分光計測システムを用いたプラズマ観測の技術を用いて、オーロラの詳細な色を調べることができる観測システム「オーロラ観測用ハイパースペクトルカメラ※1」(HySCAI; Hyperspectral Camera for Auroral Imaging)をスウェーデンのキルナに令和5年5月に設置し同年9月に観測を開始しました。この度、核融合科学研究所(核融合研)の吉沼幹朗助教、居田克巳特任教授、京都大学・生存圏研究所の海老原祐輔教授はハイパースペクトルカメラの初観測に成功し、その結果を論文に発表しました。また、この論文発表に合わせて、核融合研の江本雅彦助教が、HySCAIの観測画像を核融合研のホームページで公開しました。公開されたデータは、オーロラが観測可能な期間(9月から4月)を通じて得られた全てのオーロラの詳細なスペクトル(色)の空間分布です。降り注ぐ電子により異なる彩りをもつオーロラの観測を通して、それを生み出す電子のエネルギー(速度)を推定することができ、多様なオーロラの生成機構の解明に重要なデータを与えることが期待されます。

この研究成果をまとめた論文がEarth, Planet and Spaceに8月2日に掲載されました。

研究背景

オーロラは、空から降ってくる電子と上層大気との相互作用によって引き起こされる自然の発光現象です。観測される光のほとんどは、中性または電離した窒素、酸素の原子の発光線や分子の発光帯で構成されており、遷移するエネルギー準位、分子の振動や回転によって色が決まります。緑、赤などオーロラの特徴的な色は様々ありますが、オーロラのタイプによって異なる特徴的な色がどのような発光プロセスで現れるかについては複数の説があり、オーロラの色を理解するためには光を分解しなければなりません。オーロラの発光過程や色を詳細に調べるために包括的(時間的、空間的)なスペクトル観測が必要となっています。

一方、核融合科学研究所では、大型ヘリカル実験装置(LHD)において磁場中のプラズマからの発光を観測しております。そこから発せられる光のスペクトルを計測する様々なシステムが開発され、エネルギーの輸送過程や原子、分子の発光過程の研究が行われてきました。その技術と知識をオーロラ観測に適用することで、オーロラ発光の理解、それをもたらす電子のエネルギー生成過程の研究に寄与することができます。

オーロラの観測においては、光学フィルタを使用して特定の色の画像を取得する方法が用いられています。光学フィルタを用いた方法は、取得する波長が限られ、その波長分解能は低いという欠点があります。一方、ハイパースペクトルカメラは、波長分解能の高いスペクトルの空間分布を得ることができるという利点があります。そのため我々は、LHD装置においても利用してきたEMCCDカメラ付きレンズ分光器にガルバノミラーを用いたイメージ掃引光学系を組み合わせることで高感度のハイパースペクトルカメラを開発する計画を平成30年に開始しました。

研究成果

計画立案から5年の歳月をかけて1kR(1キロレイリー)※2のオーロラを計測できる性能をもつ、高感度のシステムを開発しました。令和5年5月に、オーロラ帯の直下でオーロラを高い頻度で観測できるスウェーデンのキルナにあるスウェーデン宇宙公社エスレンジ宇宙センターのKEOPSに本システムを設置しました。令和5年9月から観測を開始し、日本からの遠隔操作によりデータを取得しています。この観測にてオーロラのハイパースペクトル画像を取得、すなわちオーロラの2次元像を波長ごとに分解することに成功しました。

オーロラ発光強度の較正、および設置後に取得した星の位置から観測位置の較正を行い、ユーザーがすぐにデータを利用できるようにした上でデータを公開しました。令和5年10月20日に発生したオーロラ爆発を観測し、本システムを用いてどのようなデータを観ることができるかを明らかにしました。その中で、異なる波長の光の強度比から電子のエネルギーの推定を行い、今回の論文発表に至りました。

図1は電子のエネルギーが小さく低速で飛来した場合と、エネルギーが大きく高速で飛来した場合のオーロラの色の違いを示しています。電子が低速の場合は、高い高度で発光し赤色の光を強く出します。一方、高速の場合は、低い高度まで電子が侵入し、緑色や紫色の光が強く出てきます。図2は、本計画で開発したハイパースペクトルカメラで観測された各色(波長)に分解されたオーロラの二次元画像です。光の発生する高さの違いで光を生み出す元素が異なるため、色による分布の違いが観測されました。このように、オーロラが生み出す様々な色の二次元画像が得られる装置の開発に成功しました。

光を細かく分光したオーロラの二次元画像の取得に成功~ハイパースペクトルカメラによる観測画像を公開~図1: 電子のエネルギーが小さく低速で飛来した場合(左)と、エネルギーが大きく高速で飛来した場合(右)のオーロラの色の違い。>図2: 本装置で計測した各色(波長)に分解されたオーロラの二次元画像。図2: 本装置で計測した各色(波長)に分解されたオーロラの二次元画像。

赤色の光と紫色の光の強度比からオーロラの原因となった降り込み電子のエネルギーを求めることができます。光を細かく分光できるハイパースペクトルカメラ(HySCAI)を使い、今回観測したオーロラ爆発時の降り込み電子のエネルギーは1600電子ボルト(乾電池、約1000個分の電圧で得られるエネルギー)と見積もられました。これまで知られている値と大きな矛盾はなく、観測が妥当であったことが示されました。ハイパースペクトルカメラ(HySCAI)により、降り込み電子の分布やオーロラの色との関係、オーロラの発光メカニズムというオーロラの重要課題の解決に貢献できると期待されます。

研究成果の意義と今後の展開

オーロラのハイパースペクトル画像という、色の詳細な空間分布(2次元画像)が初めて取得されました。これまでの多くのオーロラ研究では、特定の波長のみを通過するフィルタによって光を選別するシステムが用いられていました。本システムは、限られた波長のみ観測するという欠点を補うものです。スペクトルの詳細な変化を観測することで、オーロラ研究の進展に寄与します。一方、核融合プラズマ中においても注目されている、磁場中の荷電粒子と波との相互作用によるエネルギー輸送についても知見を得られると考えております。今後、国内外の大学・研究所と協力してこの学際研究を進展させ、世界のオーロラ研究の発展に寄与することが期待されます。

【用語解説】

※1  ハイパースペクトルカメラ
光を細かく分光できるカメラ。通常のカメラは赤、緑、青の3色の3分割であるに対し、ハイパースペクトルカメラでは、光を数百の細かさで分割できる。市販のハイパースペクトルカメラは日中の撮影を対象としており、暗いオーロラを対象とした観測はできない。オーロラの観測のためには、今回開発した高感度のカメラが必要。

※2  キロレイリー
オーロラの明るさの単位。1キロレイリーは天の川の明るさに相当。暗いオーロラの明るさは1キロレイリーでオーロラ爆発時の明るいオーロラは100キロレイリー。10年に一度のような大爆発が起こると1000キロレイリーに達することもある。

【論文情報】

雑誌名:Earth, Planet and Space
アース、プラネット、スペース

題名:Development of Hyperspectral Camera for Auroral Imaging
オーロライメージ用ハイパースペクトルカメラの開発

著者名:M. Yoshinuma, K. Ida, Y. Ebihara
吉沼幹朗1、居田克巳1、海老原祐輔
1 自然科学研究機構 核融合科学研究所 位相空間乱流ユニット
2 京都大学 生存圏研究所 生存圏開発創成研究系

DOI: 10.1186/s40623-024-02039-y

【研究サポート】

科学研究費特別推進研究「核融合プラズマの位相空間揺らぎがもたらす新しい輸送パラダイムの探求」(課題番号21H04973)のサポートで研究がおこなわれました。

【ご参考】

本研究で得られたオーロラの画像とデータは以下のサイトで公開しています。
https://projects.nifs.ac.jp/aurora/en/repository.html

【本件のお問い合わせ先】

大学共同利用機関法人 自然科学研究機構 核融合科学研究所
管理部 総務企画課 対外協力係

1701物理及び化学
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