ドローン×AIで進化する作物計測技術~ダイズのバイオマスを効率的に計測する~

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2024-09-03 東京大学

発表のポイント
  • ドローンとAIを活用し、ダイズの構造を非破壊で短時間に推定できる深層学習モデルを開発し、従来の手法では非破壊測定が難しかった植物の重さなども推定可能としました。
  • ドローン空撮画像と3次元情報を用い、従来の経験的尺度の背後にある植物の特徴を深層学習で抽出。経験的尺度と同様に遺伝的支配を受けており、新品種開発のための指標としても利用できます。
  • この技術は、様々な作物に応用可能です。新品種育成や栽培管理の効率化を促進し、農業の生産性向上と持続可能な農業への貢献が期待されます。

ドローン×AIで進化する作物計測技術~ダイズのバイオマスを効率的に計測する~
先端研究の裏にある人手による計測を、ドローン✕AIで大幅に効率化

発表概要

東京大学大学院農学生命科学研究科の岩田洋佳教授らの研究グループは、ドローンに搭載されたカメラで収集したデータと機械学習を組み合わせ、作物の特徴を効率的に推定する新技術を開発しました。ドローンによる空撮画像と復元された植物体の3次元情報を用い、ダイズの高さ、重さ、茎の長さ、枝の数、節の数を推定できる深層学習(注1)モデルを構築しました。このモデルにより、従来の方法では非破壊での測定が困難だった植物の重さも非破壊で推定可能となりました。さらに、深層学習モデルが画像から抽出する情報(=中間層出力:注2)は、これまで経験的に用いてきた特性と密接に関連するとともに遺伝的制御を受けていることも確認され、新品種育成のための評価指標としての利用可能性が示されました。この技術は、ダイズに限らず他の作物にも適用でき、開花期や収穫量の予測にも応用できるため、農業の効率化や生産性向上に寄与することが期待されます(図1)。


図1:これまで手計測で破壊的に計測していた作物の特性をドローンとAIで効率的に調査可能に

発表内容

農業といえば、重労働のイメージを抱く人も多いかもしれません。しかし、近年では自動走行トラクターやICT技術を駆使したスマート農業が進展し、農業は今、大きな変革の時を迎えています。それでも、新たな栽培技術や品種を開発するための研究では、依然として厳しい環境下での作業が必要です。特に、作物がどのように成長し、環境に適応するかを評価し記録する作業は、多大な時間と労力を要しますが、欠かすことのできない重要なプロセスです。
作物の成長を正確に把握するためには、高さ、枝の数、葉の枚数、そして植物体全体の重さといった多くのデータが必要です。中でも植物体の重さは、生育状況や収穫量を予測する上で非常に重要な指標です。しかし、従来の方法では植物を刈り取ることでしか測定できず、例えば、同一個体の成長過程を追跡することは困難でした。そのため、これらのデータを手作業で集めることは、研究の進展にとって大きなボトルネックとなっていました。
こうした課題を解決するために、私たちはドローンに搭載されたカメラで収集されたデータを基に、機械学習を用いて作物の特徴を推定する新しい技術を開発しました。ドローンによる空撮画像とそこから復元された植物体の3次元情報を入力として、ダイズの構造を規定する5つの特徴(高さ、重さ、茎の長さ、枝の数、節の数)を予測できるように深層学習器に学習させることで、短時間かつ少ない労力でこれらの特徴を推定できるモデルを構築しました。このモデルを使用することで、従来の手法では非破壊での計測が難しかった植物の重さも推定できるようになりました(図2)。
さらに、本研究グループは開発した深層学習器が画像からどのような情報を抽出し、どのように作物の特徴を推定しているのかを解析しました。その結果、深層学習器が抽出した情報が、本研究グループがこれまで経験的に用いてきた植物の器官の長さや重さ、数と密接に関連していることが明らかになりました。また、深層学習器が抽出した情報が、植物体の高さや重さと同様に遺伝的な制御を受けていることも確認され、新品種の育成において、遺伝的に優れた系統を選抜するための新たな評価指標として利用できる可能性が示されました(図3)。
この技術は、ダイズに限らず他の作物にも簡単に応用できるため、農業全体に大きなインパクトを与える可能性があります。さらに、開花期や収穫量の予測など、栽培管理や収益予測に直結する作物の特性の推定に応用できれば、農業における意思決定の精度を向上させられると期待されます。本研究成果が研究現場で利用されることで、新たな栽培管理技術や新しい品種の開発が加速し、農業の効率化や生産性向上に寄与することが期待されます。


図2:ドローン取得情報からダイズの特徴を深層学習モデルで推定する過程と精度
本研究で構築された深層学習モデルは、入力(RGB画像とDSM(注3)などのドローンを用いて得られる情報)から作物の特徴の推定に必要な情報を抽出し、それに基づいて特徴の値を出力する。モデルの精度を手計測の値と推定値の相関係数をもとに評価した結果、高い精度で作物の特徴を推定できることが分かった。


図3:深層学習で抽出された情報と手計測された形質(注4)に基づくゲノミック予測(注5)の精度
深層学習モデルの中間層出力の主成分(注6)(PC1-3)と手計測で得られた特徴(乾物重、主茎長、節数、枝数、草高)に基づきゲノム情報から予測を行った結果、深層学習モデルが抽出した情報も予測可能であり、新たな評価基準としての利用可能性が示された。

発表者

東京大学大学院農学生命科学研究科
岡田 眞銀 博士課程
Clément Barras(クレモン バラス)研究当時:特別研究学生
現:Synspective Inc.
戸田 悠介 研究当時:特任研究員
現:農研機構 農業環境研究部門 任期付研究員
濱崎 甲資 研究当時:博士課程
現:理化学研究所 革新知能統合研究センター 基礎科学特別研究員
大森 良弘 准教授
髙梨 秀樹 特任准教授
藤原 徹 教授
岩田 洋佳 教授

鳥取大学乾燥地研究センター
山崎 裕司 研究当時:特命助教
現:東京大学大学院農学生命科学研究科 助教
辻本 壽 研究当時:教授
現:鳥取大学 国際乾燥地研究教育機構 特任教授

名古屋大学 大学院生命農学研究科
髙橋 宏和 准教授
中園 幹生 教授

筑波大学 T-PIRC
津田 麻衣 研究当時:助教
現:東洋大学 食環境科学部 食環境科学科 講師

理化学研究所 環境資源科学研究センター 代謝システム研究チーム
平井 優美 チームリーダー

農研機構 作物研究部門
加賀 秋人 主席研究員

論文情報
雑誌
Plant Phenomics
題名
High-throughput Phenotyping of Soybean Biomass: Conventional Trait Estimation and Novel Latent Feature Extraction Using UAV Remote Sensing and Deep Learning Models
著者
Mashiro Okada, Clément Barras, Yusuke Toda, Kosuke Hamazaki, Yoshihiro Ohmori, Yuji Yamasaki, Hirokazu Takahashi, Hideki Takanashi, Mai Tsuda, Masami Yokota Hirai, Hisashi Tsujimoto, Akito Kaga, Mikio Nakazono, Toru Fujiwara, Hiroyoshi Iwata*
DOI
10.34133/plantphenomics.0244
URL
https://spj.science.org/doi/10.34133/plantphenomics.0244
研究助成

本研究は、JST CREST「植物環境応答のモデル化に基づく発展型ゲノミックセレクションシステムの開発(課題番号:JPMJCR16O2)」、JSPS科研費「強化学習に基づく『先読み』を用いた小規模・高効率ゲノミック選抜法の開発と実装(課題番号:JP22H02306)」の支援を受けて行われました。

用語解説

注1 深層学習
画像や数値、または画像に含まれる物の名前など、異なる種類のデータ間に存在するルールを推定する機械学習の一手法である。特徴として、モデルは多層構造を持つ。

注2 中間層出力
入力データから出力値を推定するために、モデルが自動的に抽出・選択した特徴のことを指す。多層構造を持つモデル内部では、高次元の入力データから出力を推定する過程で、徐々に出力と関連が低い情報が取り除かれていく。最終的に、出力を推定するために用いられる情報は、入力データ内の重要な情報が凝縮されたものと考えられる。

注3 DSM
Digital Surface Model(数値表層モデル の略。ドローン空撮によって撮影された画像から圃場全体の画像を生成する過程では、専用のソフトウェアを用いて圃場の三次元モデルから生成される。DSMは三次元モデルにより推定された高さ情報を保持するモデル。

注4 形質
作物がもつ収穫量、開花時期、花の色、重さ、高さといった固有の特徴を指す。

注5 ゲノミック予測
統計モデルを用いて、収量や重さなど作物が持つ特徴をゲノム情報から予測する手法。作物の栽培を行わなくても、有望な個体や系統を予測して選抜できるため、育種の高速化・効率化に貢献する。

注6 主成分(分析)
多次元データを圧縮するために用いられる手法。データのばらつき(分散 に基づいて高次元空間内で次元軸を再定義することができる。

問い合わせ先

(研究内容については発表者にお問合せください)
東京大学 大学院農学生命科学研究科 生産・環境生物学専攻
教授 岩田 洋佳(いわた ひろよし)

〈報道に関する問合せ〉
東京大学 大学院農学生命科学研究科・農学部
事務部 総務課総務チーム 総務・広報情報担当(広報情報担当)

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