2023-12-18 物質・材料研究機構,科学技術振興機構
NIMSは、次世代電池として期待されている全固体電池材料におけるリチウムイオン移動の妨げとなるボトルネックを可視化する新しい手法を開発しました。
全固体電池は従来のリチウムイオン電池に使用されていた有機電解液を固体電解質にすることで、より安全で、高いエネルギー密度の実現を目指した次世代蓄電池の1つです。活物質と固体電解質との界面や、固体電解質内の粒子同士の界面(粒界)で生じるリチウムイオン移動の抵抗が問題の1つとしてあげられます。この抵抗は充放電速度の低下や利用可能なエネルギー密度の低下につながります。固体電解質には粒子と粒界が存在しますが、これまではイオン移動速度を平均情報として得る手法しかなく、粒界を特定し、かつ定量的にイオン移動の速さを評価する実験方法はこれまでありませんでした。
今回の報告では、イオンの質量分析から元素の分布を画像化する二次イオン質量分析法(SIMS)を用いて、リチウムの安定同位体である7Li(質量数7、天然存在比92パーセント)中に試料端からイオン交換で導入した6Li(質量数6、天然存在比8パーセント)が拡散する様子を観察することで、固体電解質内の粒界におけるイオン移動(拡散)を可視化・定量化しました。従来の技術では固体電解質内を高速に移動する6Liの分布を画像化し、拡散の速さを定量化することは不可能でした。本研究では、冷却しながら測定するクライオSIMSを用いることで6Liの移動速度を大幅に遅くして、6Liの分布の精密な測定が可能になり、粒界がボトルネックとしてイオン移動を制限している様子を明らかにしました。
本手法は、リチウムイオンの拡散を直接観測できることから、全固体電池内部内に存在するさまざまな界面の中からボトルネックとなる界面を特定し、その原因解明に応用できます。これにより全固体電池の性能向上に貢献することが期待されます。
本研究は、NIMS エネルギー・環境材料研究センター 電池材料分野 電池界面制御グループの長谷川 源 ポスドク研究員、桑田 直明 主幹研究員らの研究チームによって行われました。
本研究成果は、「Journal of Materials Chemistry A」誌にて2023年12月18日にオンライン掲載されます。
本研究の一部は、科学技術振興機構(JST) 先端的低炭素化技術開発 特別重点技術領域「次世代蓄電池」(JPMJAL1301)、科学研究費助成事業 新学術領域研究(JP19H05814)、基盤研究(B)(JP21H02033)の一環として行われました。
<プレスリリース資料>
- 本文 PDF(1.17MB)
<論文タイトル>
- “Visualization and evaluation of lithium diffusion at the grain boundaries in Li0.29La0.57TiO3 solid electrolytes using secondary ion mass spectrometry”
- DOI:10.1039/d3ta05012b
<お問い合わせ先>
<研究に関すること>
桑田 直明(クワタ ナオアキ)
NIMS エネルギー・環境材料研究センター 電池材料分野 電池界面制御グループ 主幹研究員
<JST事業に関すること>
武内 里香(タケウチ リカ)
科学技術振興機構 未来創造研究開発推進部
<報道担当>
NIMS 国際・広報部門 広報室
科学技術振興機構 広報課