次世代エレクトロニクスへの展開に期待!特殊な磁石の磁区パターンを光で可視化

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2024-08-22 大阪公立大学

ポイント

◇擬一次元量子反強磁性体1の磁区2を、光学的手法で簡便かつ短時間で可視化する方法を開発。
◇電場を与えると磁壁3が移動することが判明。
◇磁区パターンの可視化および磁壁の制御は、反強磁性体を用いた次世代エレクトロニクスに展開できる可能性。

概要

反強磁性体、中でも擬一次元量子反強磁性体は、次世代エレクトロニクスへの応用が期待されるため、さまざまな研究が行われています。しかし、反強磁性体の磁区観察4において擬一次元量子反強磁性体は磁気転移温度が低く、かつスピンの秩序化成分が小さいことから従来の手法5での観察は難しいと予想され、これまで報告されていませんでした。

大阪公立大学大学院工学研究科の木村 健太准教授(東京大学物性研究所客員准教授を兼任)、東京大学大学院新領域創成科学研究科の諸見里 真人大学院生、三宅 岳志大学院生(研究当時、東京大学物性研究所)、東京大学物性研究所の益田 隆嗣教授、東京大学大学院工学系研究科の木村 剛教授らの研究グループは、擬一次元量子反強磁性体BaCu2Si2O7の方向二色性6が現れる光の入射方向や波長などの条件を調べ、それに基づいて光学顕微鏡で観察したところ、明と暗の領域がそれぞれ異なる磁区に対応していることが分かりました。また、一定の外部磁場を与えた状態で電場を与えると、磁壁が移動することが判明しました。今回の観察手法をさまざまな擬一次元量子反強磁性体に適用することで、新たな知見が得られると期待されます。

本研究成果は、国際学術誌「Physical Review Letters」に2024年8月22日(米国東部夏時間)にオンライン掲載されました。

次世代エレクトロニクスへの展開に期待!特殊な磁石の磁区パターンを光で可視化
図1 方向二色性による反強磁性磁区の可視化の概念図。磁壁で隔てられた磁区Iと磁区IIは異なる光透過率をもつため、明暗のコントラストとして可視化できる。


「百聞は一見にしかず」「Seeing is believing」といったことわざがあるように、物事を理解する基本は直接視ることだと思います。その意味で、これまで謎に包まれていた擬一次元量子反強磁性体の磁区を、光学顕微鏡という身近な装置で可視化できたことが一番うれしいです。本研究をきっかけに、擬一次元量子反強磁性体の磁区形成機構に迫る手掛かりが得られると期待しています。
木村 健太准教授

掲載誌情報

【発表雑誌】Physical Review Letters
【論文名】Imaging and control of magnetic domains in a quasi-one-dimensional quantum antiferromagnet BaCu2Si2O7
【著者】Masato Moromizato, Takeshi Miyake, Takatsugu Masuda, Tsuyoshi Kimura, and Kenta Kimura* (*責任著者)
【掲載URL】
https://doi.org/10.1103/PhysRevLett.133.086701

資金情報

本研究は、科学研究費助成事業 新学術領域研究「量子液晶の物性科学」(JP19H05823)、科学研究費助成事業(JP19H01847、JP21H04436、JP21H04988、JP24K00575)、文部科学省科学技術人材育成費補助金(卓越研究員事業)、村田学術振興財団、池谷科学技術振興財団の助成のもと行われました。

用語解説

※1 擬一次元量子反強磁性体:小さなスピン量子数(※7)をもった磁性イオンがチェーン状に並んだ反強磁性体。実際の物質ではチェーン間にも相互作用があるため、先頭に「擬」の文字が付される。

※2 磁区:磁性体の内部は一般に、スピンの向きが互いに180度反転した2種類の領域に分かれている。この領域のことを磁区と呼ぶ。よく知られている例として、強磁性体における強磁性磁区(磁化の向きが互い反対の領域)が挙げられる。

※3 磁壁:異なる磁区を隔てる境界のこと。

※4 反強磁性体の磁区観察:反強磁性体は正味の磁化をもたないため、磁気光学効果による磁区の可視化は一般にできない。そのため、反強磁性磁区の観察には、高強度レーザーを用いた非線形光学イメージングや放射光を用いた磁気共鳴回折イメージング、漏洩磁場に敏感な探針を走査する走査型プローブ顕微鏡などが用いられる。

※5 従来の手法:マクロな磁化をもつ強磁性体の磁区はファラデー効果やカー効果といった磁気光学効果を用いることで比較的容易に可視化できる。

※6 方向二色性:磁性体において発現する特殊な光学現象。光の入射方向あるいは磁性体のスピンの向きを反転すると、物質の透過率(あるいは吸収係数)が変化する。この現象が現れるためには、物質の空間反転対称性と時間反転対称性が共に破れている必要がある。

※7 スピン量子数:スピン角運動量の大きさを特徴づける量子数で、素粒子の種類ごとに決まった値をとる。電子のスピン量子数は1/2である。磁性イオンに複数の不対電子があるとき、スピン量子数は合成されて1, 3/2, 2,…といった値を取りうる。この合成スピン量子数が各磁性イオンのもつスピン量子数といえる。磁性イオンのスピン量子数が小さいほど、スピンの量子揺らぎの効果は顕在化しやすい。

研究内容に関する問い合わせ先

大阪公立大学大学院 工学研究科
准教授 木村 健太(きむら けんた)

報道に関する問い合わせ先

大阪公立大学 広報課
担当:谷

リリース全文(PDF文書:626.8KB)

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