2024-02-13 九州大学
ポイント
- グラフェンや遷移金属ダイカルコゲナイドなどの原子厚みの二次元材料が大きな期待を集めているが、成長基板からシリコンやフレキシブル基板などへの「転写」が難しかった。
- 二次元材料を転写できる、UV光によって粘着力が大きく変化するテープの開発に成功。これにより、誰でも二次元材料を容易に転写できるようになる。
- 本UVテープによる転写は、さまざまな二次元材料に適用可能で、大面積転写もできることから、二次元材料の研究や生産プロセスを加速し、新産業創出に大きく貢献できる。
概要
近年の情報化社会の進展に伴い、半導体デバイスには高速化や省電力化が求められていますが、次世代のデバイス材料として期待されているのがグラフェンをはじめとする原子の厚みしかない究極に薄い二次元の原子シート(二次元材料)です。しかし、二次元材料の多くは成長基板からシリコンやフレキシブル基板上に移す「転写」というプロセスが使われますが、この転写の際に二次元材料が破れたり、保護膜の高分子が残って特性低下につながったりすることなどが知られています。また、保護膜の除去には有機溶媒が必要なためフレキシブル基板には使えない、転写に長時間かかる、高度な転写技術が必要といった課題が多くありました。
九州大学グローバルイノベーションセンターの吾郷浩樹主幹教授、日東電工株式会社、合同会社二次元材料研究所、中央大学の李恒助教・河野行雄教授、九州大学先導物質研究所の吉澤一成教授、九州大学大学院総合理工学研究院の辻雄太准教授、大阪大学産業科学研究所の末永和知教授、産業技術総合研究所の林永昌主任研究員らの研究グループは、NEDOの支援を受けて、二次元材料に特化した紫外線で粘着力が低下する機能性テープを開発することに成功しました。この方法では、保護膜や有機溶媒を使う必要がなく、エンドユーザーでも簡単に転写できる手軽さもあります。また、このテープ転写はグラフェンに限らず、半導体や絶縁体の二次元材料にも使えます。さらに、テープ転写したグラフェンを使って、フレキシブルなテラヘルツのセンサーも実現しました。
本研究は、これまで難しかった二次元材料の大面積での転写・製造プロセスに大きな進歩をもたらすものであり、半導体を含む次世代産業の創出に大きく貢献すると期待されます。
本研究の成果は2024年2月9日(金) 午後7時(日本時間)発行の英国科学誌「Nature Electronics」オンライン版で公開されました。
(左)さまざまな二次元材料のテープ転写のイメージ、(右)単層グラフェンのテープ転写のイメージ写真
研究者からひとこと
グラフェンをはじめとする二次元材料はとても大きな可能性を有していますが、合成後に他の基板に移す「転写」が大きな課題でした。今回の転写テープの実現は、二次元材料の研究開発のスタイルを大きく変え、エレクトロニクスなど新産業の創出を大きく後押しする成果です。
UVテープを用いたグラフェン転写法。本手法により最大4インチ(f100 mm)のグラフェンの転写を実現した。小さなサイズのUVテープの場合、貼り付けや剥離を手作業で行ったが、機械を用いることで大面積の二次元材料の転写が可能となり、今後の大量生産に基づく産業応用につながるものと期待できる。
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論文情報
掲載誌:Nature Electronics
タイトル:Ready to transfer two-dimensional materials using tunable adhesive force tapes
著者名:Maki Nakatani, Satoru Fukamachi, Pablo Solís-Fernández, Satoshi Honda, Kenji Kawahara, Yuta Tsuji, Yosuke Sumiya, Mai Kuroki, Kou Li, Qiunan Liu, Yung-Chang Lin, Aika Uchida, Shun Oyama, Hyun Goo Ji, Kenichi Okada, Kazu Suenaga, Yukio Kawano, Kazunari Yoshizawa, Atsushi Yasui, Hiroki Ago
DOI:10.1038/s41928-024-01121-3
研究に関するお問い合わせ先
グローバルイノベーションセンター 吾郷 浩樹 主幹教授