過去20年にわたる全大気再解析データの作成に成功~宇宙の下端までカバーする世界初の大気再解析データ「JAWARA」を公開~ | テック・アイ技術情報研究所

過去20年にわたる全大気再解析データの作成に成功~宇宙の下端までカバーする世界初の大気再解析データ「JAWARA」を公開~

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2025-01-10 東京大学

発表のポイント

  • 高度150kmをトップとする大気大循環モデルと高速なデータ同化手法を組み合わせたデータ同化システムを開発し、研究困難とされてきた中間圏・下部熱圏を含む全大気の長期にわたる再解析データの作成に成功しました。
  • これまで時間・空間的にまばらな衛星観測や限られた大気モデルに依存していた中間圏・下部熱圏研究を発展させるために、本研究は大気大循環や大気階層構造の定量的解明を可能とする20年にわたる長期再解析データを創出・公開しました。
  • 中間圏・下部熱圏の飛躍的な解明により、その下層に位置する成層圏顕著現象の発生メカニズムや、対流圏や地上気象とのつながりの理解が進むことが期待されます。これにより、季節予報の精度向上や、気候変動への適応力の強化に貢献する可能性があります。

過去20年にわたる全大気再解析データの作成に成功~宇宙の下端までカバーする世界初の大気再解析データ「JAWARA」を公開~
地上から高度110kmまでの全大気をカバーする世界初の再解析データJAWARA。
北極域の気温と赤道域東西風の19年間にわたる時間高度断面図。


発表概要

東京大学大学院理学系研究科の佐藤薫教授と、小新大特任研究員(研究当時 現:米国大気科学研究所に日本学術振興会海外特別研究員として滞在)、海洋研究開発機構の渡辺真吾上席研究員ほかによる研究グループは、地上から宇宙の下端にあたる高度110kmまでをカバーする全大気(注1)を対象とする長期再解析データ(注2)の作成に成功しました。

この研究では、高度150kmをトップとする大気大循環モデルを基盤とした新たな高速データ同化システム(注3)を構築し、時間・空間的にまばらな衛星観測データを同化することで、地上から110kmまでの全大気の再解析データを作成しました。高度50~110kmに位置する中間圏・下部熱圏は、観測や大気モデル適用が難しく、「研究困難領域」とされてきましたが、このデータにより、大気全層にわたる大気大循環やその階層構造の詳細な解析が可能となりました。

さらに、この再解析データは、中間圏・下部熱圏を含む高度領域での大気現象を地上気象や成層圏と統合的に解析することを可能とし、大気科学と宇宙科学をつなぐ学際研究の進展に寄与します。特に、中間圏・下部熱圏領域での現象が成層圏や対流圏、地上気象に及ぼす影響を定量的に評価することで、季節予報のリードタイム(注4)延長や気候変動への対応力向上など、社会課題の解決への貢献が期待されます。


図1:1月の全大気の気温の緯度高度図(気温の単位はK)
地上から高度110kmが全大気。高度約10km以上を中層大気と呼ぶ。灰色の線は大まかな物質循環の構造を表す。

発表内容

これまでの先行研究では、地上から高度約110kmに広がる全大気の上半分にあたる中間圏・下部熱圏(高度50~110km)を対象とする観測や大気モデル研究には技術的困難があり、研究に必要なデータが乏しいことが問題点として挙げられていました。また、従来の再解析データも最も高い高度を扱うものでも高度65kmまでであり、中間圏・下部熱圏を包括的に扱うものはありませんでした。

この度、本研究チームは、これらの課題に対応すべく、大気全層を対象とするデータ同化システム(JAGUAR-DAS注5)を開発し、これを用いて2004年9月から2023年12月までの約19年間の長期にわたる再解析データセット「JAWARA(注6)」を世界で初めて作成しました。JAWARAは地表から下部熱圏(高度110km)までの広範な高度領域を対象とする点で、画期的なデータセットです。

この成果により、衛星観測や従来の再解析データでは得られなかった中間圏・下部熱圏の大気大循環や階層構造の物理的解明に必要な、物理量情報を提供することが可能になりました。特に、冬季極域に発生する成層圏突然昇温後に下部熱圏から上部成層圏へと伝播する気温異常の明確な再現や、北半球高緯度域における夏の上昇流や冬の下降流など、既知の大気循環パターンを高精度で求めることに成功しました。

さらに、JAWARAのカバーする上端は、宇宙の下端にあたるので、大気が電離圏に及ぼす影響や、太陽フレアに伴う宇宙からの高エネルギー粒子が大気に与える影響の解析を可能にします。この解析は、地球大気と宇宙空間との相互作用を定量的に評価し、宇宙天気現象(注7)の解明やその地上影響の予測に新たな知見をもたらすと期待されます。また、学際研究の進展にも寄与し、これまで分野が分断されていた大気科学と宇宙科学の統合的な理解を深化させる出発点となります。

これらは、9年にわたる研究の成果であり、地球規模での気象システムの解明だけでなく、熱圏・電離圏結合や宇宙天気現象の理解を進める基盤となります。また、季節予報の精度向上や気候変動予測モデルの改善により、社会への波及効果も見込まれます。さらに、年々変動や10年規模変動の理解を深めることで、中層大気(注8)研究の発展に大きく貢献するものと考えられます。

過去20年にわたる全大気再解析データの作成に成功~宇宙の下端までカバーする世界初の大気再解析データ「JAWARA」を公開~
図2:北半球高緯度(北緯70度から80度の平均)の東西平均気温(T)、赤道域(南緯10度から北緯10度の平均)の東西平均東西風(U)の2004年9月~2023年12月の時間高度断面図。
それぞれ上側がJAWARA、下側が最も高高度までカバーしている既存の再解析データ(MERRA-2)(注9)

関連情報

JAWARAのデータは、国立極地研究所のサーバーにて公開されており、下記サイトから取得できます。
https://jawara.nipr.ac.jp

「プレスリリース①冬季成層圏の「深い循環」の3次元構造を解明」(2022/02/07)
https://www.s.u-tokyo.ac.jp/ja/press/2022/7690/

「プレスリリース②成層圏突然昇温時の大気重力波の詳細シミュレーションと可視化に成功
―謎めいた大気重力波の長い旅路が意味するものとは?―」(2022/10/05)
https://www.s.u-tokyo.ac.jp/ja/info/8097/

論文情報
雑誌名
Progress in Earth and Planetary Science (PEPS)論文タイトル
The JAGUAR-DAS whole neutral atmosphere reanalysis: JAWARA

著者
Dai Koshin, Kaoru Sato*, Shingo Watanabe, and Kazuyuki Miyazaki
(*責任著者)

DOI番号
10.1186/s40645-024-00674-3

研究助成

本研究は、JST「CREST(課題番号JPMJCR1663)」、科研費「基盤研究A(一般)(課題番号:JP22H00169)」支援により主に実施されました。再解析データ作成は海洋研究開発機構のData Analyzer (DA) system and Earth Simulator (ES)で行われました。

用語解説

注1  全大気
地上から高度約110kmにわたるよく混合された大気。ここでは酸素と窒素の混合比がほぼ一定である。ほとんど電離していないので中性大気とも呼ぶ。

注2  再解析データ
観測データを数値モデルで一貫的に解析し、過去の大気状態を詳細に再現したデータ。

注3  データ同化システム
観測データを数値モデルに統合し、現実に近い大気状態を再現する技術。

注4  季節予報のリードタイム
季節予報が有効な範囲の先行期間。予報の精度を保ちながら、どれだけ先の気象を予測できるかを示す指標。

注5  JAGUAR-DAS
Upper Atmosphere Research-Data Assimilation Systemの略。ジャガーダスと発音する。

注6  JAWARA
JAGUAR-DAS Whole neutral Atmosphere Reanalysisの略。ヤワラと発音する。

注7  宇宙天気
地球周辺の宇宙環境に生じる電磁気・プラズマ擾乱と呼ばれる激しい嵐。人工衛星、通信システムに及ぼす。

注8  中層大気
地球大気のうち、高度約10~110kmに位置する領域で、成層圏、中間圏、下部熱圏を含む。

注9  MERRA-2(Modern-Era Retrospective Analysis for Research and Applications, Version 2)
NASAが提供する再解析データセット。

1702地球物理及び地球化学
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