2023-05-09 東京大学,科学技術振興機構
ポイント
- ベンゼン環が直線状に連結したアセンは、環の個数が増えるに従って光電子機能が向上しますが、既存技術ではベンゼン環12個までのものしか合成できませんでした。
- 規則性ナノ空間を反応場とすることで、無数のベンゼン環が直線状に連結したポリアセンを、世界で初めて合成することに成功しました。
- 最も細いグラフェンとみなせるポリアセンを合成できたことで、今後、物性解明やさまざまな光電子デバイスへの応用が期待されます。
東京大学 大学院工学系研究科の植村 卓史 教授、北尾 岳史 助教、三浦 匠 大学院生らは、分子で作ったナノサイズの空間を利用することで、無数のベンゼン環が直線状に連結したポリアセンの合成に、世界で初めて成功しました。
アセンは、ベンゼン環の個数が増えるに従って、優れた光電子物性を示すことが理論的に予測されています。そのため、長いアセンを合成するために、これまでさまざまな手法が開発されてきました。しかし、効率的にアセンを伸長させる手法がなかったため、連結可能なベンゼン環の個数に限界が見えはじめていました。植村 教授らは、分子レベルの細孔を持つ多孔性金属錯体(MOF)を反応場として用いることで、ポリアセンの前駆体となる高分子を精密に合成し、その後、熱変換することで、ポリアセンの合成に初めて成功しました。
ポリアセンは、100年以上にわたり多くの科学者が合成に挑んできましたが、全く実現できなかった物質です。グラフェンを最も細く切り出した構造を持つポリアセンは、特異な電子物性の発現が予想されるため、今後、物性解明やナノデバイスなどへの応用が期待されます。
本研究成果は、2023年5月5日(現地時間)に、「Nature Synthesis」に掲載されました。
本研究は、科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業PRESTO(課題番号:JPMJPR21A7)、CREST(課題番号:JPMJCR20T3)、日本学術振興会 科学研究費補助金・基盤研究(B)(課題番号:21H01738)」、学術変革領域研究(A)(課題番号:21H05473)の支援により実施されました。
<プレスリリース資料>
本文 PDF(357KB)
<論文タイトル>
- “Synthesis of polyacene by using a metal−organic framework”
- DOI:10.1038/s44160-023-00310-w
<お問い合わせ先>
<研究に関すること>
北尾 岳史(キタオ タカシ)
東京大学 大学院工学系研究科 助教
植村 卓史(ウエムラ タカシ)
東京大学 大学院工学系研究科 教授
<JST事業に関すること>
安藤 裕輔(アンドウ ユウスケ)
科学技術振興機構 戦略研究推進部 グリーンイノベーショングループ
<報道担当>
東京大学 大学院工学系研究科 広報室
科学技術振興機構 広報課