2024-04-30 東北大学
材料科学高等研究所/多元物質科学研究所 助教 吉井丈晴
【発表のポイント】
- カーボン中の窒素をppmレベルの高感度で全量測定できる超高温昇温脱離(TPD)装置(注1)を開発しました。
- 本装置により、カーボンにドープ(添加)された窒素の全量だけでなく、その化学結合状態を高精度かつ超高感度で決定しました。
- 次世代の有望なエネルギー材料である窒素ドープカーボン(注2)の開発を加速させることが期待されます。
【概要】
窒素ドープカーボンは、燃料電池の白金代替触媒や各種電池の部材として有望であり、次世代のエネルギー材料として注目されています。カーボン材料中において、ドーパント(不純物)である窒素の化学結合状態(注3)は性能に大きな影響を与えるため、精密な定性・定量分析法の確立が極めて重要です。従来の手法としてCHN元素分析法(注4)やX線光電子分光法(XPS)(注5)があります。しかし前者は窒素の化学結合状態を判別できず、後者は化学結合状態を分析できるものの表面近傍の情報しか得られない欠点がありました。また、両方とも分析感度は1,000 ppm程度が限界でした。
東北大学多元物質科学研究所の吉井丈晴助教と同大学材料科学高等研究所(WPI-AIMR)の西原洋知教授、そしてカナダ・ブリティッシュコロンビア大学のRobert Karoly Szilagyi准教授らからなる研究グループは、窒素ドープカーボンの新たな分析手法として、2,100℃に達する超高温TPD法を開発しました。今回開発したTPD法は従来の手法よりも2桁高い感度をもち、窒素を10 ppmレベルで定量することができ、材料内部に存在する窒素も精密に定性・定量分析することが可能です。
本研究成果は2024年4月29日(米国東部時間)、化学分野の専門誌Chemに掲載されました。
図1. 超高温TPD装置の模式図
【用語解説】
注1.昇温脱離(TPD)装置
試料を加熱し、脱離した化学物質を質量分析計により同定する分析手法(Temperature Programmed Desorption法:TPD法)を用いる装置。無機材料の分析に広く用いられる。
注2.窒素ドープカーボン
炭素(C)素材の内部に窒素(N)をドープ(添加)した物質。高価で資源に乏しい白金(Pt)を用いなくても高い触媒としての性能を示す。ありふれたCとNだけで作ることができ、燃料電池のカソード(正極)で酸素を還元する白金代替触媒などとして注目されている。アルカリ性、酸性の両方の電解質に対して高い耐性を示す。
注3.窒素の化学結合状態
カーボン材料中に窒素を導入すると、単一の化学種でなく、様々な結合状態の化学種が混在する。代表的な化学結合状態として、図2(b)に示すような、カーボン材料端部に5員環で導入されたピロール型窒素、6員環で導入されたピリジン型窒素や、カーボン内部に埋め込まれたグラファイト型窒素がある。
注4.CHN元素分析法
試料中の炭素(C)、水素(H)、窒素(N)を定量する分析法。試料を酸素雰囲気下で燃焼し、発生したガスを還元することで生じる二酸化炭素(CO2)、水(H2O)、窒素(N2)を定量することで、試料中のC、H、N含有量に換算する。
注5.X線光電子分光法(XPS)
試料にX線を照射することで放出される電子(光電子)の運動エネルギーを測定し、試料に存在する元素の種類・存在量および化学結合状態を解析する手法。表面敏感な分析手法であることを特徴とする。
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学多元物質科学研究所
助教 吉井丈晴
(報道に関すること)
東北大学材料科学高等研究所(WPI-AIMR)
広報戦略室