2025-01-10 国立天文台
アンドロメダ銀河(M31)の領域にある天体をPFSで観測したデータの一例。左側は、HSCで取得されたアンドロメダ銀河の画像(クレジット:NAOJ)に、個々の天体を観測すべく配置したPFSのファイバーの位置を丸(研究対象の天体)、四角、三角(較正のための星と空)で示しています(色は4台ある分光器のどれで観測が行われたかを示しています)。右側は、実際に観測した天体の拡大画像とファイバーを通して取得されたスペクトルの例を示しています。なお、M31の下側に示されている水色の長方形は、Keck望遠鏡で運用されている多天体分光器DEIMOSが一度に見込める視野領域を示しています。(クレジット:PFS Project/Kavli IPMU/NAOJ) 画像(4.5MB)
すばる望遠鏡に、特殊な「複眼」が新たに装備されました。約2400個に及ぶ「目」を、広大なすばる望遠鏡の主焦点の視野に散りばめ、多数の天体からやって来た光を同時にプリズムで捉え、色に分けて観測します。これほどの探査性能を備えた8メートル級の望遠鏡は、すばる望遠鏡が世界で唯一となります。宇宙の成り立ちと銀河の生い立ちを精密に理解するために不可欠なこの観測装置が、いよいよ2025年2月から本格始動します。
超広視野多天体分光器(Prime Focus Spectrograph、以下PFS)は、すばる望遠鏡で運用される旗艦装置であり、「すばる2 」時代の主力装置の一つです。直径およそ1.3度にわたる主焦点の広大な視野内に、約2400本の光ファイバーを配置し、それぞれを観測したい天体の方に向けて、多数の天体からの光を同時に分光装置に取り込みます。そして、可視光線全域と近赤外線の一部(380ナノメートルから1260ナノメートル)にわたる波長域のスペクトルを同時に取得します。この非常に野心的な装置PFSの稼働によって、すばる望遠鏡の分光観測の効率が飛躍的に向上することになります。PFSの開発は、日本をはじめ、アメリカ、フランス、ブラジル、台湾、ドイツ、中国の20以上の研究機関による国際コラボレーションにより10数年にわたって推進されました。国立天文台は、装置開発や全体の統括に参画するとともに、装置の受け入れと運用を行う機関として中心的な役割を担っています。コロナ禍のたいへんな時期も乗り越えて完成したPFSが、いよいよ始動します。
この強力な観測装置を用いて、国際チームは、広大な宇宙における数百万個の銀河の分光観測に挑みます。時間と空間に広がる宇宙の地図を作成し、加速する宇宙膨張を操るダークエネルギーの性質を探ります。国勢調査のように多数の銀河を分光観測して、138億年の宇宙史における銀河の形成過程を明らかにします。さらに、天の川銀河の数十万個の星の分光観測から星の運動の様子を調べ、重力の強さを明らかにし、ダークマターの性質を探求します。このようにPFSは、138億年の宇宙史におけるダークエネルギー、ダークマターの役割や、銀河の形成を観測的に調べることを可能にするのです。