なぜひとは誤情報を信じ続けるのか? 訂正情報の効果を制限するオンライン行動の特徴を解明

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2023-05-09 名古屋工業大学,東京学芸大学,理化学研究所,名古屋大学,東北大学

発表のポイント

〇 「信じている誤情報注1に対する訂正記事のクリックを選択的に避けるということはあるのか?」、「選択的に避ける傾向の強い人はどのような特徴があるのか?」という問いを検証した

〇 独自に考案した指標を用いてクリック行動を分析する実験を行った結果、参加者の43%に「信じている誤情報」に対する訂正記事へのクリックを選択的に避ける傾向があった

〇 本研究の結果は、誤情報を訂正する試みが広く行われているにもかかわらず、なぜ誤情報が拡散され続けるのかという問いに対し、新たな見方を提供する

概要

名古屋工業大学大学院工学研究科 田中優子准教授、東京学芸大学 犬塚美輪准教授、理化学研究所革新知能統合研究センター 荒井ひろみユニットリーダー、名古屋大学大学院情報学研究科 久木田水生准教授、東北大学大学院情報科学研究科 乾健太郎教授(理化学研究所 革新知能統合研究センター チームリーダー)・髙橋容市特任研究員の研究グループは、誤情報に対する訂正の効果を制限するオンライン行動の特徴を明らかにした。

現在、多くのファクトチェック記事がオンライン経由でアクセスされており、ファクトチェック記事を共有するには、誤情報を信じている人がその記事をクリックする必要がある。本研究では、このクリック行動に着目し、「信じている誤情報に対する訂正記事のクリックを選択的に避けるということはあるのか?」、もしあるとすれば「選択的に避ける傾向の強い人はどのような特徴があるのか?」という問いを検証した。その結果、43%の参加者は「信じている誤情報に対する訂正記事」へのクリックを選択的に避ける傾向があることが示された。

誤情報対策として、今後訂正情報を広く共有していくためには、この少なくない人々に見られる選択的回避というクリック行動の特徴を明らかにし、インターフェースデザインや介入方法につなげていくことが必要である。

この成果は、2023年4月19日に国際会議論文Proceedings of the 2023 CHI Conference on Human Factors in Computing Systemsに掲載された。

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研究の背景

誤情報は人間の行動に悪影響を及ぼすため、情報社会で重要な課題である。誤情報を拡散する人は、それが正しいと信じていることから共有しようとする傾向がある。そのため、の取り組みを通して、人々の誤った信念を訂正することは有効な誤情報対策につながる。ファクトチェックの取り組みは世界中で広がっているにもかかわらず、その効果を限定する人の心理行動傾向がある。それが確証バイアス注2である。

現在、多くのファクトチェック記事がオンライン経由でアクセスされており、ファクトチェック記事を共有するには、誤情報を信じている人がその記事をクリックする必要がある。本研究では、このクリック行動に着目し、「信じている誤情報に対する訂正記事のクリックを選択的に避けるということはあるのか?」、もしあるとすれば「選択的に避ける傾向の強い人はどのような特徴があるのか?」という問いを検証した。

研究の内容・成果

独自に考案したクリック行動分析指標(Fact Avoidance/Exposure Index; FAEI注3)を用いて実験を行った結果、参加者は「信じている誤情報に対する訂正記事」を選択的にクリックするグループ(57%)と選択的に避けるグループ(43%)に分かれた。前者は「信じている誤情報に対する訂正記事」の42%をクリックするのに対し、後者は7%しかクリックしなかった。このことは、後者が持つ誤った信念の93%は訂正される機会を逃していることを意味する。

社会的な意義

本研究の結果は、「ファクトチェックなどの取り組みによって誤情報に対する訂正が行われているにもかかわらず、なぜ誤情報が拡散され続けるのか」という問いに対し、新たな見方を提供する。すなわち、「訂正情報をアクセス可能な状態にすること」と「誤情報を信じている人にそれを届けること」の間にはギャップがあり、少なくない割合の人がそのギャップを超えていないという可能性である。訂正情報の効果を発揮させるためにはこの2つをつなぐ社会的・技術的しくみが必要である。

今後の展望

このクリック行動の選択的回避については、これまでほとんど研究がされておらず、学術的知見が不足している。なぜこのような選択的クリック回避行動が起こるのか、そのメカニズムについて、心理学・認知科学・情報科学の観点から検討していく。これらの知見を、訂正情報をより広く共有する情報伝達方法を考案することに役立てることは、社会に蔓延する誤情報の対策への貢献につながる。

※ 本研究は、JST CREST JPMJCR20D2の支援およびJSPS科研費21K12605の助成を受けたものです。

用語解説

(注1)誤情報(misinformation):事実と異なる誤った情報。悪意を持って発信される誤情報は偽情報(disinformation)と呼ばれる。

(注2)確証バイアス(confirmation bias):信じていることに合致した情報を探索し、それと合致しない情報を無視したり、その情報の重要性を低く見積もる心理傾向。

(注3)FAEI(Fact Avoidance/Exposure Index):本研究グループが独自に考案したクリック行動分析指標。数理基準とクリック行動を比較することによって、信じている誤情報に対する訂正記事をクリックする傾向が低い群(Fact-Avoidance Group)と高い群(Fact-Exposure Group)に参加者を分類する。

論文情報

論文名:Who Does Not Benefit from Fact-Checking Websites? A Psychological Characteristic Predicts the Selective Avoidance of Clicking Uncongenial Facts

著者名:Yuko Tanaka、 Miwa Inuzuka、 Hiromi Arai、 Yoichi Takahashi、 Minao Kukita、 & Kentaro Inui

掲載雑誌名:Proceedings of the 2023 CHI Conference on Human Factors in Computing Systems (CHI ’23)

公表日:2023年4月19日

DOI: 10.1145/3544548.3580826

URL:https://doi.org/10.1145/3544548.3580826

学会(CHI2023)用Youtube動画(英語字幕あり):https://www.youtube.com/watch?v=JeoXJTDlNRQ

お問い合わせ先

研究に関すること

名古屋工業大学大学院工学研究科

准教授 田中優子

東京学芸大学 教育心理学講座学校心理学分野

准教授 犬塚美輪

理化学研究所 革新知能統合研究センター

社会における人工知能研究グループ 人工知能安全性・信頼性ユニット

ユニットリーダー 荒井 ひろみ

名古屋大学大学院情報学研究科

准教授 久木田水生

東北大学大学院情報科学研究科

教授 乾健太郎

広報に関すること

名古屋工業大学 企画広報課

東京学芸大学 総務課広報・基金室

理化学研究所 広報室 報道担当

名古屋大学 広報課

東北大学大学院 情報科学研究科 広報室

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