2023-12-26 物質・材料研究機構
NIMSと国際共同研究グループは、電気化学反応における電子とプロトン (水素イオン) の移動機構が電解液中の陽イオンによって制御できることを明らかにしました。
概要
- NIMSとユヴァスキュラ大学 (フィンランド) からなる国際共同研究グループは、電気化学反応における電子とプロトン (水素イオン) の移動機構が電解液中の陽イオンによって制御できることを明らかにしました。本研究成果は、燃料電池や水の電気分解等による水素製造等、様々な電気化学反応で反応選択性を高め、エネルギー変換効率や材料合成効率と経済性との両立に貢献すると期待されます。
- 電気化学反応は一般に電極表面と電解液の界面で進行するため、電極と電解液双方の構造や特性の理解が、反応速度の制御や反応機構の解明に重要です。燃料電池に重要な酸素還元反応では、電解液中のイオンの種類や濃度が反応速度に影響することが知られていますが、詳細な反応経路や反応の選択性への影響は明らかにされていませんでした。
- 今回、国際共同研究チームは、アルカリ性電解液中における白金電極上の酸素還元反応において、電子とプロトンの移動機構が電解液中の陽イオンによって選択的に変わることを初めて明らかにしました。白金電極上の酸素還元反応では、酸素分子が分子骨格を大きく変えるか否かによって「内圏型反応」と「外圏型反応」の2種類の反応経路が存在します。内圏型反応では酸素分子が電極表面に吸着し、分子結合を切って電極と電子を授受し、外圏型反応では電極表面から少し離れた位置で酸素分子への電子移動が起こります。今回、精密電気化学測定と第一原理計算を用いて詳細な分析を行った結果、リチウムイオンを含む電解液は外圏型反応が生じやすい一方で、カリウムイオンやナトリウムイオンを含む電解液は、従来の報告通り内圏型反応が生じやすいことが明らかになりました。この違いは、陽イオンと電極表面や水分子、反応中間体との相互作用に起因していると考えられます。
- 本研究により、酸素還元反応の機構は電解液の組成によっても制御できることがわかりました。これまで電極材料が担っていた反応機構の制御を電解液が行うことでより安価な電極材料の利用を可能にし、さらに電極との相乗効果によってこれまで達成できなかった反応効率や選択性の向上が期待されます。
- 本研究は 、NIMS 若手国際研究センター (ICYS) の久米田 友明 ICYSリサーチフェロー、エネルギー・環境材料研究センター坂牛 健 主幹研究員、ユヴァスキュラ大学からなる国際共同研究グループによって行われました。
- 本研究成果は、2023年11月20日付で、ドイツ化学会誌「Angewandte Chemie International Edition」のオンライン版に掲載されました。
プレスリリース中の図 : 酸素還元反応における内圏型および外圏型電子・プロトン移動の模式図 (赤丸 : 酸素原子、白丸 : 水素原子)
掲載論文
題目 : Cation Determine the Mechanism and Selectivity of Alkaline Oxygen Reduction Reaction on Pt(111)
著者 : Tomoaki Kumeda, Laura Laverdure, Karoliina Honkala, Marko M. Melander, and Ken Sakaushi
雑誌 : Angewandte Chemie International Edition
掲載日時 : 2023年11月20日
DOI : 10.1002/anie.202312841