2024-11-26 東京大学
発表のポイント
◆ 微細シンチレータアレイと微細高感度光センサアレイを組み合わせたマルチカラーフォトンカウンティングCT撮像技術を確立した。
◆ 従来型のマルチカラーフォトンカウンティングCTと比較し、電荷広がりを抑えた高解像・エネルギー分解撮像が可能となった。
◆ 従来型CTの低被ばく化や造影剤の撮像、物質同定など、CTの新たな応用が期待される。
新たなマルチカラーX線CT撮像
概要
東京大学大学院工学系研究科の島添健次准教授と、東北大学金属材料研究所の鎌田圭准教授らによる研究グループは、ダイヤトレンド株式会社、ブルーノ・ケスラー財団(Fondazione Bruno Kessler、イタリア)と協力し新しいタイプのマルチカラーX線CT(Computed Tomography)の技術を確立しました。
本研究ではシンチレータアレイおよびSiPMアレイ(注1、2)を用いた微細X線エネルギー計測技術を開発することで、新たなマルチカラーX線CT技術の確立に成功しました(図1)。先行研究と比較して、実用的なサイズである250 µm画素サイズで十分なエネルギー分解能を得られることを確認しました。また、従来の化合物半導体を用いた検出器と比べ、電荷広がりが抑制できるといった利点もあります。今回の成果は今後、X線CT技術の低被ばく化や物質同定などの新たな医学診断に役立つことが期待されます。
本研究成果は、2024年11月25日(英国時間)に英国科学誌「Communications Engineering」のオンライン版に掲載されました。
図1:開発した微細ピクセルセンサ(論文より転載)
(a)高感度光センサアレイ、(b)微細シンチレータアレイ(左)接合マルチカラーフォトンカウンティングセンサ(右)。
発表内容
撮像の低被ばく化や画像の高精細化が期待されているこれまでのマルチカラーフォトンカウンティングCT(注3)用の検出器にはCZT(テルル化亜鉛カドミウム)やCdTe(テルル化カドミウム)などの化合物半導体が利用されてきました。しかし化合物半導体は材料の選択肢が少なく、密度が5.85g/cm3程度であり、高エネルギーX線には向かない、電荷広がりのためにエネルギー情報を最大限活用できないなどの問題点がありました。またこれらを解決するためシンチレータ+光センサ型の方式(間接変換型)も検討されてきましたが、技術的な限界から画素サイズが1 mm程度と実用的な臨床で用いられる物よりも大きい、エネルギー分解能が十分でないという問題がありました。
この度、東京大学を中心とする本研究グループは、東北大学で開発した高い発光量をもつGAGG(Gadolinium Aluminum Gallium Garnet)/GFAG(Gadolinium Fine Aluminum Gallate)シンチレータの微細ピクセルアレイ化およびブルーノ・ケスラー財団で新たに開発した高い光子感度を有するSiPMアレイの微細ピクセル化と高度な接合に成功し、ダイヤトレンド株式会社の協力によりシステム化することで、世界で初めて実用的な250 µm画素サイズでカラー撮像を可能とする良好なエネルギー分解能(図2)を実証し、マルチカラーフォトンカウンティングCTへの応用が可能であることを示しました。また、空間分解能も2.9 LP/mm @ MTF(modulation transfer function)10%程度と高い分解能を実現可能なことが確認されました(図3)。
本研究成果により、実用的な画素サイズをもつ間接変換型マルチカラーフォトンカウンティングCTへの利用可能性が実証されました。今後、単純撮像や造影剤撮像におけるX線CTの低被ばく化や、生体内の物質識別能力をもった診断技術の実現といった社会への波及効果が期待されます。また、さらに高エネルギーのX線撮像技術への応用展開など、関連する研究の発展にも貢献すると考えられます。
ダイヤトレンド株式会社は、今後本技術を活用して、今まで検査困難であったリチウムイオン電池の微細な不良や、食品への異物混入を検出する、画期的な非破壊検査装置の実用化を目指します。
図2:画素サイズ250 µmのマルチカラーフォトンカウンティングCT検出器のエネルギー分解能(a)と線形表示(b)、単ピクセルとアレイピクセルの比較(c)。(論文より転載)
図3:開発したマルチカラーフォトンカウンティングCT検出器の空間分解能(論文より転載)
(a)X線チャート撮像、 (b) MTF (modulation transfer function)による空間分解能。
発表者・研究者等情報
東京大学 大学院工学系研究科
島添 健次 准教授
東北大学 金属材料研究所
鎌田 圭 准教授
ダイヤトレンド株式会社 X線イメージセンサ開発部
坂本 恭平
論文情報
雑誌名:Communications Engineering
題 名:An energy-resolving photon-counting X-ray detector for computed tomography combining silicon-photomultiplier arrays and scintillation crystals
著者名:Kenji Shimazoe*, Donghwan Kim, Moh Hamdan, Yosuke Kobayashi, Kei Kamada, Masao Yoshino, Yasuhiro Shoji, Kyohei Sakamoto, Fabio Acerbi, Alberto Gola
DOI:10.1038/s44172-024-00313-1
URL:https://www.nature.com/articles/s44172-024-00313-1
用語解説
(注1)シンチレータ:
X線などの放射線があたると発光し光を放出する素子のこと。
(注2)SiPM(シリコンフォトマルチプライヤー):
半導体技術で作られた1光子を検出可能な高感度光センサのこと。
(注3)マルチカラーフォトンカウンティングCT:
複数のエネルギー(波長)閾値をもつマルチカラー撮像が可能なCT(Computed Tomography)のこと。
プレスリリース本文:PDFファイル
Communications Engineering:https://www.nature.com/articles/s44172-024-00313-1