バイオミネラル液晶から形成される鮮やかな構造色を示すフォトニック材料の開発に成功

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2024-07-12 東京大学

発表のポイント

  •  強靭なサメの歯の無機成分であるフルオロアパタイトを主成分とした棒状ナノハイブリッドを用いて、構造色を示すフォトニック材料の開発に成功しました。
  •  棒状ナノハイブリットは水中で2次元に自己配列する液晶性を示し、液晶性に由来した青から赤まで鮮やかに輝く構造色を示しました。
  •  微量タンパク質検知センサーや光学デバイスだけでなく、人工骨やインプラントへの応用 などバイオや医療分野での応用が期待されます。

バイオミネラル液晶から形成される鮮やかな構造色を示すフォトニック材料の開発に成功

フルオロアパタイトナノハイブリッドからなる構造色を示すフォトニック材料

概要

東京大学大学院工学系研究科の加藤利喜特任研究員(研究当時)、三上喬弘大学院生、加藤隆史教授らによる研究グループは、強靭なサメの歯の無機成分であるフルオロアパタイト(注1)を主成分とした構造色(注2)を示すフォトニック材料の開発に成功しました。材料合成のコンセプトは、生物の歯や骨の形成機構における天然タンパク質の働きに着想した有機高分子の複合化であり、それによりフルオロアパタイトからなるナノサイズの棒状ハイブリッド(注3)を室温で合成することができました。この棒状ナノハイブリッドは水中で自発的に2次元に配向する液晶性を有しています。これを自己組織化によって配列させることで、タマムシやクジャクの羽のような鮮やかな構造色の発現に成功しました。発色範囲は青から赤までを網羅し、高い反射率を示しました。さらにその構造色をゲル(注4)中に固定化することも可能であり、引張や圧縮といった外部刺激に応じた色の変化が観察されました。

本研究において開発された構造色を示すフルオロアパタイトナノハイブリッドは、室温の水中で合成でき、また、溶解しにくい安定な化合物であるため、環境低負荷な地球にやさしい新素材です。さらに今後は、微量タンパク質検知センサーや光学デバイスだけでなく、人工骨やインプラントへの応用などバイオや医療分野での応用が期待されます。

本研究成果は2024年6月26日付でドイツ国際科学誌「Advanced Materials」のEarly Viewとして公開されました。

発表内容

〈研究の背景〉
自然界にはクジャクやタマムシ、モルフォ蝶などの鮮やかな発色を示す生物が多く存在しています。そうした発色は体表にあるナノ構造における光の散乱・反射に由来しています。構造由来の発色であるため色素や顔料とは異なり退色することがなく、SDGsやカーボンニュートラルの観点から注目されています。人工的にそのナノ構造を作り、鮮やかな色材としてだけでなく、光を操るツールとするためのフォトニック材料が盛んに研究されてきています。

一方で、棒状や板状粒子が水中で自発的に配向することで、ナノ構造をもつ液晶を形成します。特定の液晶材料は、ナノ構造に基づく構造色を示します。この液晶からなるフォトニック材料は従来の固体材料とは異なり流動性があるため、粒子の配向制御や外部からの刺激により変化を引き起こすことができ、またこの材料を塗料のように塗布することも可能です。棒状粒子は板状粒子に比べて配向制御が容易である利点がありながら、これまでのこのような構造色を示す液晶ナノ構造は1次元的に積み重なった構造が多く、応用が限定されていました。2次元に集合した液晶性フォトニック材料を開発することができれば、粒子の配向制御により、光をリアルタイムで自在に操ることができる可能性があります。

〈研究の内容〉
本研究グループはサイズの揃った棒状のフルオロアパタイトナノハイブリッドを合成し、2次元に集合させることで、虹色に輝くフォトニック材料を開発しました(図1)。ナノハイブリッドは生物が骨や歯を形成するメカニズムであるバイオミネラリゼーション(注5)に着想を得て合成しました(関連情報、プレスリリース①)。粒子の形状観察と構造解析は走査型電子顕微鏡と透過型電子顕微鏡(注6)を活用して行いました。各電子顕微鏡は文部科学省マテリアル先端リサーチインフラ事業で東京大学に設置されている装置を利用しました。合成条件を最適化することによって、長さが886から600 nm、直径が228から129 nmで非常にサイズ分布の狭いフルオロアパタイトナノハイブリッドを合成しました。また、その粒子は直径5 nmの小さなフルオロアパタイトの微結晶の集合体であることを明らかにしました。

fig02
図1:フルオロアパタイトナノハイブリッドの電子顕微鏡像
(a)走査型電子顕微鏡像。(b)透過型電子顕微鏡像。(c)フルオロアパタイトナノハイブリッドの長さと直径の分布。


フルオロアパタイトナノハイブリッド自体は歯のような白色を示しますが、特定の濃度に調製することで、液晶を形成し、青、緑、黄、赤などの発色を示しました(図2)。非常に鮮やかな発色を示し、その反射率は50%以上にも及びました。また、クジャクやタマムシで見られる構造色のように、見る角度によって色が変わる様子が観察されました。

fig03
図2:構造色を示すフルオロアパタイトナノハイブリッド
(左)構造色の写真。(右)緑の構造色の反射率測定。


この構造色を示すフルオロアパタイトナノハイブリッドを高分子ネットワークでできたゲル中に閉じ込めて、動的な構造色を示すソフトマテリアルを得ることにも成功しました(図3)。合成したゲルは鮮やかな構造色を維持したまま、見る角度によって色が変化する性質を示しました。このゲルに圧縮を加えると、フルオロアパタイトナノハイブリッドが形成したナノ構造の変化に起因した色の変化が観察されました。この圧縮による色変化は、10回に及ぶ変形でも繰り返し観察することができました。また、電子顕微鏡観察によって、高分子ネットワークが粒子同士を緻密に繋ぎ合わせている様子を明らかにしました。

fig04
図3:フルオロアパタイトナノハイブリッドを閉じ込めたゲル
(a)異なる角度から観察したゲルの写真。(b)ゲルを圧縮した模式図とその写真。(c)ゲルの走査型電子顕微鏡像。

〈今後の展望〉
本研究で開発した水とフルオロアパタイトナノハイブリッドからなる構造色を示すフォトニック材料は、地球にやさしい色材としてだけでなく、微量タンパク質検知センサー、光を操るための光学材料、人工骨やインプラントなどのバイオ応用など、幅広い分野での実用化が期待されます。

〇関連情報:
「プレスリリース①人間の歯や骨の成分のヒドロキシアパタイトの液晶化による配列制御に世界で初めて成功 ~次世代バイオマテリアルとして人工骨、人工歯根などへの応用が期待~」(2018/02/09)

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発表者・研究者等情報

東京大学 大学院工学系研究科
加藤 隆史 教授
加藤 利喜 研究当時:特任研究員
現:岡山大学 異分野基礎科学研究所 特任助教
三上 喬弘 博士課程(日本学術振興会特別研究員)

論文情報

雑誌名:Advanced Materials
題 名:2D Photonic Colloidal Liquid Crystals Composed of Self-Assembled Rod-Shaped Particles
著者名:Riki Kato, Takahiro Mikami, Takashi Kato*
DOI10.1002/adma.202404396
URLhttps://doi.org/10.1002/adma.202404396

研究助成

本研究は、日本学術振興会(JSPS)科研費新学術領域研究「水圏機能材料:環境に調和・応答するマテリアル構築学の創成(領域番号:6104)」(課題番号:JP19H05714、JP19H05715)、JSPS科研費若手研究(課題番号:JP22K14562)、文部科学省「マテリアル先端リサーチインフラ」事業(課題番号:JPMXP1222UT0036)の支援により実施されました。

用語解説

(注1)フルオロアパタイト:
組成式Ca10(PO4)6F2で表されるリン酸カルシウム無機結晶の1つ。自然界では、サメの歯などにおいて見られます。ヒトの歯や骨を構成する主要な無機成分であるヒドロキシアパタイト(組成式Ca10(PO4)6(OH)2)がフッ素置換された構造をもちます。生体親和性が高く、ヒドロキシアパタイトよりも耐酸性に優れます。

(注2)構造色:
可視光の吸収によらず、光の波長程度のナノ構造によって発色する現象です。自然界ではクジャク、タマムシ、オパールなどで構造色が見られることが知られています。

(注3)ハイブリッド:
異なる2つ以上の要素を「組み合わせる」ことをいいます。本研究におけるハイブリッドは、異なる性質をもつ有機物と無機物を緻密に相互作用させることで得られる複合体です。ナノレベルで複合化した材料を特にナノハイブリッドと呼びます。

(注4)ゲル:
網目構造をもち、その網目が溶媒を含んで膨潤した固体です。本研究におけるゲルは、化学結合によって架橋された高分子網目構造に水が閉じ込められたヒドロゲルです。

(注5)バイオミネラリゼーション:
自然界における貝殻真珠層や骨といった生体硬組織(バイオミネラル)の形成メカニズムです。タンパク質などの生体高分子と無機イオンとの相互作用によって結晶成長が緻密に制御されていると考えられています。

(注6)電子顕微鏡:
電子線を用いて試料の拡大像を得る装置です。走査型電子顕微鏡では、サブマイクロスケールの試料表面の観察が可能です。透過型電子顕微鏡では、ナノスケール・原子スケールでの試料内部の観察が可能です。

プレスリリース本文:PDFファイル
Advanced Materials:https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/adma.202404396

0501セラミックス及び無機化学製品
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