2025-01-30 北海道大学,海洋研究開発機構,慶應義塾大学,東北大学,九州大学
ポイント
●小惑星ベヌーから持ち帰られたサンプルからアミノ酸や核酸塩基など多種の生体関連分子を検出。
●多くの有機分子は低温環境における高濃度アンモニア溶液中の反応で生成した。
●地球外環境における化学進化及び小惑星の起源に関する理解が飛躍的に発展。
概要
北海道大学低温科学研究所の大場康弘准教授、海洋研究開発機構の高野淑識上席研究員(慶應義塾大学先端生命科学研究所特任准教授/同大学院政策・メディア研究科特任准教授)及び古賀俊貴ポストドクトラル研究員、東北大学大学院理学研究科の古川善博准教授、九州大学大学院理学研究院の奈良岡浩教授らが所属する国際研究グループ(OSIRIS-REx sample analysis team)は、アメリカNASA主導の小惑星探査計画「OSIRIS-REx」で炭素質B型小惑星(101955)ベヌー(Bennu)から持ち帰られた粒子から、アミノ酸や核酸塩基、カルボン酸、アミンなど、様々な有機化合物の検出に成功しました。
2023年9月24日、「OSIRIS-REx」探査機によって炭素質小惑星ベヌー試料121.6グラムが地球に届けられ、「はやぶさ」探査機によるS型小惑星イトカワ試料、「はやぶさ2」探査機による炭素質C型小惑星リュウグウ試料に続いて、世界で3例目の小惑星リターンサンプルが実験室で分析可能になりました。NASAゴダード宇宙飛行センターのダニエル・グレイビン博士をリーダーとする有機化合物分析チーム(SOAWG)では、持ち帰られた粒子に含まれる有機化合物を網羅的に分析しました。
分析チームがこれまでに培ってきた地球外試料分析技術を用いて、初期分析用に配分された約300ミリグラムの試料から、アミノ酸33種(うち、14種のタンパク性アミノ酸)、地球生命の遺伝子に含まれる核酸塩基全5種を含む窒素複素環化合物23種など、未同定なものを含めて10,000種にも及ぶ窒素を含む有機化合物を検出しました。検出されたアミノ酸は右手・左手構造がほぼ等量存在しました。これらの結果は、小惑星が地球に多様なアミノ酸を供給したことを示唆し、地球生命のアミノ酸のホモキラリティの起源の謎をさらに深めることになりました。また、アミノ酸や核酸塩基など生体関連分子合成の材料となるアンモニアの濃度が、これまでに分析された炭素質隕石や小惑星リュウグウと比べて特異的に高いことが分かりました。これは、検出された有機化合物は低温環境におけるアンモニア溶液中での反応で生成した、というこれまでにない地球外有機物合成に関する知見をもたらしました。
なお、本研究成果は、2025年1月30日(木)公開のNature Astronomy誌に掲載されました。
論文名:Abundant ammonia and nitrogen-rich soluble organic matter in samples from asteroid (101955) Bennu(小惑星ベヌーサンプルに含まれる多量のアンモニアと含窒素可溶性有機化合物)
URL:https://doi.org/10.1038/s41550-024-02472-9
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ベヌー試料の写真と帰還試料から検出された有機成分の概念図(© NASA)